フィンランドの駅には改札がないーフィンランドで仕事を見つける難しさ
フィンランドを旅行した方のnote記事をたまに拝見します。
フィンランドでは駅に改札がなく駅員が常駐しているわけでもありません。
抜き打ちを除きチケットの確認がされないフィンランドの駅事情に対しこういった表現をされている方々がいて、なるほどー!と思いました。
この改札を用いない乗車方式は「信用乗車方式」と言われているのでそう考える傾向もあるのでしょうか。日本人からはこう見えているんですね。
というのも、改札がないのは決して利用者を信用しているとは限らない、と私は思っているからです。
フィンランドを始めとしたEU各国は性善説に基づいた社会設計がされている面はもちろんあります。しかし理由はそれだけではないという点が今回の記事でお伝えしたい事です。
フィンランドで仕事を探す
昨年ワーホリ制度が施行され、また海外留学もより身近にもなった2024年、フィンランドで仕事を探すためにはどうしたらいいのか調べてる方々をネット上でより多く見かけるようになりました。
ネットでは一般的な意見しか見つからないことが多い
それでなくとも以前から「幸福な国」の称号を持つフィンランドに移住したいと考える人は一定数いるのか、「フィンランドで仕事を探すために必要なこと」と銘打ったブログ記事なんかは昔からありますね。
大体皆さんこのように書いているのではないでしょうか。
言っていることは間違ってはいません。
むしろ全部合っています。合ってはいるのですがどこのブログも同じような内容になってしまっています。一般的に書かざるを得ないが故にそうなってしまっているのが理由なので致し方ないのでしょうか。
なのでちょっと目線を変えて自分なりの意見を書いてみたいと思います。
難しさの正体
ではフィンランドで仕事を探すのはなぜ難しいのでしょうか。
日本人が真っ先に取り上げる理由はビザや言語の問題です。
これは事実ですし一番大きな問題です。しかし言語とビザ以外にも要因がたくさんあることを忘れてはいけません。
理由1:フィンランドや北欧、EU内での実務経歴がない
日本での実務経歴や学歴が日本と同じレベルで評価されることは基本ないと考えておきましょう。(コネがあったり、深刻な人手不足業界なら評価されることはありえます。)
面接官や上司は日本の教育制度や仕事内容に精通していません。
つまりどの程度のスキルを持った人材なのか分からないのです。
そして応募者への理解を強要はできません。募集をかけたらフィンランド人が応募してきます。彼らを採用すればいいだけの話になってしまいます。
学歴が必要な仕事に就く場合、フィンランドか他EU国で一から学び直す必要がある可能性も考慮しなくてはいけません。
日本企業を相手にするビジネスだったらまだ入り込む余地はありそうですがフィンランドはそもそも企業数が少ないのでそれも狭き門です。
なおIT業界は業務内容が世界共通に近くその限りではありません。
「比較的仕事が見つかりやすい」と言われるのはそのためでしょう。
上記で書いた内容は正直書いていて心苦しいです。今まで自分が積み上げてきたものが評価されてない事実はそう簡単に受け入れることはできません。
残念ながら学生時代自分の周りにいた、EU外からの外国人留学生でその事実を受け入れることができた人は少なかったです。憤慨したり、相手が間違っていると断定したり、時には涙する人もいました。
つらい思いをすることも多いでしょう。しかしそれでも何とか前を向き、立ち向かう心意気で挑んでほしいです。
理由2:人脈がない
フィンランド就職においてコネ(人脈)は非常に大切です。
例えば100件応募して面接の連絡がどこからも来ない状態だとしても、推薦者(Suosittelija)が応募先の会社の人間や関係者だった場合ほぼ確実に面接に呼ばれます。何なら次の日にすぐ電話がかかってくるレベルです。
日本人が思っているよりも強力だと考えてください。最強のカードです。
また日本に居ながら仕事のオファーを受けられるのはこのパターンが多いのではないでしょうか。
理由3:景気後退
2023年インフレにより欧州中央銀行が金利上げをした時点で景気後退はみなさん予想できたと思いますが、それによりフィンランドは絶賛不景気です。
新たな人材確保や新事業展開は控えめになってしまっています。
理由4:フィンランド人の名前ではない
理不尽とも言える理由がこちら。フィンランドでは書類選考を突破する確率が一番高いのはフィンランド人の名前です。
同じ経歴を持つ前提で、名前だけを変えたCVを複数送った実験が行われました。結果は上のグラフの通りです。
とはいえフィンランド人も職探しに苦労しているので名前だけでどうにかなる問題でもないのですが。就職市場において、職務経験があるフィンランド人と同条件で戦えば負けると思ったほうがいいでしょう。
理由5:人件費の高さ
そして一番の大きな理由はこちらです。これはフィンランド人にも日本人にも関係してきます。
フィンランドでは人件費が高いため生産性が一定以下の業務に人を割り当てない文化があります。つまり人を雇う前に人件費に見合った利益を出せるかを考えます。
交通誘導員は例として挙げましたが、これ以外にもフィンランドには存在しない仕事がたくさんあります。
ではどう対応しているのか。まず採算の合わない仕事はしません。
そして様々なものがオートメーション化、つまりデジタル化や機械化で対応し、人の手がかからない様に務めています。
日常生活におけるデジタル化の例
書類の送付から政府に提出する国民署名まで、ほぼ全てオンラインでできます。
処方箋は過去や最新のものを含め全てオンラインで確認できます。薬手帳なるものはありませんし、紙の処方箋も薬の受け取りには不要です。医者の再診察が必要ない薬はネットで再請求できるので、その場合通院の必要もありません。診察も簡単なものは電話かオンラインが多いですね。
もちろん実務上では「不要な作業や会議をしない」「残業を極力しないよう集中する」労働文化なども一役買っていることでしょう。
相対的に生産性を高めている
人件費が高く保障も多いなら企業は経営が難しいのではと考える方も多いでしょう。しかしトータルで見たらコストはそんなに変わらなかったりします。
もちろんダラダラと非効率に働いている人もいるため人単位のミクロ視点で見ると生産性は高いとは言い切れないです。しかし会社や業界単位の広い視点で見てみるとどうでしょう。
ざっくりとした指標で日本とフィンランドを見比べてみましょう。
給与が高い人は数が少なく、一方で一般的な給与受給者はそれより数が多い前提で話しています。
日本にも都道府県別に最低賃金が定められています。
ただ雇用にかかるトータルの人件費を加味した業務の選別はフィンランドほどされてない印象です。人件費が高くないのをいいことに、必要性が低い仕事をしていないでしょうか。
必要な仕事かどうか、また高い人件費をその従業員に払う価値があるかどうか、フィンランド企業はその点を非常にシビアに見ています。
これがフィンランド人ですらフィンランドで仕事を探すのがが難しいと言われている理由の一つです。
駅の改札は本当に必要か
ここで話を最初のフィンランド改札事情に戻しましょう。
改札を作らないことによるデメリットは不正乗車が増えることです。しかしこれは不定期の抜き打ちである程度抑制できるかもしれません。
不正乗車を防ぐ仕組みと抜き打ち確認、どちらがコストを抑えられるでしょうか。
またフィンランドで不正乗車している人はロンドンやパリに比べたら多くはありません。
とはいえ2023年は景気後退も相まってヘルシンキでも不正乗車数が増えたようです。そのため2024年1月からHSLは罰金額を€80から€100にすると発表しました。あくまでも改札は作らず罰金増額で対応するようです。
ちなみに普通のバスは改札代わりの乗車券確認が容易のため乗車口でチケット確認されます。一方でオレンジ色のバス(Jokeri-bussi)は乗車口が複数あり、どこからでも乗れるよう利便性を求めているので乗車券確認はされません。
労働者保障が手厚い分、選ばれる立場にある
このようにフィンランドでは人脈や運といった、技能とは別の面を頼った就職活動を強いられます。その代わり無事就職でき試用期間※も終えたら生活が守られていると感じながら悠々と仕事ができるでしょう。
仕事が見つからなくても社会福祉で最低限の生活は何とか送れます。
仕事数が少ない田舎は生活保護や失業保障で暮らす人も多いでしょう。
フィンランドでの労働市場はこのような仕組みになっている事を仕事探しをする際に心得ていたほうがいいかもしれません。