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所有者をたどる手がかり。『印を読む―詞句・成語印のたのしさ』北川博邦


以前参加した、とある自治体の寄贈史料整理。私は、蔵書印といえば、古書店で買った本に押してあるような、持ち主の名前がわかるものしか知りませんでした。でも、寄贈された本には、名前以外の印がたくさん押してありました。それが、どういう意味なのか、知りたくて読んだのが本書です。

そもそも、印鑑発祥の地の古代中国では、「印鑑が押してあるものは自分のもの」という意味だけでなく、縁起物(戦争に勝つとか)として印鑑を携帯したのだそうです。

時代がくだり、縁起物として携帯しなくなると、だんだんサイズも大きくなっていきましたが、それでも最初は、いい意味の漢字2字とか4字の印鑑がメイン。その後、もっと文字数が多い印鑑が彫られたり、絵柄がついたりと、多彩になっていったのだとか。

この本のサブタイトル、「詞句・成語印のたのしさ」にあるように、近代になるほど印鑑の種類もどんどん増えて、故事成語や詩の一部とか、古典の一部を印にしたものなんかも作品になっていったとか。

日本でも、彫ってある詩句が持ち主の好みなだけでなく、日本の和歌の上の句と同じように、中国の古典の一部を引用したりして。それは日本の和歌の枕詞のように、その次に続く詩句を連想させる意図なんだそうです。まじめなものばかりでなく、洒落や掛詞で連想させるものもあったそうです。それって、今のラインスタンプっぽいですね。

この本は専門的な内容も多くて、全くの初心者には難しめでした。私には、できればこの本よりも、少しやさしいものが向いていた気がしますが、これはこれで勉強になりましたし、おもしろかったです。

あと、本とは直接関係ないけど、国文学研究資料館には蔵書印データベースがあるそうです。性能はイマイチだけど、その発想はすばらしい(2019年時点)。もっと改良して画像で検索できるとか、意味や持ち主も解説してくれるとか、ならないかな? なったらいいな?


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