長野辰次

フリーライター。「キネマ旬報」や劇場パンフなどに寄稿。ムック本に『パニック映画大解剖』…

長野辰次

フリーライター。「キネマ旬報」や劇場パンフなどに寄稿。ムック本に『パニック映画大解剖』『80's映画大解剖』。 電子書籍版「パンドラ映画館」発売中 https://www.amazon.co.jp/dp/B019EXXUKK/  取材やレビュー等の案件あれば、ぜひご連絡ください。

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「仮面ライダー」俳優・中村優一の新しい冒険 初監督&プロデュース作『YOKOHAMA』公開

 俳優でありながら、映画監督でもあるという才人たちがいる。米国で言えばクリント・イーストウッドにメル・ギブソン、それにロブ・ライナーやベン・アフレック。日本でも北野武、竹中直人、田口トモロヲ、近年はオダギリジョー、斎藤工、山田孝之らが映画監督やプロデューサーを務めるようになってきた。映画が好き過ぎて、カメラの前に立つだけでは満足できず、映画づくりそのものが好きになってしまったクレバーな映画狂たちだ。  多くの俳優たちも「監督してみたい」と思ってはいるはずだが、なかなか実現は

    • レスラー一家を襲った「呪い」の正体とは? プロレス界の光と闇を描いた『アイアンクロー』

       科学的に証明することができない「呪い」は実在するのか? 映画『アイアンクロー』は、米国の家族愛に溢れたプロレスラー一家を悩まし続けた呪いの正体を突き止めた力作だ。ただし、オカルトめいたホラー映画ではなく、実話をベースにしたリアルな人間ドラマとして描かれている。  主演はザック・エフロン。『ハイスクール・ミュージカル/ザ・ムービー』(08年)などで活躍したアイドル系のイケメン俳優だったが、近年は米国犯罪史に名前を残すシリアルキラーを演じた『テッド・バンディ』(17年)に主演

      • 「家族」という檻を破壊する新種モンスター! 内藤瑛亮監督と押見修造のコラボ作『毒娘』

         この映画を観た人は、新しい都市伝説の誕生の瞬間に立ち会うことになるかもしれない。そう思わせるのは、内藤瑛亮監督のオリジナル脚本による映画『毒娘』だ。内藤監督はネットの掲示板で読んだ実在の出来事をモチーフに、新時代のホラーアイコンとなる「ちーちゃん」を生み出している。  これまでも『先生を流産させる会』(12年)や『許された子どもたち』(20年)といった実話からインスパイアされた社会派の問題作を、内藤監督は撮ってきた。今回のモチーフとなったのは、2011年に子育てブログに投

        • 美形俳優の岡田将生には犯罪者役がよく似合う 金子修介監督の傑作サスペンス『ゴールド・ボーイ』

           実績を残し、溢れる才能を持ちながらも、充分に評価されているとは言い難い現役の映画監督として、金子修介監督が挙げられる。『ガメラ 大怪獣空中決戦』(95年〕をはじめとする平成「ガメラ」三部作(95年~99年)は日本の特撮映画を新時代へと導いた。『デスノート』二部作(06年)は現在も続く人気コミックの実写化ブームの火付け役となった。  若い俳優たちの魅力を引き出すことでも定評のある金子監督は、40年におよぶ監督キャリアを娯楽作品づくりに捧げてきた。作家性を打ち出した作品を発表

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          ロマンティックあげるよ 古川琴音主演の異色ラブコメ『雨降って、ジ・エンド。』

          「ロマンティックあげるよ ロマンティックあげるよ」  古川琴音が主演した映画『雨降って、ジ・エンド。』には、TVアニメ『ドラゴンボール』(フジテレビ系)のエンディング曲「ロマンティックあげるよ」が挿入歌として使われている。「ロマンティックあげるよ」という歌詞そのままの、軽快なロマンティックコメディだ。また、映像ユニット「群青いろ」の17年ぶりの劇場公開作としても注目される。  物語の主人公となるのは、フォトグラファーを目指している女の子・日和(古川琴音)。SNSに自撮り写

          ロマンティックあげるよ 古川琴音主演の異色ラブコメ『雨降って、ジ・エンド。』

          大人のためのイマジナリーフレンド ウディ・アレン脚本作『ボギー!俺も男だ』

           子どもの頃に空想上の友達と会話した記憶はないだろうか。ひとりぼっちのとき、空想上の友達と会話し、一緒に遊ぶことで、孤独さをやり過ごすことができた。次第に成長し、社会性を身につけていくにつれ、空想上の友達とは疎遠になっていった。ずいぶん後になってから、空想上の友達のことを「イマジナリーフレンド」と呼ぶことを知った。  誰もが大人になるとその存在を忘れてしまう「イマジナリーフレンド」だが、大人になってからも付き合い続けた人物がいる。俳優であり、映画監督でもあるウディ・アレンだ

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          東海テレビの新作ドキュメンタリー『その鼓動に耳をあてよ』が映し出す、医療現場とテレビ局との意外な共通点

           カメラが映し出すものは、レンズの向こう側にある被写体だけではない。レンズのこちら側にある撮影者の心情まで、赤裸々に映し出してしまう。カメラは被写体だけでなく、撮影者までも素っ裸にしてしまう。  北野武監督の7年ぶりとなった映画『首』(23年)は、戦国時代の武将たちの愛憎劇をコント風に描きながらも、監督自身の内面をリアルに映し出していた。かつての北野映画にはダンカン、柳憂怜ら「たけし軍団」が重要な役で出演していたが、いつしか彼らは北野映画から姿を消してしまった。北野監督は再

          東海テレビの新作ドキュメンタリー『その鼓動に耳をあてよ』が映し出す、医療現場とテレビ局との意外な共通点

          数字に追われるメディア関係者に観てほしい 東海テレビのドキュメンタリー映画『その鼓動に耳をあてよ』圡方プロデューサー×足立監督対談

           不慮の事故や急病になった際の命綱となるのが、ERこと救命救急センターだ。救急医がヒーロー的に活躍する医療ドラマはたびたびテレビ放映されているが、東海テレビが製作したドキュメンタリー映画『その鼓動に耳をあてよ』は、救命救急センターで働く医療スタッフの素顔をありのままに映し出している。  愛知県名古屋市にある「名古屋掖済会(えきさいかい)病院」の救命救急センターは、年間1万台もの救急車を受け入れている。運び込まれてくる患者は、自殺者、保険証を持たないホームレス、独居老人といっ

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          映画館は“人生の不条理さ”を学ぶ学校だった 『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』

           航空機乗っ取り犯のことをハイジャック犯と呼ぶが、この映画は「青春」を乗っ取られた若者たちの物語となっている。純真な若者たちから大切な青春を奪った犯人は、いったい誰か? それは映画であり、映画館であり、そして挑発的な映画を撮り続けた若松孝二という映画監督だった。井浦新、東出昌大、芋生悠、杉田雷麟らが出演した映画『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』が3月15日(金)より全国順次公開される。  劇中でも語られるが、若松孝二はヤクザから映画界に転身した異色の映画監督だった。

          映画館は“人生の不条理さ”を学ぶ学校だった 『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』

          “和製トランボ”馬淵薫の最高傑作 八千草薫に魅了される『ガス人間第一号』 

           多くの男性に忘れられない一人の女性がいるように、多くの人に忘れられない一本の映画がある。鮮明に脳裏に焼きつき、折を見て見返したくなってしまう。自分の人生において、とても大切なことを教えてもらったような気がしてならないからだ。笑われるかもしれないが、私にとってのその一本が東宝の特撮映画『ガス人間第一号』(60年)になる。  怪獣映画の金字塔『ゴジラ』(54年)を撮った本多猪四郎監督と円谷英二特技監督との黄金タッグ作であり、東宝の「変身人間」シリーズ『美女と液体人間』(58年

          “和製トランボ”馬淵薫の最高傑作 八千草薫に魅了される『ガス人間第一号』 

          こんな仕事をしてきました。

           ライター長野の職歴を紹介します。週刊ザテレビジョン編集部を退職後、フリーライターとなりました。2001年に、テレビ業界や映画制作の現場で働く裏方さんたちを取材した初の単行本『バックステージヒーローズ』を上梓。その後は「キネマ旬報」「映画秘宝」「月刊サイゾー」などに寄稿してきました。日刊サイゾーで週間連載を15年にわたって続けた映画コラム「パンドラ映画館」は電子書籍化もされています。今はなき月刊誌「DVD ビジョン」で、鈴木清順監督をインタビューできたことは大切な思い出になっ

          こんな仕事をしてきました。

          東京という街を今より、もうちょっと好きになる『パーフェクト・デイズ』

           サウナに通うことで身体だけでなく、心まで整える「サ道」「サ活」ブームが数年前から起きている。漫画やテレビドラマがきっかけで生まれたブームだが、この映画を観た人の間では「トイ道」「トイ活」ブームが起きるかもしれない。ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダース監督の新作映画『PERFECT DAYS』は、トイレの清掃員が東京都内のさまざまな公衆トイレを掃除して回る毎日を描いた作品だ。トイレだけでなく、観ている人間の気分までクリーンにしてくれる。カンヌ国際映画祭では、トイレの清掃員を演じた

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          グルメ漫画の先駆者・ビッグ錠原作 映画『シベリア文太の快盗くいしん坊』

           高級レストランで食べるコース料理よりも、大衆食堂や町のラーメン屋で注文した平凡なメニューを美味しく感じる人は意外と多いのではないだろうか。ドレスコードや食事のマナーに気を遣う高級レストランに比べ、気取りのない大衆食堂やラーメン屋は誰にも気兼ねすることなく、自分のお気に入りの逸品料理をじっくり楽しむことができる。横浜でオールロケされた映画『シベリア文太の快盗くいしん坊』は、そんな名もなき大衆グルメを扱った超B級グルメムービーとして記憶したい。  原作者はビッグ錠氏。元祖グル

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          新垣結衣が演じる、もうひとつの「逃げ恥」 特殊な性的指向を描いた『正欲』を映画化

           正しい欲とは、いったい何だろうか。人気作家・朝井リョウのベストセラー小説『正欲』(新潮社)が映画化された。ポスタービジュアルには、英題として「(ab)normal desire」と記されている。どうやら、正常な欲望と異常な欲望についての物語らしい。  朝井リョウは早稲田大学在学中に発表したデビュー作『桐島、部活やめるってよ』(集英社)が話題となり、東宝の社員時代に執筆した『何者』(新潮社)で平成生まれ初となる直木賞を受賞。その後、専業作家となり、作家活動10周年を記念して

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          トラウマを負った個人を描いた『ゴジラ-1.0』  なぜゴジラは日本に上陸するのか?

           国産のゴジラ映画の第30作めとなる『ゴジラ-1.0』が、11月3日より公開が始まった。VFXを得意とする山崎貴監督ゆえに、ゴジラが巡洋艦「高雄」と交戦するシーン、復興途中だった東京にゴジラが上陸し、銀座の「日劇」を破壊するシーンなどはとても迫力あるものになっている。だが、内容が腑に落ちないという声もあり、賛否が割れる評価となっているようだ。  本多猪四郎監督による第1作『ゴジラ』(54年)は原水爆の恐怖、庵野秀明監督が撮った前作『シン・ゴジラ』(16年)は福島第一原発事故

          トラウマを負った個人を描いた『ゴジラ-1.0』  なぜゴジラは日本に上陸するのか?

          自分の居場所が見つからない人たちの物語 岩井俊二監督作『キリエのうた』

           ある世代は、デジャヴを感じるかもしれない。アイナ・ジ・エンドを主演に迎えた、岩井俊二監督の新作映画『キリエのうた』が、10月13日より劇場公開されている。  2023年6月に解散したガールズグループ「BiSH」のメンバーだったアイナにとって、初の映画主演作。他人とはうまく会話できないが、歌を歌うときだけは自分の感情を素直に表現できるという風変わりな女の子の役だ。棲む家もなく、家族もいない彼女は「キリエ」と名乗り、路上で歌を歌い続ける。歌を歌うことだけが、彼女にとっての居場

          自分の居場所が見つからない人たちの物語 岩井俊二監督作『キリエのうた』