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第8巻

栄京学園+広田が千川+比呂と明和第一+英雄の間に影を落とす。二つの学校がふれあおうとすると邪魔し立ちはだかっていく。恋敵のようである。
実際ライバルの話を描くときは恋の話を作るつもりで描くといい。くっついたり離れたり、振り向いたりよそを向いたり邪魔が入ったり…そして最後に結ばれる。ライバルと恋人は行為としてはほぼ同じだ。

第3話 三球100円でどうだ?
英雄の知り合いの中学生・佐川が比呂に「アンタの球を打たせてくれ」という場面。千川高校文化祭の一環行事として野球部が栄京学園野球部と親善試合をした後。
広田に遺恨のある佐川はその試合を見ていた。佐川は広田を乗り越えるために受験版今日の合間も素振りを続けていた。そして、乗り越える仲間として千川高校野球部を選び千川高校を志願していた。
比呂と佐川が野球部グラウンドに移動すると、試合後で文化祭の日なのにも関わらず先輩たちが守備練習をやっている。その理由が
守備が下手だから栄京学園との試合で比呂の足を引っ張ったから
である。勝つために優秀な選手を集め、姑息な作戦も汚い手口もこなすと明言する栄京学園との対比になっている。野球大好き、野球のためにする努力が大好きな比呂は先輩に抱きつき先輩を受け入れる。
比呂と佐川は先輩たちに見守られ勝負に熱中する。やがて佐川が一本のヒットを打ち、比呂は佐川を認め千川に来るのを待つことにする。

ここにはいくつかのテクニックが使われている。
まず冒頭の佐川の発言。要は「自分と自分の努力を認めてくれ」という意味である。控えめな性格の人物なら「ボクに打たせてもらえませんか?」。もっと控えめな性格なら第三者が「こいつに投げてみてくれないか」というところ。しかし、佐川はとんがった性格という設定なので上のようなとげとげしい言い方を、あだちさんはさせている。
行為としては同じだが逆関節ぽく繋がっている。投げてやる。打ってみろ」と順関節に話が進むより、上のやり方のように方が緊張感が出る。

次にグラウンドで先輩たちが練習をしている件である。誰もいない中で二人で投げたり打ったりするよりずっと緊迫感が生まれる。入部テストのような様相になったからだ。二人の熱戦を読者に自然に伝える役回りも背負っている。
何かエピソードを考えたら、それが読者にとって印象的になる状況を作るテクニックである。
同じ愛の告白を呟くにしても、落ち着いたレストランの中よりも沈みゆく巨大客船の方がドラマチックになる。

そういう状況を作るテクニックが三つ目。その外側にあるストーリーの相似形を作ると効果的だ。
例えば本回は
比呂が佐川の努力を認めて受け入れる
がゴールになっている。先輩たちのエピソードも
比呂が先輩たちの努力を認めて受け入れる
とよく似たゴールになっている。

第8話 行った行った!
本回は珍しく17ページ。どうしてこうなったかはようわからない。
全話モノクロだと分かりにくいが、冒頭に彩色してあるページが5ペ-ジある。4ページ分は四色フルカラーだとして、もう1ページはおそらく2色ページだろう。
2色原稿はいまはほとんどみなくなった。黒と赤(というかオレンジ)、黒と青、黒と黄土などの2色の階調をの組み合わせで画面を見場よくする。印刷は色数と紙質で値段が変わる。4色分解構成は手間もお金もかかる。でもモノクロよりは少しは派手にしたいという時、2色が使われた。
別のところで4色原稿の入稿について話をした。一週先行させて入稿するのである。ところが、2色原稿のあった時代はこれがさらに1週前倒しになる。4色原稿は3週間前、2色原稿は2週間前の入稿だった。それも小学館のように印刷所に無理の利く大手だからのスケヂュールで、中堅以下の出版社の週刊誌だと4色は4週間前、2色は3週間前に2入れないと、印刷機を予約できなかった。漫画家にとっては結構きっつい日程である。
現在週刊少年ジャンプで2色原稿のページが時々はいるが、ゲームやイベントの告知などマンガと関係ない記事ページになっている。漫画家に負担をかけないためだ。

冒頭のページ数の話である。
これ、単純にあだちさんの勘違いではないだろうか?
というのは単行本を見ると2色(とおぼしき)の裏はモノクロ原稿になっている。印刷は大きな紙に裏表刷るので2色の裏は2色なのである。つまり4色4ページ+2色2ページ+モノクロ12ページで18ページ。これなら通常の連載通りである。
多分この時の週刊少年サンデーは、2色ページの裏に告知や広告が入ったのだろう。『タッチ』の劇場版アニメとかの。
先行して入稿していってモノクロ原稿描く段になったら
「あれ、そういえば」
と言ったところではないだろうか。

漫画家はページ数をすごく気にする人種である。ページ単価でギャラが決まるっていうこともあるし、何より作品の構成に違いが出る。それでも長くやると、間違えることもある。その時は漫画家が無理矢理ページを捻出するか(アシスタントを全員帰しちゃってから気がついて一人でコツコツ描くとか)編集が自社広告を入れて調整するのである。

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