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ライター・イン・レジデンス

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「作家のための食客制度」「滞在制作プログラム」「居候作家システム」などなどさまざまな呼ばれ方をされる割に、なじみが薄いライター・イン・レジデンスについて取材したせいかをまとめたマ… もっと読む
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記事一覧

ニューメキシコの D ・H・ロレンス

ニューメキシコの D ・H・ロレンス

昨年の後半から日本国内のライター・イン・レジデンスを巡る状況に変化の兆しが現れている。

その皮切りとなったのは、万城目学が城崎温泉に招かれて執筆した『城崎裁判』である。

「温泉街での逗留執筆」というひじょうに日本らしいやり方で、当代きっての人気作家がレジデンスした訳だ。

さらに今年に入って開催された「おおいたトイレンナーレ2015」の基軸となる作品、小野正嗣の「再訪のとき」もレジデンスに関連

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「マガジン航」に浦河町での逗留体験記を寄稿しました

本や出版業界の現状や未来を批評・分析し、さまざまな取り組みのレポートも掲載していることで知られるウェブ媒体の「マガジン航」に浦河町での逗留体験記を寄稿しました。
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ライター・イン・レジデンスin浦河体験記 « マガジン航[kɔː]
http://www.dotbook.jp/magazine-k/2014/06/16/writer_in_residence_in_urakawa/

この記事は

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サバティカルとレジデンスの関係

 基本テレビは見ずにラジオを聴く生活をしているのだが、中谷美紀主演のドラマ「ゴーストライター」は好きでほぼ毎週見ている。
 スランプに陥った小説家がやむにやまれずゴーストライターを使う話だが、なぜこのドラマを受けて作家のサバティカル休暇の話が議論されないのか非常に不思議である。
 長期勤務者に対し1カ月〜1年の長期休暇を付与する同制度だが、欧米圏ではアーチストにもサバティカル休暇がある。「芸術家っ

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ディズニーランドとジャック・ケルアック-1/5

ディズニーランドとジャック・ケルアック-1/5

『路上』の旅に登場しないフロリダの足跡を訪ねて

 ディズニーランドとユニバーサルスタジオ、そしてケネディー宇宙センターを抱えるフロリダ半島中部の街、オーランド。ここにジャック・ケルアックの家がある。1軒だけではない。2軒だ。大衆娯楽と観光の一大拠点として知られるこの街とケルアックの取り合わせは、とても奇妙に映る。

 ケルアックが晩年をフロリダで迎えたことはよく知られている。しかし、出世作『路上

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ディズニーランドとジャック・ケルアック-2/5

ディズニーランドとジャック・ケルアック-2/5

●第一の家

 姉夫婦が住むイエーツ通り1219番地から2ブロック南に移動したシェイディーレーン・ドライブとクラウサー・アヴェニューの角地。ここがケルアックの新居だった。オーランドのダウンタウンから北西方向に車で10分くらい移動した場所である。

 この家の存在はケルアックの伝記類には記されておらず、1996年に発見されるまで全く知られていなかった。

『路上』が出版されたとき、ケルアックは根無し

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ディズニーランドとジャック・ケルアック-3/5

ディズニーランドとジャック・ケルアック-3/5

●第二の家

 義兄との折り合いの悪さから一旦ニューヨーク州ロングアイランドのノースポートに居を移したものの、彼はすぐにオーランドへ戻ることを考えはじめた。無頼のイメージとは結びつかないが、英語の国で暮らすフランス語話者で、少数派のカトリック信者でもあるケルアックにとって、家族の結びつきはなによりも大切なものだった。

 義兄もふくめた家族全員でファンの視線を気にせず暮らそうと考え、ダウンタウンか

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ディズニーランドとジャック・ケルアック-4/5

ディズニーランドとジャック・ケルアック-4/5

●ケルアックが住んでいた、という事実こそ

 現在、この家はライター・イン・レジデンスと呼ばれる「作家のための滞在制作型の施設」として活用されている。運営主体はオーランドの有志がつくった NPO で、無報酬のスタッフが正業の傍らボランティアで働いている。

 私がケルアック・ハウスを訪ねたのは2013年5月の下旬だった。この家に関する日本語の資料は一切なく、ネットで下調べした上でNPOと連絡をとっ

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ディズニーランドとジャック・ケルアック-5/5

ディズニーランドとジャック・ケルアック-5/5

●抜け落ちた個人史

 オーランドのケルアック・ハウスが顧みられなかったのは、ケルアックのイメージがフロリダと結びつかなかったのが一因だろう。繰り返しになるが、三度に渡る「路上」の旅で、彼はフロリダに立ち寄っていない。

 かといってビートニクスの中心地だったサンフランシスコやニューヨークにも長い間住んでいたわけではない。

 マサチューセッツ州ローウェルの生家に言及する研究者は多い。活気はないも

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お知らせ

ケルアックハウスに関する詳しいレポートは拙作(電子書籍)を参照して下さい。

2013年の取材当時、この家に関する記事は一度として日本語で書かれたことがなく、物件を訪れた日本人もいませんでした。このノートを公開した2015年4月現在も依然として私以外の人間が、日本語でこの家のことを書いた形跡はありません。

元記事は映画『オン・ザ・ロード』の日本公開のタイミングに合わせて取材・執筆しました

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【試し読み】吉田恭子「九龍に充実するオルタナティヴなリアル──香港バプテスト大学国際作家ワークショップ滞在記1」(『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』より)

【試し読み】吉田恭子「九龍に充実するオルタナティヴなリアル──香港バプテスト大学国際作家ワークショップ滞在記1」(『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』より)



吉田恭子「九龍に充実するオルタナティヴなリアル」
(『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』より)
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「国際作家工作坊」国際創作ワークショップ 先週2月17日から香港バプテスト大学に滞在している。先週から咳が止まらない。喉の腫れ用にもらった抗生物質を飲み切っても変化はなく、フランスで買ったアルファアミラーゼの錠剤とアメリカで買ったナイキル咳用シロップを持って先週の日曜日に入港。翌日学生

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【保存版】世界のライター・イン・レジデンス・リスト

【保存版】世界のライター・イン・レジデンス・リスト

海外のライター・イン・レジデンスに参加するのが夢で、2010年代の序盤から中盤に掛けて猛烈な勢いで調べまくっていました。
そもそも論として日本語圏には「どんなレジデンス・プログラムがあるのか」というリストさえなく、リスト作りから着手した覚えがあります。

あれから10年近く経ち、国内数カ所と台湾でレジデンスを経験したことで、情熱は薄れました。手間と時間を掛けて調べ上げたリストですが、自分一人で秘匿

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「書き手の未来」を巡るレジデンスの旅

「書き手の未来」を巡るレジデンスの旅

*この原稿は2013年に書いたものの、発表のあてがないままお蔵入りしていたものです。
この原稿の執筆当時、日本には日本人文筆家を対象とした常設のレジデンス制度がありませんでした。
若干状況が変化しましたが、2020年現在も有効な内容だと思いますので、投稿いたします。

●作家に書斎と居住スペースを提供し、金銭負担なしで創作をサポートする制度
 挨拶代わりに出版不況が口にされるこのご時世。景気の良い

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ライター・イン・レジデンスに参加した日本人作家たち

ライター・イン・レジデンスに参加した日本人作家たち

先日ライター・イン・レジデンスに関する記事を投稿したついでに検索したら、こんな記事を見つけてしまった。

アイオワ大学創作学科・国際創作プログラム(IWP) に参加した柴崎友香さんと瀧口悠生さんの対談だ。

僕がレジデンスに関してリサーチしていたのは2013〜14年頃。なんとか参加したくてかなり突っ込んで調べていたのだが、まったく理解されなかった。
こちらは「作家/ライターを助成してくれる制度なの

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ケルアックハウスのこと〜抜け殻となった「作家の痕跡」をめぐる話

ケルアックハウスのこと〜抜け殻となった「作家の痕跡」をめぐる話

以下の記事は某メディアに掲載されずにお蔵入りしたものです。
伊勢市主催の「クリエイターズ・ワーケーション2020」が盛り上がっていますが、関連する話題だと思いますので公開いたします。

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 地方創生が盛り上がるなか、空き家再生に取り組む人が増えていますね。この動きがポピュラーになったのはごく最近のことですが、海外では古民家や空き家の修復事業が昔から行われてきました。今日はフロリダのある

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