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私の読書日記~多和田葉子『献灯使』:2021/10/21

※※ヘッド画像は makoHEY さまより

今日は多和田葉子『献灯使』(講談社文庫)の話をしていきたい。私は多和田作品をあまり読んでこなかった。そのために、普段よりも的外れなことを書いているかもしれない。

献灯使 - コピー

講談社文庫版では、表題作の他にも何作かの短編小説・戯曲が収録されている。ここでは、表題作の「献灯使」のみに絞る。

「献灯使」について・表

設定としては大震災と反・グローバリズムの地続きにある。大震災の後、国外の物流や通信が寸断され、厳しい鎖国状態となった日本――震災(原子力災害)以後、野生動物は完全に見かけなくなってしまった国が舞台となる。

人間について。人間についても、高齢者は元気でい続けるのに、子どもは病弱であり、学校に通うだけの体力もない。生命力の枯渇と不均等という現代日本の問題の地続きにあるような家族、人間が描かれている。

この妙な生々しさが、登場人物への共感を読者に強いる。「共感を強いる」といっても、悪い意味ではない。むしろ、他人事を自分の問題として認識させるため、良い小説の証とも言える。ただ、良薬のような小説は、読んでいて必ずしも楽しくなるとは限らないし、むしろ後味は悪いかもしれない。

「献灯使」について・裏

ストーリーも面白いが、用いられる言葉も面白い。節々で登場する言い回しが実に独特で、笑いを誘う。これも少し取り出してみよう。

かすかに酸味のあるこの黒パンには、「亜阿片」という変わった名前がついていた。パン屋の主人は、自分の焼くパンに、「刃の叔母」「ぶれ麺」「露天風呂区」など変わった名前をつけている。
――多和田葉子『献灯使』講談社文庫 pp.16-17 引用者太字

残念ながら、私は機転の利く方ではないので、言葉遊びの真意を見抜くのは得意ではない。ただ、パンの名前はドイツ的な固有名詞から採られているのではないか、と予想している。

たとえば「亜阿片」はアーヘンだろう。アーヘン大聖堂が有名らしい。

また、「刃の叔母」はきっと「刃の叔母ハノーバー」と読むのかもしれない。ハノーバーもまたドイツの都市である。(同時にハノーヴァー朝も思い浮かべたくなるが。)

また同様に、「ぶれ麺」はブレーメン、「露天風呂区」はブッデンブローグと解釈すべきだろうか(※)。それぞれ『ブレーメンの音楽隊』『ブッデンブローグ家の人々』を連想させる。

※最後の「露天風呂区」はドイツの都市・ローテンブルクを換えたものかと思われる。そう解釈すると、全てドイツの都市名となるので、通りが良い。

『献灯使』では、このような仕掛けを見つけていくのが楽しい。ちょうど隠れミッキーを探していく感覚に近いだろうか。

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