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(3) 戦勝国の賞味期限と、敗戦国のしたたかさ

8月14日、平壌から板門店まで汽車で移動したモリは韓国政府の高官に出迎えられ、ヘリでソウルの大統領府へ移動する。
韓国と中南米諸国間の防衛協定に則り、中南米軍の最高司令官として光復節の式典に参列する。
司令官という肩書にしたのも、政治の色合いを少しでも薄めたい韓国側の意向なのだそうだが、モリは疑問視していた。式典の翌日16日には韓国とベネズエラの首脳会談が行われるからだ。
大半の人がモリを大統領だと見なしているのに、軍の最高司令官だと言い張った所で、何も意味を成さないと思うのだが、敗戦国の民はどうでも良いものであっても従わざるを得ない事もある。
反論出来ない程の過失を、朝鮮族・中国のあらゆる民族に対して行った事実は永遠に残るからだ。

15日だけでも郷に従って謝罪・贖罪し、先達の失態を憂いて頭を垂れる。
モリにとっては日中戦争に狙撃兵として2度参加し、生還した祖父を想う日でしかないのだが、それを口にすれば齟齬が生じるので黙るしかない。

その代わりに、14日と16日は会談の場で一切の妥協の姿勢を見せず、我を通し続けて韓国側を圧倒する。嘗ての在韓米軍以上の能力を有している事実を比較値として見せて、相応の「思いやり予算」を組ませる。予算化出来ないのなら、防衛協定を破棄するかの勢いで交渉に臨む。韓国政府が中国人民解放軍を必要以上に警戒するのなら、尚更だ。「アメリカの国防長官や国務長官は、同じ様な気分で日本側と対峙してたんだろうな」と思いながらヘリの小さな窓から景色を眺める。  

大統領府にヘリで降りると、明日の式典に日本人が参加する事に異を唱える人々が待ち構えており、規模こそ知れているとは言え、警官隊の後方からモリの来韓反対のシュプレヒコールを上げている。
朝鮮半島が開放されて95年を経ても、完全に払拭される事はないのだと、改めて考えさせられる。

今回、モリは式に参列するだけで、演壇に登壇してスピーチをしない。        
日本人の参列ですら韓国にとっては冒険に近いモノがあり、ましてや日本人政治家のスピーチなど以てのほか・・らしい。その一方で、韓国の全閣僚がモリの到着を待ち構えているので、理解に苦しむ。 大臣一人一人が勝手に自己紹介を始めて、まるで旧知の仲となったかのように馴れ馴れしい態度を取り始める。韓流スターに成り切ったつもりなのか、ジャニーズ系の薄気味悪いポーズを取り、撮影を強要してくる。
余りの自体に顔が引きつったモリとの2ショットが大臣毎に流れ作業で撮られる。選挙で使うのか、ネットに投稿するのか、何に使うのか知らないが、コチラはそんな気味の悪い写真は要らないので、詮索もしなければ求めもしない。
「データを大統領府にでも送ってください」と伝えて、ファイルごと消去しようと思い立つ。
朝鮮族が嫌いな訳ではない。現に、北朝鮮の人々との関係は極めて良好であり、北の民主化に伴う教育制度の変更により、日本の子供たちや学生の学力を超えつつある。共産独裁制という歪なシステムが瓦解したので、全てを刷新する事が出来たが故の「成果」とも言える。
日本でも政権交代により変革は起きたものの、北朝鮮の様に全ての「前例」が刷新された訳ではない。教育、就職雇用労使関係の制度や、多民族を許容できない排他的な社会は、依然として根強く残っている。
社会党が政権を握って20年が経過したとは言え、偏った教育で学んだ中高年層・・社会党の幹部達の世代でもあるのだが、彼らが存命し、彼らの子供達や周囲に与える影響が続く限り、日本人すべてが変革するには、まだ長い年月を要するだろう。

一方、韓国は1945年の建国以降のシステムをほぼ継続している。2大政党が交互に政権を取るにしてもアメリカ、イギリスと同じで、政策に極端な違いがある訳でもない。利権・権益を巡って争い、政治と財閥が社会全体を牛耳る賄賂・コネ社会が形成される米国流の民主主義システムの悪い箇所ばかりが色濃く残る。

米国が残した悪しき制度を持つ、韓国によく似た構図を持つフィリピンの改革・刷新と、同じ朝鮮族で構成される北朝鮮を急成長させるべく、日本とベネズエラが共闘している。  
その背景には、韓国国民の自立と韓国社会の浄化を促す意図がある。「他山の石」戦略で、隣国と社会システムが似通った国を成長させながら、韓国には何もしない。
統治期間20年を費やして北朝鮮経済を軌道に乗せたが、フィリピンではまだ計画に着手したばかりだ。韓国が自主的に変革を成し遂げるためには、更に膨大な時間を有するとモリは見ていた。  

韓国大統領府が歓迎レセプションで宴が盛り上がっている頃、明日「祖国開放日」を迎える平壌政府が、新浦市内に潜伏していた韓国の犯罪組織を一斉検挙する。
この日まで犯罪者達を泳がせておいて、モリのソウル入りに合わせて一網打尽にするプランだった。当然なのだが、北朝鮮内での犯罪行為が出来ぬように、北朝鮮駐留の中南米軍特殊部隊が監視下に置きながら、いつでも捕縛可能な体制を取りつつ、北朝鮮の民間人をガードする布陣を敷いていた。逮捕の罪状は「不法入国、不法滞在」と「韓国籍の人々の密入国斡旋容疑」となる。  

ソン・ジュンギ警視庁長官が平壌で記者会見に臨み、逮捕者の中には韓国内で無差別殺人を行っていた元韓国軍特殊部隊隊員が含まれていたと明かす。何より、今回の逮捕劇場の肝となる箇所でもある。

「韓国大統領が容疑者の素性を明かした際には、犯人は在韓米軍の兵士だとして、米国に責任を求めましたが、本人に確認したところ、現役の韓国軍兵士である証拠を得ました。また、無差別殺人の容疑者も犯罪組織も、容疑を全面的に認めており、同時に、我が国の司法で裁かれるのを望んでいる事から、彼らを韓国側に渡さない考えでおります。
容疑者達が主張する、隣国の警察と司法の能力に我々も同じ様に懐疑的であるのと、容疑者達が密入国させた57名の韓国籍の人々全員を、不法入国者として逮捕、尋問中なのですが、彼らも韓国側に送還するつもりはありません。同種の複数の組織が韓国内に存在している事実を我々は掴んでおり、本件で韓国側と連絡を取り合う必要性を今は想定しておりません・・」    
組織の実態把握と全容解明をするためには、韓国警察との連携が必須となるのが通常なのだろうが、敢えて否定してみせて北朝鮮内で完結する意向を表明する。

平壌での逮捕劇は直ぐ様 韓国内でも報道され、会場に居る大統領と大臣達の耳にも入る。周囲にいた韓国財界人や議員がモリに問いただすも、本人は「何も聞いていない。初耳だ」と繰り返して、スコッチのソーダ割りを飲み続ける。

韓国大統領が激高して周囲に指示を出しているのをツマミにしながら、韓国政府の人間模様、順位、序列を分析しながら、上着の内ポケットから小さなメモ帳を取り出して、何やら書き込み始める。モリは中南米軍のSP2人と3人で入国しており、今回の首脳会談の場には自分の協力者が居ない。首脳会談の内容が一方的なものとなるのが事前に分かっていたので、外相も秘書も、ロボットですら連れてきていない。          

韓国政府の関係者全員が困惑した表情を浮かべるか、天を仰いで泣き出しそうな顔をしているので、先程の薄気味悪いポーズとのギャップを楽しむ。
新興宗教問題しかり、殺人犯しかり、諸悪の根源が結局は韓国側にあり、濡れ衣をアメリカに押し付けることで政権を守ろうと考えた可能性が出て来た。
仮に本件が事実だとして、アメリカが激高して癇癪を起こしても、中南米諸国との間で防衛協定を結んでいるので、米軍による威嚇攻撃の心配は建前上は無くなる。   
「その場しのぎの嘘を付くから、こうなるんだ・・」モリは韓国を直撃する事実の数々に怒りを覚えながらも、今は笑みを浮かべて、会場の端に居る日本のメディアを探して近づいてゆく。
記者の群れの中にネーション紙とangle社の記者を見掛けるも、敢えて、未だに特派員を配置している新聞社に近付いて、質問してゆく。     

「韓国の閣僚の評判を聞かせて貰えないでしょうか?どうした訳なのか、大臣達と会話していたら気になりましてね」と、何食わぬ顔で近づく。
嘗ての大新聞社の記者様が、まるでタブロイド紙のようなゴシップネタの宝庫持ちだったので、呆れる。

 前の政権の韓国首相が、自分の子息を筆頭秘書官に据えたものの、機密情報を周囲にバラしてしまい、公金を使って私的な物品を購入して炎上した経緯を反省して、あの首相はモリ家を真似て、優秀な役人を養子にして秘書に据えたらしい。
しかし、二世議員になれると高をくくっていた実子が逆上して、養子に執拗な嫌がらせをしているとか、あの外相には隠し子が居て、それが見てくれはマアマアだが、演技の下手な俳優の某で、外相のコネだけでドラマや映画に出演している。隠し子の俳優は、外相の隠し子であることを隠そうともせず事あるごとに周囲に洩らし、威嚇して王様気取りで居るらしい。共演の女優に部屋に来るよう強要したり、ドラマ番組や映画のスポンサー企業に金品を要求するらしい等、日本の昭和・平成の面影を色濃く残しているかのような情報ばかりを知らされる。昨今の韓国は勝手に埋没してしまっているので、ノーマークとしていたのだが。

韓国側の一方的な失態となり、メンツを失いつつある大統領は、モリに語りかける事を諦めたのだろう。大統領府のスタッフと思われる人物に委ねて、この場の閉会を進言してきた。モリには迷惑を掛けるので、宿泊先のホテルでSPの2人と飲み直して下さいとカードを渡される。    

モリは宿泊先のホテルに、息子のアユムのクラブチーム浦項スティラーズのトレーナーのマッサージを要請していた。近頃、疲労が抜けずに居るので様々な手段を講じて、筋肉をもみほぐすマッサージが向いていると実感していた。どうしても、アジア人のスキルが優れているようで、中南米諸国の業師では物足りないと感じていた。自身がアジアにやって来る週末は、各地でお気に入りの業師に、凝り固まった体を託すようになっていた。しかし、韓国での宿泊滞在は初なので、息子のサッカークラブのスタッフに委ねる事にした。「施術の後で、彼らにも食事でも奢ろう」と、金色がかったカードを見て、少し位使っても構わないだろうと思いながら、会場を足早に去っていった。

ーーーー                     アジアの夕刻に朝を迎えたアメリカは、韓国大統領の失態を知り、大統領名で声明を出す。
「事の経緯を大統領自らが語るのが筋だ」と。
自国の大統領は失脚まで至った事件の一つなので、極めて強い文言となった。一夜明けても反論材料が見当たらない韓国政府は、人身御供として警察庁長官と警察担当のトップを引責辞任させると発表し、大統領は警察を信じて中身を精査せずに発言したと光復節の式典前の緊急会見で陳謝してみせるが、警察組織だけの問題では無い。一国の大統領が公の会見で、他国に責任を擦り付けたのだから。

ソウルのアメリカ大使が式典への参加をキャンセルすると、主要国の大使全員が式典参加を取り止める。韓国の戦勝記念日でもあり、解放記念日の当日に誤認失言で世界的な信用を失う失態をしでかした大統領に、国中がトーンダウンしたものとなる。         
やがて来賓席が軒並み空席となり、式典にミソを付けた格好になるのだが、その席に座るのは、中南米軍の最高責任者だけとなる。       

日本の九段下の武道館では、95回目の敗戦式典が行われていた。昭和から終戦記念日と銘打って来たこの日を「降伏の日」や「敗戦記念日」に変更すべき、とする議論も盛んになっていた。
言葉や言い回しで、圧倒的に負けた事実を言い繕い、極めて愚かな戦いを美化するかのように95年もの間誤魔化し続けてきた国を根本的に変革し、心の底から、戦いに国民を引きずり込まない国にすると誓う、そんな一日にしようと令和の政府は国民に訴える。     
昭和平成の政府が憲法改正と対米従属を主軸に据える右傾化路線であったので、下劣な過去を無かったもの、美しいモノとして曲がった思想を蔓延させてきた。         
結果、ネトウヨと呼ばれる痴れ者達が一定のコミュニティを形成し、長崎の出島、江ノ島のように日本の限られた枠内に留まり、恥ずべき意見を声高に主張していた。彼らの存在を認めたのも、時の政府であり、政治家達だった。自分たちの政策や行動を肯定し、票を投じる層が必要だったからだ。痴れ者を助長するには、オピニオンリーダー役も欠かせない。  
テレビや雑誌の場で、政府方針を支え、矛盾の数々を無視しながら、胸を張り堂々と主張する。公的な場での発言であり記事なので、痴れ者たちによって「正論」と誤認されたまま同様の意見がそこかしこに広まってゆく。
敵対する意見を「サヨク」として十把一からげにして矛盾点での対立を避けまくりながら、数の論理で正当化してゆく。         
オピニオンリーダー役、ネット論争の焚付役には内閣官房費が使われてゆく。ここに、韓国の右派系新興宗教が絡むに至る事実が後に明らかとなり、嘗ての与党は、偏った思想を教義に掲げる宗教法人と同一視され、衰退してゆく。  
中国韓国を敵視する一方で、韓国の宗教団体とつるんで日本人の財産を宗教法人に吸い上げさせて、投票マシーンとして利用する。保守派、右派と自称しながらも矛盾の塊のような政党であり、政府でしかなかった。   

社会党政権に転じると、自衛隊の日本製兵器利用率を上げ始め、米国製の兵器を必要としなくなる。その為の半官半民のコングリマット企業を打ち立てて、工業生産を活性化させ、兵器製造に特化し、最終的に日米安保を撤廃して、在日米軍を撤退させる。
この下りだけ箇条書きにすると一見 軍国化したかのようだが、社会党政権はアジア・世界の不安感を払拭する為に、曖昧になっていた専守防衛を再定義し、日本憲法の遵守を掲げる。   
 憲法前文、第9条を御旗に掲げて、条文に則った外交、内政に徹底してきた20年だった。  「国民の皆様にご理解いただけるよう、丁寧に説明してゆく」という、政治家のウワベの発言でしかなかったものを理路整然と国会、州議会で実践し、国民の真の賛同を得てきた。     

そこで式典だが、旧日本軍に配属され、この日まで生き延びた兵士も95年が経過すると、全員が他界しており、戦没者慰霊祭の役割を兼ねている式典に参列するのは3世に当たる遺族となり、出席者も減少傾向にある。
国の恒例行事とは言え、武道館という器自体が大きなものとなり、式典の開催場所も見直す必要が有るとの意見も出始めている。       
天皇陛下がこの日の役目を終えて席に下がろうとしている頃、日本にニュース速報が届く。ソウルで行われている光復節の式典に参加しているモリが、式典参加者から罵られてその場で土下座した映像が届いたからだ。通常もアジア人よりも大きな身長なので、土下座している背の広さが目立っていた。何かと話題になる日本人が地べたに蹲るので、溜飲を下げた韓国の人々も少なくなかっただろう。               

土下座の状態で暫く微動だにしなかったモリは、どよめいていた会場が静かになるとゆっくりと立ち上がる。ネイビースーツには砂や乾いた土が付着しているが、払いもせずにその場で頭を下げる。式典の進行に影響がでると考えたのか、韓国の誘導係りの官僚が頭を下げているモリの背中を軽く叩いて、来賓席へ導いていった。
式典の、この映像ばかりが世界中で放映され、ネット上に拡散する。紺色の生地だけに、地面に接した箇所の汚れが目立つが来賓席に着席しても、汚れをそのままにしているモリを不憫と見たのか、式典に相応しくないと判断したのか、会場係員がタオルを持ってモリの元に近づくが、モリはタオルの受取を断り、そのまま目を閉じ続けていた。
韓国大統領が演説を始めると、昨夜の平壌での犯罪集団逮捕の一件を受けて、この日一番の罵声が飛び交うのだが、韓国メディアは大統領の演説から音声をカットして放映する。明らかに政権側で報道に圧力を加えた節が見られた。

大統領に続いて用意した原稿を読み上げる女子中学生がモリの前で立ち止まり、モリがゆっくりと目を開ける。周囲にどよめきが起こったので目を開けたのだが、少女が深々と頭を下げているので慌ててモリも頭を下げる。本来なら韓国大統領の前で頭を下げる予定だったのだが、少女は逸脱した行為を取り、必然的にこの部分の映像はカットされた。        

少女のスピーチが始まると、原稿には無い一文が加えられる。スピーチの肝の箇所でもあるのでカットできなく、こちらはそのまま放映された。

「・・植民地支配時も勇気ある日本人が少なからず居て、我々同胞を陰ながら支え、助けてくれたと聞いております。ベネズエラ大統領閣下を間近で拝見して、このような方だったのではないかと咄嗟に思ったのを告白しておきます。私達の世代以降で韓日関係を良好なものに変えて行かねばならないと、改めて決意した次第です。モリ閣下、本日はお忙しい中ご参列賜り、誠に有難うございました」
最後の一言を英語で発言して頭を下げる少女に、モリが頭を下げてから笑顔を返すと少女も微笑んだ。これがこの日のハイライト映像となる。台本に無かっただけにインパクトのある映像となった。モリの韓国入りは首脳会談前日にして目的を達成となる。

式典が終わり、モリのコメントを得ようとほぼ全てのメディアが集まって来る。汚れをはらわないままの姿で、笑みを浮かべながら取材を断り続け、式典会場を足早に去るモリに対して、日本武道館に集まっていた記者は、ほぼ同時刻に式典を終えた阪本首相にコメントを求める。

「土下座して謝罪している映像は見ていませんが、それでも構いませんか?」と言う首相の想定発言を記者達が認めて、ぶら下がり取材が始まった。

「ベネズエラ大統領として参列されながら、過去の日本の振る舞いに対して陳謝頂いた事に謝意を申し上げたいと思います」と、定例的な言い回しを使う。           

「首相は来年以降の光復節に参加を考えていないのでしょうか?」          

「当日は我が国の敗戦記念日と重なりますので、首相が北朝鮮、韓国の式典に参加するのは難しいですが、両国から要請があれば、外相、党の幹事長クラスの派遣を検討します」      

「明日の韓国とベネズエラの首脳会談では、中南米軍の防衛協定の協議が行われますが、事前の外相同士のネット会談では、協定価格の値上げが争点となっていたようですが、日本政府はこの件をどう捉えていらっしゃるでしょうか?」

「双方の国同士の話ですので、我々は推移を見守るしかありません。それでも、隣国と同盟国の会談ですから、個人的には関心を持っています。
まず前提ですが、韓国は中国の軍拡を懸念して、在韓米軍の後釜として、中南米軍との間で防衛協定を締結しました。     
韓国は中南米軍の駐留を求めていますが、中国と国境を接しているのは北朝鮮であり、国境の警備に当たっているのは、今年いっぱいまでは中南米軍となります。
また、韓国は北朝鮮に配備されている中南米軍の防空網に組み込まれており、中国からの脅威を考える必要の無い状況にあると考えています。相応の国境防衛体制を敷いている北朝鮮の中南米軍を、韓国の政治家は視察なさると良いかもしれません。きっと視野が広がると思います」  
阪本首相が私見と言いながらも、一歩踏み込んだ発言をして来た。             

「韓国軍は中国と体制崩壊前の北朝鮮の侵攻を大前提として組織されており、在韓米軍が駐留していた頃の補完部隊として兵器、兵装を配備してきた背景があります。組む相手が米軍よりも強大な中南米軍に代わり、北朝鮮には相応の兵力が駐留しているので、韓国軍は不要となったとも言われています。首相は韓国軍について、どのように受け止めていらっしゃいますか? 自国民を無差別に殺傷する兵士を生み出すような軍でもあります」     

韓国の記者が更に踏み込んで来たので、阪本首相は警戒する。社会党の政治家はそんな質問には引っかからないと思いながら、微笑む。     

「韓国には韓国なりの事情がお有りなのでしょう。他国を論ずる訳にも行かないので自衛隊に例えますが、我々も国内の防衛産業をある程度加味する必要が有ります。ロボット化、無人化を急務と定めて我が国は生産体制を組んでおりますが、どこかの国がモビルスーツやロボットを凌駕する兵器の量産化を実現すれば、即座に形骸化したものになります。それでもモビルスーツやロボットで何とか挽回できないものか、多額の投資をして暫くの間は開発の継続をするでしょう。いえ、必ずそうするだろうと考えております。
スマホ全盛になってもガラケーの開発と生産をしぶとく続けた国ですからね、十分に有り得ます。その一方で、世界中でEV車にシフトしているのに、エンジン車とハイブリッド車の開発を諦めず、最終的には成功を収めたりする国でもあります。 
恐らくですが、韓国でも計画を簡単に放棄できないのでしょう。兵器製造ともなると、特定の企業に依存せざるを得ませんし、兵器自体が簡単には変更できませんから、従来品の改良版を開発製造せざるを得ないのでしょう。 
米軍が居なくなって、代わりに真逆の兵器を持つ中南米軍がパートナーになったのですから、韓国軍内で齟齬が生じるのは当然だと考えます。それと、韓国内の無差別殺人犯が本当に韓国軍属の方だったのか確定してはいないと思いますので、私は同じ土俵で議論するのは、まだ早計だと考えております」              
自衛隊と日本の兵器産業を持ち出して具体例にするかと思えば、抽象的な表現で逸らかす。阪本なりの論法だった。             

何とかして阪本から韓国に批判的な発言を取り付けたいメディアは、軍と兵器の質問を諦めて、用意していた質問をぶつける。 

「中国からの経済支援を受けなくなった今の韓国の経済を支えているのは、北朝鮮同胞からの経済支援であり、依存していると言っても過言ではありません。欧米と中国の干ばつでエネルギーと食料品が高騰していますが、韓国は日本と同じ価格で、北朝鮮と中南米から物資を提供して貰っています。他の国からは、韓国は与えるものが何も無いのに、供与を受けるだけで恵まれすぎだと羨むような声もあります。この状況を首相はどう受け止めていらっしゃいますか?」   

「我が国の第一次と第二次経済成長期は、アメリカの庇護の元で実現したようなものですから、人のことをとやかく言える立場ではありません。韓国経済も一刻も早く成長に転じて頂きたいものですね。いつまでも支える訳にもいかないでしょうから」     

 阪本はそう言うと、ロボットのサクラが次の予定があると記者達との間を遮って、ぶらさがり会見が終わる。記者の間で最後の最後で阪本の本音が垣間見られたと話題になる。韓国への優遇策はいつまでも続かないのだろう、と。     

 (つづく)  


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