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憧れの人

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弔う

弔う

花束は枯れるから嫌い。

昔の流行り歌の歌詞にあった、聞いた風な、そんなことを思っていた。

不思議と、土に繋がっている花が落ちるのはそんなに嫌ではない。
落ち葉を集め、散った花びらをまとめる。
当然のように土に還る。また、来年咲く。
たとえ落ちた場所がコンクリートでも、なんとなくそんな思いがある。
切り花を自分で買うことは、ほとんどなかった。

でも、ヒトが楽しむために切られて水に挿された、おそ

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花の命

花の命

「もう充分でしょ」
そう言って、その人は笑った。

彼は、大切なクライアントだ。
大きな会社の経営者だけれど、自ら現場に出て行って作業をしてしまうような人。
こちらがサービスを提供する立場のはずなのに、ことあるごとに私の不調を見抜いてその都度、それとなく的を射たアドバイスや、時に厳しい励ましを投げかけてくれる。

花にも詳しい彼が、小さな胡蝶蘭をプレゼントしてくれたことがあった。
株の見立てがいい

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桜

桜は満開が好き。

もっと若い頃は、散り始めがいいとか、いやいや、14番目の月みたいに、明日は満開か、と思えるような八分咲きくらいの期待感がいい、とか
知ったようなことを言ってカッコつけていた。

今は、素直に、満開がいい、と思う。

隅々まで惜しみなくエネルギーを使って、全身で心を開いているようなのがいい。

バックは青空でなくてもいい。
曇天でも、あるいは春の雨でもいい。
濡れそぼった花は、ボ

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魔法使い

魔法使い

その店にはいつも、違う道から辿り着く。
地図を読むのが苦手なので、ハナから諦めてスマートフォンの地図アプリで検索するのだが、毎回、最後の最後で迷う。

既に何度目かの訪問で、途中までは既に見慣れた、と言える風景なのに、あとは歩けるような距離、というところまできた途端にいつも、初めて見る場所に出る。
とりあえず空いているパーキングに停めて、そこからしばらく歩くことになるのだけれど、その景色が毎回、違

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髪を切る

髪を切る

どうして、ニンゲンの頭髪はこんなに長く伸びることができるのだろう。
まつ毛も眉毛も、みんな一定の長さ以上にはならないのに。
頭を守るため、、、だけではないような気がする。

文化にもよるのだろうけれど、時として美醜を決める価値観の重要な一つになっていたりして、その基準に阿り始めたが最後、もともとの性質に反してマッスグにしようとしたり、逆にクルクルにしようと化学物質をたくさん塗りたくったりする羽目に

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