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中学生だった頃の自分に届けたい一冊

自分がセクシャルマイノリティだと自覚したのは小学生の頃ですが、振り返ってみれば当時はまだ、その言葉を知らなかったように思います。
そして、当時はまだその価値観を「男女の恋愛」と同様に受け入れられる人は多くなかったのだ、という事実も。

高校生になってからは友人に恵まれたので、毎日楽しい日々を過ごせました。
ただ、中学生の頃のことは、自分の視野が狭すぎたのが原因とはいえ、今でもあんまり思い出したくありません。


けれど最近、中学生の頃の自分に思いを馳せるきっかけがありました。
「あの頃に読みたかった」という理由で。

『年収90万円でハッピーライフ』
という書名からは想像がつかないかもしれませんが…。だからこそご紹介したいと思った次第です。


著者の大原扁理さんは、本書の執筆当時、東京西部の多摩地区にある家賃2万8千円のアパートに住んでいたそうです。
加えて、仕事量も意識して減らした結果、週休5日で年収90万円という「隠居生活」を実現させます。20代半ばの話です。

その前には唐突に世界一周旅行を実行したり、途中でロンドンに滞在したりもしているので、アグレッシブな方だなあとつくづく思います。
なかなかギリギリな話題もあるとはいえ、自分軸をしっかり持っている人の言葉は、単純に読んでいて気持ちが良いものです。


この本は、大まかに分けて四章の構成になっています。
後半の三章と四章で、書名のとおりの生活を実践する衣・食・住および心技体についてを語る部分が、本書の主題ではあります。

もちろんその部分も、どこを読んでも悲愴感なく楽しい生活を送っている様が、心地よい語り口で綴られるので読んでいて興味深い。

けれど、私自身とても感銘を受けたのは、前半の一章と二章でした。

第一章「ハッピーライフの基本とは」
第二章「フツーって、何?」

と題して、大原さんの価値観や自分軸が形成されるまでに至ったエピソードが語られます。
幼少期の家庭環境や、中学時代にいじめを受けた経験など。
(LGBTに関する話題もあります)

はっきり言って、かなり強烈です。
一貫した明るい語り口で、壮絶な思い出が赤裸々に語られています。

けれど、その経験をもって大人になった、大原さんだからこそ。
「今」つらい思いをしている子どもたちに、かけられる言葉があるのも確かです。

あれがあったから今のわたしがある、というようにポジティブには考えられない。辛かったことを無理やり肯定せなあかんことほど、辛いことはない。

『いじめられて死にたいとき』より引用

悔しい、負けたくない、立ち向かいたい。
でも本当に辛い。
そして親には絶対にバレたくない。

あの時に「とにかく逃げろ」と声をかけてくれる人が、そういう選択を与えてくれる人が近くにいたら、どんなに救われたことだろう。


そういうわけで、一章と二章は読んでいて本当に「中学生の頃に読みたかったな」とつくづく感じたんです。
ただ、今に至るまでを語るために必要とはいえ、この書名だと届く層が限られるんじゃないか……という懸念をもって、今回紹介してみました。

大原さん、本書の発売後は台湾での隠居生活も行っているそうです。
そちらも本になっているようなので、いつか読んでみたいな。



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