マガジンのカバー画像

ショートショート

5
※みなもすなるしょふとしょふとといふものを、われもしてみむとてするなり。 『灰かぶりの猫日記』より
運営しているクリエイター

記事一覧

【ショートショート】試作品4「三振の裏に」

【ショートショート】試作品4「三振の裏に」

 グラウンドの土で汚れたユニフォーム姿の翔太が、半べそを掻きながら、駄菓子屋の前を通り過ぎる。

――おい、なんだ。また、三振して帰ってきたのか。

 煙草を吸いながら、油を売っていた駄菓子屋の親父の声に、翔太が足を止める。

――お前は知らないだろうが、あのミスターはな、初めての試合は4打席連続三振だったんだぞ。

 翔太は、心ここにあらずと言った表情で、ぼんやりと足元を見つめていた。

――良

もっとみる
【ショートショート】特別編「押さないでください」

【ショートショート】特別編「押さないでください」

 次のバス停で降りるため、降車ボタンに人差し指を伸ばした時だった。

  お降りの方は 
  このボタンを 
  押さないでください

 ――え? 

 ボタンに触れかけた指先が、一瞬止まる。一度、指先を引き、もう一度伸ばした時、

  お降りの方は
  このボタンを
  押さないでください

 念を押すようなその言葉が、再び、わたしを押しとどめた。

 バス停が近づく。わたしの他に、ボタンを押す

もっとみる
【ショートショート】試作品3「ジョン・ノレン」

【ショートショート】試作品3「ジョン・ノレン」

――1966年。来日公演前の自国のホテルにて。

ジョン 「ポール。僕らもいよいよ、日出ずる国へ赴くんだね」

ポール 「ジョン、君の教科書はちと古いな。今はデモクラシーを経て、『ニッポン』と言うらしいぞ」

リンゴ 「ジュードーが盛んな国らしい。相手を倒すと『イッポン』と言うから、『ニッポン』と言う国の名前になったんだってな」

ジョージ 
    「みんな見たかい? 公演が決まった時のニッポン

もっとみる
【ショートショート】試作品2「鳴り止まない電話」

【ショートショート】試作品2「鳴り止まない電話」

――2024年2月29日。午前零時。

空き家となっていたはずの、一軒家の黒電話が鳴った。

電話は一日中鳴り続け、日付が3月1日になると同時に、ぴたりと鳴り止んだ。

――2028年2月29日。午前零時。

更地となっていた、一軒家があった場所で黒電話の音が鳴った。

電話の音は一日中鳴り続け、近所の人たちに気味悪がられながらも、日付が3月1日に変わると同時に、ぴたりと鳴り止んだ。

――323

もっとみる
【ショートショート】試作品1「巷のマンホール」

【ショートショート】試作品1「巷のマンホール」

――巷のマンホールが移動しているらしい。

全国のマンホールを管理するモグラ業者がストライキを起こし、今夜、決起集会を開くと聞いた。

深夜にもかかわらず、集会場には、ライブ会場のような群衆ができていた。

「エイエイ、オー!!」

夜空に、高らかに響き渡った掛け声とともに、群衆が見る見るうちに、足元に飲み込まれるように姿を消していった。

――翌朝。噂を聞き付けた国の役人が訪れると、その場所には

もっとみる