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谷古宇 時生
2019年9月7日 14:50
「人は、自分が死を迎える間際まで、自分の死を受け止められない」「分かった振りはできても、死の瞬間まで、理解することはできない」目が覚めると、燈子は屋上で、例の鶏男に抱えられていた。うまくものを考えることができないが、どうやらまだ落ちても焼けてもいないらしい。◆あとで知ったことだけど、鶏は対象に触れることで、模擬的に相手の眼前に『死』を見せることができる。だから相手を峰打ち的に「殺
2019年9月7日 14:45
「見て分からないですか。私、今から、ここから飛ぶんです」燈子はできるだけ感情を込めず言う。止めたって無駄だ。「あなたに迷惑はかけないから、見なかったことにして、そのまま帰ってくれませんか」「・・・また、鳥人間か」男はぼそぼそと独り言を言っている。ひとりで物思いにふけっているようでもあり、燈子はより警戒を強める。薬でもやっているのだろうか?やばい奴なら、自分の縄張りに足を踏み入れたこと
2019年9月7日 14:37
午前二時、ビルの屋上で、蛍のようにあちこちに赤いランプが灯っている。二宮燈子は、まだ生温かい夜風に吹かれながら、フェンスを越えて二十階建てのビルの下を覗き込んだ。ひゅっ、風を切る音がする。◆ ここから飛び降りれば、わたしと世界は終わる。不思議と怖さは感じなかった。ただ、背中のあたりがひりひりと痛むだけだった。夏服の袖が、ひらひらとたなびいている。燈子は夢の続きのような、心地よいけれど自分
2019年9月7日 14:27
ープロローグー九月一日。晴れ。村瀬祐樹はぎゅっとハンドルを握りしめた。夏が終わろうとしている。高校三年生の夏に、値段をつけるとしたら、いくらの値がつくのだろう。夏特有の広くまじりけのない空に、雲が駆けている。遠くには海が見えた。 白い鳥が、村瀬の横をゆうゆうと横切った。気持ちよさそうに飛んでいる。一瞬鳥と目が合った気がする。「おまえに飛べるのか」言われた気がした。鳥の名