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何分の一かの彼女

アパートの隣に住む女性は
学校のキャンパスで何度か見かけた事があるから
きっと僕と同じ大学なのだろう

駅へと続く商店街のクリーニング屋で
窓越しにその女性をよく見かけるから
おそらくそこでバイトをしているんだろう

近くのコンビニですれ違った時
その度にアイスを沢山買っていたから
よほどアイスが好きな人なのだろう

身長は160㎝くらいの茶髪のボブカット
細い体に切れ長の目、薄い化粧
そこまで大きな特徴は無いけれど
以前から、このアパートに引っ越す前から
どこかで見かけた事があるような気がしていて

きっと、さほど詳しくもない
有名なアイドルか女優にでも似てるんだと思う

今朝は家の前で見かけた後に
クリーニング屋ではもう店番をしていて
と思ったら駅前のコンビニから出て来て
でも大学ですれ違った時にはアイスは持ってなくて

もちろんそんなにすぐ移動なんて出来る訳ないから
似ているだけでみんな違う人なのかもしれない

もしくは同じ時間に違う場所に
同時に存在出来る人なのかもしれない

たまに聞くドッペルゲンガーのたぐいなら
それぞれが鉢合わせしてしまったら
一人ずつ消えて行ってしまうのだろうか?

そう言えば僕もよく言われるんだ

「さっき本屋にいたよね?」とか
「声かけたけど無視された」とか

「いやそんな所行ってないよ」と言うと
「じゃあ見間違えか」と
大体話はそれで終わって流れてしまうのだけど

ただそれを言われる少し前に
頭の中で本屋の映像が浮かんだりしていたのは
別の自分と意識が繋がっているのかもと思ったり

帰宅して鍵を開けていると
ちょうど出て来た隣の女性に

「さっきはどうも」と
挨拶なのかもわからない声をかけられて

「いえこちらこそ」と
何の事かわからないけどそう返していて

ただその後二人とも「あれ?」と言った感じで
首をかしげる素振りを見せた

他の僕がこの女性に接触でもしたのか
この女性に似てる他の女性が違う僕に接触したのか
お互いの違う分身同士が何か接触をしたのか

微かに繋がる意識からでは答えは出ない

「同じ大学ですよね」
そう聞いてみると女性は少し考えて

「はい、四分の一ほどは」と話を濁した

おそらく彼女も僕と同じように
自分の分身が他にもいる事がわかっているのだろう
僕以上に自分の分身を認識しているのかもしれない

今だって会話をするのはほぼ初めてなのに
お辞儀くらいしかした事がないはずなのに
前からよく話しているような不思議な感覚だ

彼女の何分の一かと僕の何分の一かが
知らない所で親密になっていたとしたら
分身である自分達にも影響が出るのも合点が行く

「明日、会う約束しました、よね?」
彼女がそう言った

「はい、13時に駅前のカフェです、よね」
約束した覚えなど無いのに自然とそう答えていた

お互いの何分の一の誰かが決めたんだろうが
もしそこに行ったとしたなら
分身がみんな集まってしまうのでは?
そしたら出会った瞬間に他の偽物は消え去って
本物だけ残る事になるんだろうか?

もちろん約束した以上は行かないといけないけれど
もし自分が分身ならと考えると怖くなる

本物だと言う自信は
正直持てていなかった

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