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世界は一つにならなくていい–『ヴァンサンへの手紙』感想−

ふと入った映画館で

なんの気なしに観た映画が
自分のことを救ってくれる
なんてことが よくある

先日観たこの映画も、そんな映画でした。

映画『ヴァンサンへの手紙』

この映画はフランスで製作された、
耳の聞こえない人々の世界を描いたドキュメンタリー映画です。
監督の友人で、同じくろう者として亡くなったヴァンサンへ贈る映画として作られたこの映画。
フランスでろう者たちが直面する困難、そして運動
彼に語りかけるような形で映画にしています。

そして、聞こえる/聞こえないの範囲をとびこえ、
「個性の尊重」
「その個性を平等に扱うこと」
を切実に訴えかけてくる映画です。


ろう者の現実を正面から見つめる

同じフランスを舞台にしたろう者のドキュメンタリー映画に
ニコラ・フィリベール監督の『音のない世界で』(1993)があります

この映画では、
光をいっぱいに湛えた画面の中で
「聞こえない」という個性を受け入れて
生き生きといきる ろう者の人々が描かれていました。

この監督の物事の切り取り方によるところももちろんあるでしょう。
明るく美しく表現されたこの映画を見て、私は、
ろう者の人たちはこんなにいきいきとしているんだと知ることができました。

しかし、それと明らかに対立するように、この『ヴァンサンへの手紙』では
フランスで生きるろう者たちの現実や問題を正面からしっかりと見つめ、
観る人に訴えかけてきました。


ひとつの言語としての手話

この映画は、様々なことにチャレンジするろう者たちの姿を追っていきます。

一つは「手話」を英語や日本語などの言語と平等な言語として広めること。
記者会見を開いたり、メディアに訴えかけたり(ラジオにも!)
ミラノまでデモ行進をするグループのことも語られます。

もう一つは、手話で歌をうたうこと。  
「手話俳優」として手話で舞台を行い、その分野では数々の賞を獲っている、トルコのアーティスト、レベントを訪ね、
実際の音楽と「手話詩」を組み合わせた「歌」
他のろう者や歌手たちとともに作り上げていきます。

「手話詩」とは読んで字のごとくなのですが
他に手話詩(手話を使った表現)を取り扱った映画で
『Listen!』という映画もあります。

私はまだ未見ですが、その表現力の豊かさには
目を惹きつけるものがあると思います。

レベントさんたちが作った歌は、この映画のテーマソングになっており
耳で聞くのも目で見るのも美しかったです。

他にもいくつかの活動や、ろう者へのインタビューがあり、
それらを通して、この映画は、根本の問題
”「聞こえないこと」は個性の一つ”というメッセージを
少しずつ形作っていきます。

「障害ではなく、個性」ということの、本当の理解

瞳の色が濃いか薄いか
髪の毛が長いか短いか
肌の色が白いか黒いか

そういう違いと平等に
耳が聞こえるのか聞こえないかという
個性の違いがあるだけ。

「障害ではなく、個性」

何度となく聞いてきた言葉ではあったけれど、
理解したような気にはなっても、
本当の意味で理解するのは難しいことだと思います。

この映画を見て、
完全に理解できたとも思わないけれど、
でも、映画の中で耳が聞こえない人々の姿を見て、
私の中で、その言葉の意味がやっとわかったような気がしました。

やはり実際に見たり、体験してみないとわからないことがあるということなのだなと感じました。

世界は一つにならなくていい

これは私自身の気づきなのですが

この映画はたまたまろう者の方々についてだったけれど
同じことが私にも言えるはずと思ったのです。

うつも、個性の一つ。
そして、誰でも時にには心を病むことはあるということ。

健常者中心の世界は、やっぱりまだまだ崩れていないと映画の中で口々に言われます。
それは確かに真実だと思います。
でも、一方で、健常者って一体誰のことなんだろうかと疑問にも感じたのです。

私たちは時々、勝手に頭の中で作り出した「世間」というものに囚われて
勝手に仲間はずれにされたように感じたりしているだけなんじゃないのか。

映画の中で、ろう者の人々は「世間」から離れて自分たちのコミュニティで生きていく道を選んでいきます。

私たちだって、「世間」から離れて自由になればいいんだ
思考停止をやめて、物事の善悪は自分で決めてしまえばいい

世界は一つじゃなくて
一人ひとり、それぞれにあればいいんだと感じました。


でもきっとこれから、もっと自由な時代が来て
みんなで共有したいときはする、でも自分の価値観はしっかりと守れる
というような
本当の意味で個性を大切にする時代が
やってくるはずだし、
そういう時代を作っていかなきゃいけないと
そんなことを感じました。


そして、実際に体験してみないとわからないことがあるからこそ、
私はこうして映画を観続けて
自分の視野を広げていこうとも思いました。


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