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【ダメな議論】相手にする必要のない議論を見分ける法

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜議論に値しない言説をスルーするための指南書〜

本書は、タイトルにある"ダメな議論"を上手に避けるための技術書である。
ダメな議論、とは「誤ったもの」「無用なもの」「有害なもの」を含む言説のことを指し、本書ではそれらを見抜く手法をポイントを絞って指南してくれる。

本書の著者はエコノミストであり、メディアで経済や社会について言及する時に、自分の処理能力を超える量の批判や反論と相対することになったそうである。その中には、真面目に取り合うべき意見なのかどうか疑わしいものもあり、さすがに全てをしっかり精査することは困難であったそうである。このような状況の中で、「情報のふるい」にかけ短時間で判断する方法を考案してみようというのが本書執筆のきっかけなのだそうである。

つまりは、本書は「議論に値しない意見や言説をスルーする技術」の指南書とも言える。
何が正しいか、というのは判断が非常に難しい。数学の世界でも何かの理論が正しいと証明することよりも、誤っていると証明する方が容易であることは多い。世の中の言説について、「誤ってる」と容易にわかるポイントを本書で押さえれば、意味のある議論をするための純度の高いかつ価値のある情報や言説を選びとれる確率が大きくあがるだろう。


〜「ダメ」を見抜くポイント〜

さて、本書ではダメを見抜くポイントとして以下の5つを紹介している。

①定義の誤解・失敗はないか
②無内容または反証不能な言説
③難解な理論の不安定な結論
④単純なデータ観察で否定されないか
⑤比喩と例話で支えられた主張

いずれも詳しくは本書をお読みいただければと思うが、僕が比較的すぐに実践できそうだと思ったのは②無内容または反証不能な言説と⑤比喩と例話で支えられた主張、である。
この2つは、データを調べたり言葉の定義を調べる間でもなくすぐに判断が出来る。

②無内容または反証不能な言説、とは具体的にどんなものか。例として、政治家の演説を作文してみた。

国民の皆さまの生活をより良くするため、そして幸福であることを実感出来るよう、抜本的な構造改革を進めていきます。

まぁ、選挙演説なんかでよく聞くような内容であるが、これなんてまさしく「無内容」「反証不能」である。即座に「無視して良い言説だ」と判断できる。
まず、「生活をより良くする」「幸福であることを実感できる」とは具体的に何を指してるのだろう。人によって、お金があれば「生活が良くなった」と思うだろうし、結婚できれば「幸福だ」と感じるし、もちろんお金が無くて独身であったとしても家でゲームしてサブスクで映画を観てれば、それだけで「良い生活をしている」と感じられる。また「構造改革」というのも曖昧である。年金制度を改革する必要があると考える人もいるし、自民党を解体するべきと考える人もいるし、選挙制度を変えるべきと考える人もいる。一体何の「構造」を改革するのか、全く定義されていないのだ。要するに、人によって印象や定義の異なる言葉を用いられた時には、それは無内容であるということだ。そして、何をもって「国民の生活がより良くなった」「幸福であることを実感出来るようになった」と言えるのか。何を基準にこの政治家はこの公約を達成したと言えるのだろうか。これが「反証不能」つまり、何を確認したら証明できるの?ということである。証明しようのない事を述べた言説は議論の対象にはならないのだ。

また、会議や議論の場でこんなことを言われる場面もある。

「あなたの言ってることは一理あるが、それは全ての問題を解決することにはならないでしょう」
「あなたの言ってることが100%正しいとは言えないでしょう」

これも無意味な発言である。簡単な定義や一目でわかるような事を除いて、何かが100%正しい、または間違っているなんて事はあり得ない。これもまさしく話すに値しない意見である。「はぁ、確かにそうですが、それが何か?」と言うしかないのである。


次に⑤比喩と例話で支えられた主張である。

先日読んだ「アート思考」「デザイン思考」に関するネット記事を元ネタに作文してみた。

今、ビジネスの世界では「アート思考」が重要視されている。あの有名な物理学者アインシュタインもヴァイオリンを嗜んでいたことからもわかるように、新たなアイデア・発見にはアートの素養が必要となるのだ。

これはアインシュタインという有名な人物のエピソードを裏付けとして述べられている言説なのだが、明らかに根拠としては薄弱だ。アートを知らなくても成功した人物はいくらでもいるだろうし、たった一人のエピソードをもとに全体への提言としているのはあまりにも暴論である。有名人の名前を出されるとうっかり受け入れてしまいそうだが、こういった言説も"ダメな議論"なのである。


〜ダメな議論をスルーするメンタル〜

さて、本書では"ダメな議論"を見破る方法を述べているが、重ねて、それらをスルーするためにはかなりのメンタルが必要なことにも触れている。

そもそも人間は心理的に「自分が納得しやすい意見」を受け入れやすい傾向がある。そして、一度自分の中で受け入れた意見を覆すというのはかなりの心理的抵抗が働くものなのである。
また、多くの人が「常識」と捉えていることに反論するというのもかなりのメンタルが必要となる。誰かの意見を変えるというのは、論理は全く役に立たない。

本書は別に意見の合わない相手とケンカをするための本ではない。あくまで、自分の生活をよりよくするために世の中の情報の断捨離法だと思って読んでもらうのが良い。
自分にとってその議論・言説が本当に意味のあるものなのか、有意義なものなのか、日常の不毛な論破ゲームから距離を置くための一冊となるだろう。

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