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血液クレンジング問題から学ぶ3つの課題

こんにちは。WellnessのDr.チームです。

ここ数日SNSを中心に、アンチエイジングや疲労回復を謳う「血液クレンジング」という美容治療(?)が話題になっています。

Buzz Feed:https://www.buzzfeed.com/jp/ryosukekamba/cleansing

某クリニックのwebページの説明を抜粋すると、「医療用オゾンを血液に混ぜて反応させる点滴です。抗酸化力の向上・血液の流れの改善・免疫力のアップなどの効果が期待でき、身体が持つ本来の力を高めます。」とあります。いかにもそれっぽい説明ですよね。

しかしWellnessのDr.チームの見解としては、この治療法にお金を払う価値はありません。理由はシンプルで、効果を証明するエビデンスがないからです。

今回はたまたま血液クレンジングが話題となっていますが、自由診療のクリニックではエビデンスのない不確かな治療法が、いかにもそれっぽい説明で行われているということはザラです。

今回のケースをきっかけに、今後騙されることがないよう、一人一人がヘルスリテラシーを高めることが重要です。

血液クレンジング療法のエビデンスが不十分であることは多くの医師がSNS上でご指摘の通りなので、この記事ではヘルスリテラシー全般の問題として、何故今回のようなケースが絶えないのかを分析し、全ての人が持つべき心得についてお伝えしたいと思います。

予防医療の推進を目指し、ヘルスリテラシーを高めることやパーソナルDr.を持つことの重要性を訴える私たちWellnessが注目している課題は、主に以下の3つです。

1, 「正しくない」とも証明されていない

2, パーソナルDr.がいない

3, 悪意無しに誤った情報を拡散してしまう

一つ一つ見ていきましょう。

1, 「正しくない」とも証明されていない

世の中には多種多様の治療法や予防法があふれています。健康食品やサプリメントから、自由診療で提供される点滴療法、病院で提供される一般的な治療まで様々です。

最近になってようやく「エビデンス」という言葉が浸透し、一部の医師が信頼できる著書を出版するようになるなど変化の兆しはあります。一方で、いまだに誤った情報がweb上や書店に散在してることも事実です。

世の中には3つの情報・商品・サービスがあります。それは、「正しいと証明されているもの」「正しくないと証明されているもの」「正しいか正しくないか分からないもの(証明されていないもの)」です。

このうち「正しいと証明されているもの」は標準的治療として、病院で提供されるようになります。予防法についても同様で、正しいと証明されているものについては国の制度やガイドラインに組み込まれていきます。

また「正しくないと証明されているもの」については「禁忌」として医学界ではタブーとなっていきます。数年前は正しいと信じられていたものが実は正しくないと証明されるような事例も多く、医師は常に新しい情報を学び続ける必要があります(例えば心房細動に対する脳梗塞予防の治療薬でかつてはアスピリンが使用されていたが、出血リスクを高めるだけで脳梗塞予防効果がないことが示され、現在は抗凝固薬での治療が推奨されているetc.)。これもある意味分かりやすいものです。

問題になるのは3つめの、「正しいか正しくないか分からないもの(証明されていないもの)」です。何らかのエビデンスを出すためには必ず研究を行い、統計学的手法に基づいて効果を検証する必要があります。しかし、仮説に基づいて出てきた新しい治療法についてはエビデンスがないのが当然です。これを狙って誇大広告をうって稼いでいるのが悪徳な美容クリニックです。正しいと証明されていないものについて『仮説』を立て、「〜が期待できます」という表現で売っているのです。

血液クレンジンングが話題になっているのは、「血液」を外に出して入れるという医師であれば感染リスクを考えずにはいられないような手法で、しかもオゾンを加えるだけで大きな効能が見込めないことから、多くの人がベネフィット<リスクと判断し批判が殺到したからです。しかし血液クレンジング以外にも、実は正しいかどうか分からないような治療法は山ほど提供されているのが現実です。

このような治療法は「期待できます」といった曖昧な表現で提供されていることが多いのですが、標準治療ではない自由診療の手技に対して「本当かな?」と思ったら必ず、「エビデンスはありますか?論文はありますか?」と聞いてみるといいかなと思います。

人生は一度きりなので、よほどのリスクテイカーでないのであれば、エビデンスのある治療法や予防法だけを愚直に実践するのが最も安全で効果があります。

2, パーソナルDr.がいない

当然ですが、自分の知見が乏しい領域において意思決定を行う際には、専門家の意見を聞きたくなるものです。法律のことは弁護士に相談したいのと同様、健康のことは医師に聞きたくなります。これは当たり前ですし、そうあるべきだと思います。

ただし気をつけなければならないのは、自由診療のクリニックの場合、情報を提供する医師と、サービス提供によって利益を得る医師が同一であるパターンがほとんどということです。もちろん大抵の医師は倫理観に基づいて行動していますが、一部の医師は利益のために、本来推奨されないような過剰な治療法を推奨してきます。

本来何らかの意思決定を下す上で相談する相手は、利害関係のない第三者におくべきと考えます。この意味で、顧問弁護士と同じような立ち位置として、気軽に相談できるパーソナルDr.を持つということは非常に合理的です。

日本は制度上、登録医制のないオープンアクセスとなっており、大きな病気にかかるまで「かかりつけ医」を持つことはほとんどありません(一方海外ではprimary care doctorが当然のようにいて、まずその医師に相談するというのが常識になっています)。

結果、若い人たちほど、自分がwebや本、口コミで得た知識だけを頼りに判断してしまうということが起こっています。

自分自身の身を守るために最低限のヘルスリテラシーを持つことが最も重要ですが、「これでいいのかな?」「これ大丈夫かな?」と思った時に気軽に聞ける医師を持つことも非常に重要です。

3, 悪意無しに誤った情報を拡散する人がいる**

私たちは思った以上に周りの環境の影響を受けています。健康に関わる多くの情報は、発信源の分からないメディアや引用元が載っていない本、友人の口コミから得られていたりします。

今回の血液クレンジング問題でも、多くの芸能人が(おそらく対価を得て)情報を拡散していたことが問題視されています。芸能人を擁護する意見も聞かれますが、私たちは、情報発信をするにはそれ相応の責務が生じると考えています。なぜなら、それによって本当に命を落としてしまうケースがあるからです。

実際、「がんは放置した方がいい」「食事をこうすれば癌が治る」といった代替療法を信頼する友人から勧められて信じてしまい、Stage4まで進行した状態で救急搬送されてくるという症例をいくつも経験したことがあります。今回の血液クレンジングのような治療法でも、数年して「実はこんな副作用があった」といったことが分かってくるケースも十分想定されます。

正しいと分かっていないものは極力避け、標準的な治療法やエビデンスのある予防法をしっかりと実践する。これが健康への近道です。

間違った情報を発信するということは、たとえ本人に悪気が全くなかったとしても、非常に危険なことなのです。特に「健康」という取り返しのつかないものに関わる情報は、誰もがsensitiveになる必要があります。

ヘルスリテラシーを高めると同時に、ソースのはっきりしない健康情報は発信しないということが重要です。これは個人にも企業にも言えることで、医療者のいないチームがエビデンスを十分に検証せずに健康食品やサプリ、運動療法、医療サービスといったものを提供するのは相当のリスクが伴います。

また同時に、「医療者がいればOKというわけでもない」ということも重要です。医師であってもEBM(エビデンスに基づいた医療)を意識していない人は複数おり、自分の主観的な意見でものを言う人が山のようにいます(非常に残念なことですが)。「しっかりとした根拠を持って納得いくまで説明してくれる医師を持つ」というのが、情報が溢れる現代においてますます重要になっていると思います。

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さて、今回は血液クレンジング問題のように、不確かな健康情報が容易に拡散され受け入れられてしまう背景を分析しました。

お金は無くなってもまた稼げばいいですが、健康は一度失ってしまうと完全元どおりには決してなりません。

正しい知識を身につけ、無駄なリスクを避け、正しいと分かっていることに愚直に取り組みましょう。遠いようで、それが健康への最大の近道です。

Wellness Dr. team


(※)健康に関わる疑問や悩みがある方、パーソナルドクターを持ってみたい方は、Wellnessをご活用ください。→ https://wellness.jp

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