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みかん切れ禁断症状 -妻と妹、冬の風物詩- #033

冬になると、妻に変化が起こる。手が黄色くなるのだ。

それはなぜかというと、みかんの食べ過ぎである。

「みかんさえ食べていれば大丈夫だから」

ビタミンがとれて風邪の予防になる、と言いたいらしい。何が大丈夫なのかよくわからないが、妻は自信満々である。

ビタミンCは一度にたくさんとってもそんなに吸収されないことを知っているはずの保健師の妻は、ことみかんに関してはちょっと馬鹿になる。

「手が黄色くなると、あぁ、今年もみかん食べてるなぁと思うんだ」

妻はニコニコしてこちらに手の平を近づけてくる。手が黄色くなってから初めて妻はみかんを食べていると実感するらしい。こわい。

冬の時期、うちにはみかんを常備しなければならない。なぜなら妻が情緒不安定になるからだ。

ふと手を伸ばし、箱のみかんが減っているのに気づいた彼女は言う。

「みかんが!・・・無くなる!!!」

みかんの禁断症状である。もうすぐ無くなる(まだ数個ある)というだけでこんなに取り乱すのだから、実際に無くなるとどうなるのだろうか。私は怖くなり、すぐに買ってこようと誓うのである。


ところで私には妹がいる。彼女もまた冬になるとみかんを食べ続け、黄色くなった手を私に見せてきた。

「今年はもうこんなに黄色くなった。早い」

なぜ早さを競うのかわからないが、嬉しそうだ。

彼女は高校生だか大学生の頃、その時自分がハマっているものを毎日爆食いしていた。ダイエットの一環だったと思うのだが、キャベツや豆腐、こんにゃくなどを一人、山盛りで食していた。

ある時期枝豆を毎日大量に食べていた妹は、眉間に皺を寄せて手を見つめていた。

どうしたのかと声をかけた私に「お兄ちゃん、手が…、緑になってきた」と妹は言った。

たしかに緑がかっている気がする。ナメック星人か。妹がピッコロさん(ドラゴンボール)なのは、嫌である。(ピッコロさんがわからない人は、シュレックやガチャピンを想像いただいても構わない)

妹は大学で管理栄養士になるための勉強をし、国家試験にも合格したのだが、「自分の食事を管理できないのに、人の食事を管理できる気がしない」というなんだか真面目なような、ストイックなような、もっともなような理由で一般企業に就職した。

「それに水仕事が多いと、ネイルができないのが嫌だし」という妹は、たぶんそちらが本音だったのだろう。

冬に妻がみかんを食べ続けているのを見ると、妹のことも思い出す。その頃には、私の手も黄色くなってきているのである。

2023年12月13日執筆、2023年12月14日投稿


(追記)
秋の終わり頃、妻が職場での良いエピソードを報告したいと言った。

「休憩室でみかんを食べてる人がいたから、『どこで買ったんですかっ!?』と勢いよく聞いたら、自宅の庭でとれたって言うんだよね。それで、1個くれたんだ。『私も将来庭で育てますねっ』って約束してきたよ」

どこがいいエピソードかは私にはわからなかったのだが、とにかく、みかんが好きだということはわかった。

(追記2)
手が黄色くなるのには「柑皮症(かんぴしょう)」という名前があるらしい。

「あぁ、かわいそうに…。あんまり柑皮症になってないね」

妻は神妙な顔をし、私の手を見て、謎の心配をしている。


(追記3)2024/1/3
LINEで本エッセイを送ったら、妹からコメントが届いた。
「ちなみに足の裏も黄色くなるのだ。」

(追記4)2024/2/12
箱のみかんがスーパーから無くなり、売っているのは袋のみかんだけになってきた頃妻は言った。

「袋のみかんは高いから、結局迷って買わないんだよね。それってもしかしてみかんがそこまで好きじゃないのかな…?箱だと多すぎて腐っちゃうから、食べるのに追われるのに」

妻とみかんの関係は、なんだか複雑である。

🍊シェアしていただいた記事のご紹介🍊

なんとこのみかんの記事を読んで、10000歩近くも歩いてみかんを買いに行って下さったそう。美味しくてよかった。みかんとウォーキングの健康効果の掛け算。

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