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(3)知事と都議が出来る県政ではなくて、牽制とは?(2023.10)

8月の最後の土曜の夕刻、東京駅にやって来た。新幹線改札前で待っていると志乃と美帆の母子が定刻通りにやってくる。
「テテテ」とBGMが聞こえるような小走りでやってきた美帆を抱き上げる。

「ビューンって走るの、新幹線が!」早速、乗車報告会が始まった。志乃と頷き合いながら、京浜東北線のホームへ移動する。
直ぐに列車が入って来て、空いている車両に美帆を真ん中にして座った。

美帆は来春の小学校進学まで新宿の保育園に通う。平日は大森の家に母親の志乃と滞在し、車で新宿の新拠点にモリと翔子と里子と共に移動する。保育園終了後は新宿の拠点へ戻り、モリ達と共に大森へ戻る。週末は横浜に集合する。

9月から学校が再開するモリの子供達と村井家の彩乃は専業主婦となる蛍が一手に請け負う。
知事秘書だった蛍の後任には、県庁総務部に所属していた派遣社員と岡山出身のプルシアンブルー社からのエキスパート派遣社員が穴を埋める。
この岡山出身の社員は、富山県副知事に1日付けで就任する岡山大の農学者が10月中旬の知事選で当選し岡山県知事に11月就任と同時に転属となる予定だ。

横浜と大森、新宿の3拠点体制を防御する布陣を張った。

志乃も破壊力は低いものの競技用ピストルを持っているので、モリが都議会に参加して居ても、美帆を保育園の送迎時の護衛・射手としてカウントしている。
新宿という都市部なので、ドローンも通常より高度を飛び、志乃と美帆の母子を保育園ー西新宿のルート上を監視する。


先週のフリーランス記者襲撃事件当日、記者が入院している病院にマスコミが集まっている中でモリがご家族へ挨拶に訪れた。
自身の事件後でも初めてとなる病院外での立ち会見に応じたモリは、記者たちとTVカメラの前で、「殺意を顕にした、大胆で卑劣な今回の犯行を絶対に許さない」と告げてから語った。

「本事件と私の襲撃事件も含めてですが、取材をされている記者の皆さんの中で少しでも身の危険を感じた方は私まで御一報下さい。被害者同士で結束しましょう。
私の方から、在宅中に限定されますがご家族の安全を守るツールを無償で提供いたします。犯人グループや組織の特定にも繋がりますので、遠慮なくご連絡下さい。
ツール自体は富山と大田区内のガソリンスタンドとスーパーで破壊行為に及ぼうとした新興宗教の宗徒を捕らえたものと同じです」と述べた。
この時点で犯人が「誰」だか踏み込んだので、宗教団体が非難の声明文を出したが無視した。

現時点で16名の記者が名乗りを上げ、小型バギーとドローンの配布が始まっている。同時に警視庁には内緒で教団本部の盗聴とネット更新履歴情報のハッキングを始めており、コアデータを実績ある週刊誌編集部に匿名で送信し終えたところだった。週刊誌発行の前日水曜日夕刻から、政府と首相の派閥と関係の濃い宗教団体の関係が毎週のように明らかとなる段取りだ。
会見の後、モリの横浜の家を偵察に現れた教団関係者をドローンが早速捕捉し、公安職員が尋問、拘束しているが、各メディアで「富山と大田区内のガソリンスタンドとスーパーに損害を与えようとして、犯行未遂のまま捕らえられた教団の信徒だ」と報じられ、同時に先週の記者襲撃犯もコンビニの監視カメラの映像と目撃者の情報提供から教団の信徒だと判明した、として顔写真と共に全国で指名手配中だ。

この後に及んで、「教団は無関係だ」「元信徒の仕業まで責任は取れない」と言い張っているのだが、捕らえられた信徒が呆れているほどの辻褄の無さなので、週刊誌に全てをブチかまして宗教団体即時解散へ追い込もうと企んでいる。

「反社が絡む可能性をおっしゃってましたが、その後どうですか?」
美帆の頭を撫でながら志乃が言う。

「既に宗教団体が袋小路状態ですから、出るに出られない状況なのかもしれません。そちらはそちらで警察と我がドローンが監視してますからね」

「凄いですね、相変わらず・・」

「魔法使いだもんねぇ」
真ん中に座っている美帆が見上げて、大人の会話に参入してきた。

「そうだよ。今晩美帆ちゃんが食べたいのはハンバーグだろう?もう朝から用意して、焼くだけだからね」
志乃が後ろを向いて笑いだした。

「スゴい!なんで分かるの?」

「秘密の魔法があるんだ。いいかい見ててね、
恥ずかしいから小さな声で、エイヤッ・・おお、見えるぞ見える・・あの端に座ってるおじいさんは今晩はお刺身を食べるよ。逆にいる若い2人組・・なんて言ったっけ? コップじゃなくて・・」

「かっぷる!」

「そうだ、カップルだ。2人は今夜イタリアン・・スパゲッティとピザを食べるんだって」

「わぁ〜すごい すごい」美帆が拍手して目を輝かし、志乃の背中は震えている。

幼児を騙している間に列車は大森駅に到着する。志乃は尾行者の存在に降車後に気が付き、モリにサインを送ってきた。
・・優秀です、よくできました。ミッドナイトアバンギャルドサービスで今宵はモテナシましょう

駅前のスーパーで志乃が飲むワインと店頭に並び始めた大粒のブドウと美帆のお菓子を買って、家へ向かう。2人の滞在中の荷物は家族の車とともに明日、横浜に到着する。

大森の家のバギーの前で「ママ!」と美帆が言い、志乃が「センセ」と言って登録完了する。

家に入って間もなく、庭のドローンが飛び立った。尾行者の写真を撮りに行ったのだろう。数分後には庭へ帰ってきた。

ーーーー

31日月曜の10時、前日の晩に横浜から大森の家に源家と平泉家と戻っていたモリは、志乃と美帆の母子と保育園を訪れていた。台湾製のPCR検査キットを毎週はじめと終わりで園児と先生達に使うようにと2週分を進呈すると、それだけで美帆の株が瀑上がりした。

園長先生と担任の先生の質問に難なく応える様を見ていると我が子のように思っているので、自身の内面の変化に驚いていた。
志乃にチョンチョンと指さされて、「アレ」と口の動きで志乃の視線の先を見ると保母さんと言ってよいのか先生たちが、鈴なりで覗いていた。「人気者ですね」と囁くのだが、意味が理解できなかった。

割烹着のような園児服を来た美帆が、園庭のジャングルジムや遊具を難なくこなして事前テストは終了した。前日準備のお忙しい時に失礼しましたと3人で門を出る。

明日はバギーとドローン2式を設置して志乃と2人で園児の登録作業を行なう。
富山県を除く保育園・幼稚園で一気に先端テクノロジーで保護される保育園が明日、爆誕する。当然マスコミ2社に声を掛けてある。園児の保護にかこつけて都議としての名誉も得る為だ。

3人だとファミレス入店も違和感はない。自動車での移動だからというのもあるのだが。
先日納車された中古のワゴン車にもモリがHDDを積み込んでAI端末を取り付けている。索敵範囲を半径3km内のドラレコ搭載車両としたのでファミレス駐車場が道路から確認できる範囲内で混み具合を判別して、11時20分現在で5割未満の店舗をソートする。

「凄いですね、これ進化してませんか?」後席の志乃が言う。

「それより、店舗を選んで下さい。アイリーン、パスタがオススメの店って何処よ?」

「それよりパン好きな美帆ちゃんなら、焼き立てパンが食べ放題の兵庫屋でいいんじゃないですか?ミニパスタとセットにして。美帆ちゃん、画面を見てください」

「美味しそう!これ食べたい!」というので、パン会社系列のファミレス店に入った。

ーーー

1日、横浜では家から横浜駅西口まで蛍が6人の中高生をミニバンで搬送する。
一般車両停留所で待機していた、いつもの警護役の公安職員が学校まで周囲を警戒しながら6名を護送する。他に2名が通勤客を装って警戒しているという。
犯罪者が狙うなら、狙撃手が居ない弱者を狙うのがセオリーだが、モリも舌を巻くようなレベルの人材なので横浜組は安心していた。訓練していない素人ならフルボッコ状態になるだろう。

逆に新宿の保育園に単独となる美帆はモリも志乃も居ないので、犯行グループから見れば「狙い目」とも言える。
保育園なので天気のいい日は近所の公園まで散歩に向かう。その散歩の時間は志乃が新宿オフィスでドローンの映像を見てAIと共に園児たち周囲の監視活動をする。園内にいるときは2台のバギーに任せる・・そんな時間配分を考えていた。

大森の家から新宿オフィスにワゴン車で到着すると保育園の場所を確認を兼ねて、翔子と里子も志乃と美帆についてゆく。モリは午前中、保育園でのAI設定以外は本棚の組み立てに取り掛かっていた。

富山県庁には2人目の副知事と4人の顧問が登庁した。岡山県知事、栃木県知事、青森市長、宇都宮市長、鹿児島市長の候補となる5名で、ポスト狙いがあからさまなメンバーだった。事前に県知事が会見で述べていたが、全員が国大の教授や准教授なので、県の職員も構えてしまう。
しかし、最初の1週間は県庁各部門にプルシアンブルー社から配属されているエキスパート派遣職員と富山市職員とAIによる座学が決まっていた。まずは県庁内と市役所内の業務内容を理解いただき、2週目以降は県知事候補は村井幸乃副知事と金森知事のOJT、市長候補は富山市総務課長取纏めのOJTとなる。

当然ながら富山県内の放送局と新聞社の取材対象となる。
座学を一心不乱に受講している候補者の映像の後で、金森知事へのインタビュー映像が流れる。

「県知事の仕事内容がある程度分かっていても、知事になってから思っていたのと違うというケースが毎日のようにありました。まず、就任前にこの時間の無駄・タイムロスを省き、それから知事としての職務内容を隣で見てもらってイメージを掴んでいただきます。その上で各県、各市の状況や問題を捉えて、どう対処しようかな?と具体的に考えるのです。どうです?元教授って肩書ですが教師なんですよ、私も。
こんな授業が事前にあったら良かったのにっていうメニューを私なりに考えてみました。
岡山、栃木、青森、鹿児島の皆さん、即戦力の知事と市長をご紹介させていただきます。私達富山県と富山市の政策パックを掲げて年内の選挙で公約としてご紹介させていただいますので、ご期待下さい」と宣う。
テレビを見ている人に何よりインパクトとなるのは、映像の中で誰もマスクをしていない事だろう。富山県内では感染者ゼロか数名というのが日々続いていた。

1日に登校日を迎えた富山県内の児童、小中高生、大学生は誰もマスクをしていなかった。

ーーーー

西新宿にある「たんぽぽ保育園」も登園日を迎え、コロナ対策で登園した園児たちが検温に続いてPCR検査を先生たちが園児たちに行っている映像から始まった。

「この保育園では、民間企業から提供されたPCR検査キットで月曜と金曜に毎週感染チェックを行います。今日は火曜日ですが、初日ですのでこのように、園児のみなさんがソーシャルディスタンスを保って、順番を待っていますが、早いですね。次々と列が進んでいきます。
また、検査結果が出るまで時間が掛かりますが2学期からはセキュリティ対策も施されます。園児たちがAI認証の登録作業をしています。この感染対策とセキュリティ対策を提供された杜都議にお話を伺います。宜しくお願いいたします」

「宜しくお願いいたします」

「まず、今回の対策の目的を教えて下さい」

「はい。私は7月に東京都の議員になったのですが、2学期を迎える都内の学校、幼稚園、保育園、大学が何処も改善策を施さずに今日を迎えた事に驚いておりまして、文部省をはじめとする各都道府県の教育委員会やセクションは一体何をしていたのかと問いただしたかったのです。
実は富山県の学校、幼稚園、保育園だけなんです。この2つの対策を実施しているのは」

「そうなんですか。恐らく殆どの方が知らないと思います」

「東京都都議会は今月14日から始まります。8月は閉ざされた国会と同じで何も決めてません。とにかく万事が遅いのですが、PCR検査だけでも最低限実施する予算を確保して都内の生徒さん、園児さん達の健康管理を実施したいと考えています。
学校が始まると同時に感染者も増えると聞いておりますので、一日でも早く始めたいと思います」

「分かりました。お忙しい中ありがとうございました。私もカメラマンもこのようにPCR検査をして、陰性だった結果を持参して本日は取材をさせていただきました。
一日も早くこの保育園のような体制が講じられて、健康な日々を過ごせるようになればと願うばかりです。新宿区にあるたんぽぽ保育園から、山田がお届け致しました」

この映像は公共放送で全国で放映された。まず、騒ぎ出したのは児童、園児の父兄だ。

「使えないマスクじゃなくて検査体制を何とかしろ」「とっとと国会開いて予算化しろ、人の殺害をするような国だ、国民の命を軽んじてるに違いない」等と非難轟々となる。

9月の首相代理内閣は史上最低の支持率を更新するかもしれない。

(つづく)


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