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【Art】銀座メゾンエルメス 「ピアニスト」向井山朋子展

この展覧会の情報を知った時から湧き上がる興奮を胸に、絶対に行こうと決めていた銀座メゾンエルメスの「ピアニスト」向井山朋子展。

立春の翌日、正午から始まったそれは一日一回数時間の開催、そしてスタート時間が毎日一時間ずれていき、24日後、元の時間に戻るという会期。

〝24日の会期を終えるとき、時間はもとのギャラリーの時間へと戻ってくる。しかし私たちの時間は、どこかでずれてしまったまま、息苦しい静寂とともに新しい季節を迎えることになるだろう〟

〝After this 24-day period ends, time will return to regular gallery time. But our own sense of time is likely to remain somewhat out of whack as we listen closely to the silence〟

どこか寂寥感漂う、けれど未来を見据えたこのコメントがいかにもエルメスらしいエスプリに満ち満ちていて、またこの展覧会を静かに沸き立てる。

ピアニスト向井山朋子氏、14台のランダムに、時に放り投げられたかのように横たわるピアノ、天井から吊るされたピアノ…そして鑑賞者も含め会場にあるもの全てが作品の一部であるこのインスタレーション、連休中日の今日は鑑賞者が床をひしめく満席ぶり(鑑賞者も作品の一部のため席はなく、各々が床に座って鑑賞するスタイル)、その鑑賞者の合間を縫って現れた向井山氏はおもむろにとある一台のピアノに着席、演奏がスタートした。

約5分程度の1曲目が終わった後、彼女は奥に鎮座するピアノへ移動、その際「ここ、あと10人くらいは入れます、特等席」とオーディエンスに声を掛けたのもまたインスタレーションの一部なのだろう。混雑のため奥に入ることを諦めかけていた彼らの一部は、ここぞとばかりに向井山氏の指した空間目掛けて移動、2曲目の演奏が始まった。

四方ガラス張りの、演奏とともに夕暮れ時のオレンジ色から暗がりへと遷移するメゾンエルメスのこの空間は、2曲目のカント・オスティナートをさらに感傷的にエモーショナルに演出し、今日のこの時間でしか成し得ないインスタレーションをまさに実現していた。この日の全パフォーマンス時間、約65分。

毎日時間も、演奏曲も、ピアノも、鑑賞者も違う二度とないインスタレーション。アイデアも、試みも、全てが好みで素晴らしかった。銀座メゾンエルメス、ル・フォーラムにて2/28(木)まで。

http://www.maisonhermes.jp/ginza/le-forum/archives/842721/

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