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谷郁雄の詩のノート14

電柱に結び付けた「吐くな!!」という警告の言葉。これは朝の高円寺の路上で見つけました。ここで吐く人が多いのでしょうか? 酔っぱらいの聖地かもしれません。見ていたら吐きたくなってきました(笑) 街はいろんなものであふれていて、たいくつしません。今日も頑張ろうと思える元気や勇気をもらえます。夢や悩みを胸に秘めたさまざまな人たちが今日の街を作っているのです。(最新詩集「詩を読みたくなる日」絶賛発売中)


「どんぐり」

妻の上着の
ポケットから
どんぐりの実が
ころがり落ちた

ぽとん
ころ
ころ
ころ

歴史の本に
記されることのない
ぼくらの思い出が
どんぐりと一緒に
床を
ころがっていく


「空」

今日が
幸せだった人も
少し
不幸だった人も

いま
同じ電車に乗っている
隣り合わせで
ラーメンを啜っている
並んで
列を作っている

明日は
幸せな人と
不幸な人が
交替するかもしれない

そして
また
やさしく
黙っている空を
見上げてみたりする

「二人のぼく」

失うものは
何もないと思っていた
そのとき
ぼくは若かった

失うものが
たくさんあるなと
いま ぼくは
思っている

どっちの
ぼくが
正しいのか
いまもぼくには
分からない

失うかも
しれないものを
一つ一つ
数えていたら

若き日の
ぼくが
笑って
ぼくを見ている


©Ikuo  Tani  2022


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