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難民、遺民、抵抗者。 国と国の境界線に立つ人々『境界の民』安田峰俊

一気に読める、読ませる本です。著者の安田さんは、大昔のblogの時代から文章がうまかったです。とはいえ、WEBと紙媒体では文章のまとめ方が違うので、最初の頃は肩に力が入った文章だったり、ちょっとまとめ方に気負いとか自意識がチラ見えしたり。

でも何冊か出版していく中で、そういう自分の色を上手くコントロールして、本書では難しい素材をうまく印象づける内容になっています。

さて、本書の主役はマージナルな人々。両親の片方が外国人で、日本人のコミュニティに馴染めず、かといって今すんでいる日本以外の国にも馴染めない人たち。もしくは、外国ルーツでありながら、その国に居場所を失って日本にやってきた人たち。オムニバス形式なので、最初から読んでも好きな部分から読んでもOKなのがうれしいです。

私が圧倒的に好きなのは、「黒いワイルド・スワン」の一章。超有名な(もう古典?)『ワイルド・スワン』になぞらえたタイトルですが、自分ではどうしようもできない歴史の奔流に流される人々を、ちょうどいい距離感で描いている傑作だと思います。

ほかにも、国籍があいまいなベトナム難民2世とか、中国だけでなく日本人にも翻弄されるウイグル人の話。日中両国にルーツを持つ、優秀なハーフたち。国そのものが境界に立っている台湾の人々、などなど。

可能な限り、そういう人たちをマジョリティに取り込める国が、いわゆる「いい国」だと思いますが、今の時代はむしろ誰でも「境界の民」になる可能性があるわけで、そういう意味で同化圧力が少なくて、ゆるく広く人々が繋がれることが理想ですけれど、まあ理想でしかないです。

取材する人間もやっぱり何かの「形」の中にいるので、自分と違った立場の人々を、そのまま描くことは難しいです。そういう意味で、若くて留学経験があって、それでいて会社組織から外れた経験もある著者の文章は、大きな新聞社に所属する人たちにはない魅力にあふれています。おすすめ。


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