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シン・映画日記『そばかす』

新宿武蔵野館にて三浦透子主演映画『そばかす』を見る。
これは、とんでもない大傑作だった!

小津安二郎イズムな家族劇を描きながら、令和現代の「多様性」を描いている。

婚期を逃しながらも恋愛には興味なく、実家ぐらしでコールセンターバイトのアラサー女子の佳純が母親に強引にお見合いをセッティングされ、そこで佳純と近い恋愛価値観を持つラーメン屋店主の木暮翔と出会う、というのがストーリーの始まり。

一番は「多様性」をテーマに、
結婚、LGBT、価値観に深く切り込んでいる。

しかしながら、その根底には日本映画の家族映画の血を脈々と感じ取れる。

主人公・佳純の蘇畑家は祖母と両親と一緒に三世代で住み、近くに産婦人科医と結婚した妹・睦美がいる。

基本的には婚期を逃した佳純を中心に蘇畑家の様子を映すけど、そこはまさしく小津安二郎監督の『麥秋』や『彼岸花』等の婚期逃し娘の話の令和版と言える。
それに祖母、母親、そして近所に住む妹ととにかく女性が多い「女系家系」。このあたりは小津安二郎というよりかは女性を描く成瀬巳喜男監督の系譜とも読み取れる。

しかも、バツ3の祖母、世話焼きな母親と妹と
とにかく口やかましい。彼女らが口やかましければやかましいほど、三宅弘城が演じる物静かな父親が映える。
こうした家族の風景に何気ない小津・成瀬のアンサンブルを感じさせる。
各食卓の風景も味があり、
後半の焼肉のシーンと朝食のシーンが圧巻。

この他に佳純がお見合いで出会った翔と付き合うエピソードと
佳純が幼馴染が経営する近所の幼稚園で働くエピソード、
偶然再会した同級生・世永真純と意気投合して遊ぶエピソードなど、
あらゆる角度から等身大の令和のアラサー女子お一人様を描いている。

合コンや現代の幼稚園内の風景、デジタル紙芝居やキャンプ、結婚式、飲み会、喫茶店、選挙演説のシーンなど大小のイベントが盛り合わさっていて
とにかく飽きない。

こうした中で、
野郎どもの対女性に対する考え・欲望、
佳純が異性に興味が持てるか否かの視点などくっきりと描いている。
その象徴がトム・クルーズ主演の某作品。これに対するリアクションで意外にも異性の人となりが現れ、そういう人間臭さが実に面白い日本映画だった。

俳優目線でも語りがいがある。
主演の三浦透子は言うに及ばないかもしれないが、
本作では『ドライブ・マイ・カー』よりかはいくらかマイルドな三浦透子が見られはするが、
主人公の捻くれ具合がなんとも三浦透子らしく、
本作も当たり役。彼女の代表作の一つで間違いない。
それと妹役の伊藤万理華と真純役の前田敦子の『もっと超越した所へ』コンビの助演がまた素晴らしい。
伊藤万理華のカメレオンというか可愛らしい妹キャラに、前田敦子の今回もまたまた訳あり女子を感情いっぱいに演じる。今回はどちらかというと前田敦子の方が良かったかもしれない。

結婚観、恋愛観、LGBT、はてはおとぎ話において
「これじゃなきゃダメ」「これが正解」というのはない。
この映画の話だけに限らず、
音楽、映画、アニメ等の文化、それも日本においては特にそうだが、
「こうじゃなければいけない」「こうであるべき」という偏った価値観、同調圧力的な空気が蔓延り、罷り通っている。
そんな日本だからこそ、
今、この映画『そばかす』は極めて重要な意味を成す。


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