遠越町子

とおえつまちこと申します。ちまちま小説をあげたい。基本的に使ってる写真も自分で撮ったも…

遠越町子

とおえつまちこと申します。ちまちま小説をあげたい。基本的に使ってる写真も自分で撮ったものです。 Twitterも @toetsumatiko

マガジン

  • 音楽の文字列たち

    初めて曲を聴いたときに想像した風景を文章化する遊びです。 のんびりと更新するつもりです。

記事一覧

恋に恋する

 がっしりとした男らしい肩が私の肩に触れた。私の右隣りで、ユウ君がぴくりと身じろぎをするのがわかる。私はくすりと笑って、自分の右半身をよりユウ君に密着させる。途…

遠越町子
2年前
3

秘密基地に

「……は?」  消えた。姉の手からマグカップが消えた。落ちたわけでもなく、まるでロウソクの火が吹き消されたかのように、音も立てずふっと消えた。目の前で起きたこと…

遠越町子
3年前
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Scorpio

 しまった。そう思った時にはもう前髪から雨粒が滴っていた。小雨なら蒔田の家までそこまで濡れずに行けるだろうと、たかを括っていたが自宅を出て少し歩いたところで雨の…

遠越町子
3年前
2

黒い瞳

喪服だ。横目でチラと見た四十代くらいのその女性は、少しくたびれた喪服につつまれて窓から外を眺めている。帰路へ着く人が多い平日の夕方、バスの中ひとり喪服の彼女は…

遠越町子
4年前
3

音楽の文字列 2

アヴェ・マリア ジュリオ・カッチーニ  ささやかなステンドグラスを通して柔らかい午後の日差しが、広いとは言えない石造りの古い教会の中に淡く一筋差し込んでいる。 …

遠越町子
6年前
1

音楽の文字列

ラ・カンパネラ フランツ・リスト  冷たい金属の小さな小さな惑星で、薄いチュチュを着た操り人形が、独りバレエを踊る。周りの星々は青く白く光りながら、冷ややかにそ…

遠越町子
6年前
2
恋に恋する

恋に恋する

 がっしりとした男らしい肩が私の肩に触れた。私の右隣りで、ユウ君がぴくりと身じろぎをするのがわかる。私はくすりと笑って、自分の右半身をよりユウ君に密着させる。途端に彼の動きはぎこちなくなった。
「まだ緊張するの?」
 私は緩む顔を抑えられないまま話しかける。耳を少し赤くした彼は、照れ笑いを混ぜながら答える。日曜の駅ビルは人が多く、彼の声は雑踏にかき消されそうになった。
「緊張っていうか、やっぱ慣れ

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秘密基地に

秘密基地に

「……は?」
 消えた。姉の手からマグカップが消えた。落ちたわけでもなく、まるでロウソクの火が吹き消されたかのように、音も立てずふっと消えた。目の前で起きたことが理解できず姉を見ると、姉は焦ったような驚いたような顔でこちらを見ている。
「何今の。手品?」
俺がきくと、姉は素早く両手を後ろに隠した。ついさっきまでそこにあったマグカップは、やはり手の中にはなかった。
「……祐也、今の見てた?」
 絞り

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Scorpio

Scorpio

 しまった。そう思った時にはもう前髪から雨粒が滴っていた。小雨なら蒔田の家までそこまで濡れずに行けるだろうと、たかを括っていたが自宅を出て少し歩いたところで雨の勢いが増してずぶ濡れになってしまった。どんよりと雨雲が立ち込める日曜の午後三時。昨日の夜から降り出した雨は、降ったり止んだりを繰り返しながら長く続いていた。早く着くために小走りしていたが、ずぶ濡れになってしまった今はもう意味がない。短いため

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黒い瞳

黒い瞳

喪服だ。横目でチラと見た四十代くらいのその女性は、少しくたびれた喪服につつまれて窓から外を眺めている。帰路へ着く人が多い平日の夕方、バスの中ひとり喪服の彼女は自然と目にとまってしまう。運転手の声とともにバスが音を立てて動き出した。
バス通勤は思っていたよりつまらなくない。人を観察するのが好きな私にとって、バスに乗っている人を見ることはいい暇つぶしだ。いつもの決まった時間に乗ってくる人の顔は

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音楽の文字列 2

音楽の文字列 2

アヴェ・マリア ジュリオ・カッチーニ

 ささやかなステンドグラスを通して柔らかい午後の日差しが、広いとは言えない石造りの古い教会の中に淡く一筋差し込んでいる。
 教会の隅ではひとりの女性が時折言葉を口にしながら静かに祈っている。組まれた柔肌の両手は陽の光を受けてぼんやりと暗がりに白んでいる。
 大いなる母の眼差しが祝福を告げている。

初めて曲を聴いたときに想像した風景を文章化する遊びです。

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音楽の文字列

音楽の文字列

ラ・カンパネラ フランツ・リスト

 冷たい金属の小さな小さな惑星で、薄いチュチュを着た操り人形が、独りバレエを踊る。周りの星々は青く白く光りながら、冷ややかにその様子を見守っている。細やかな人形の足どりが惑星の核の金属へ振動となって伝わり、軽い音をきらびやかに響き渡らせる。観衆のいない発表会はとうとうクライマックスへと向かう。

初めて曲を聴いたときに想像した風景を文章化する遊びです。

この曲

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