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「ブレードランナー」の精神を受け継いだ日本のアニメ群

ハリウッドには色々な映画監督がいるけど、日本のサブカルに影響を与えたという意味ではリドリースコットを超える者はおらんだろう。
彼の監督作品として
・エイリアン(1979年)
・ブレードランナー(1982年)

があり、このふたつの影響力は計り知れない。
あと個人的には、
・プロメテウス(2012年)
・エイリアン コヴェナント(2017年)

も好きだな~。
特に影響力あったのはやはり「ブレードランナー」で、ここで描かれた未来はスタンリーキューブリックが「2001年宇宙の旅」で描いた未来と真逆の性格。
キューブリックが描いた未来はツルンとしたメタリックで無機質なのに対して、スコットの方は雑多で薄汚れたオーガニックな未来を描いた。
ちなみに、前者の未来観を受け継いだのが手塚治虫であり、後者の未来観の受け継いだのが大友克洋士郎正宗である。

キューブリックが描いた未来
スコットが描いた未来

どっちの未来も、令和という「未来」にいる我々の眼から見て間違ってないんだよね。
現実は、その両方の要素があるんだから。
ただ私は、「ブレードランナー」の世界観が好きでねぇ。
何がいいって、「レプリカント」だよ。
アンドロイドという無機的なものが、極めてオーガニックに描かれていた。
見た目では、人間とレプリカントを判別できない社会。
ゆえに、ちょっとヤバい。
この設定、後に日本のアニメでも数多く取り入れられるようになったよね。
その草分けともいえるのが、「バブルガムクライシス」だと思う。

「バブルガムクライシス」(1987年)

「エイリアン」の影響下で「ガルフォース」という傑作OVAを作った会社が、第2弾として今度は「ブレードランナー」的なのを作った、というふうに解釈してくれ。
キャラデザも、「ガルフォース」とめっちゃ似てるでしょ?
設定もなかなか凝ってて、ある時期に大地震により首都が壊滅したらしく、その復興に大きく寄与したのが「ブーマ」というアンドロイドであり、それを製造した企業が復興後の首都を牛耳ってるという世界観。
ブーマは、いってみりゃレプリカントである。
普通の人間と見分けがつかず、その一方人間を遥かに凌ぐ身体能力を有している。
首都は非合法ブーマを使った犯罪が多発する環境になり、警察もブーマ犯罪専門の「ADポリス」を組織するほど。
で、この物語の主人公は、民間の対ブーマ犯罪対策組織の女性エージェントたちである。
このアニメはヒットしたらしいけど、個人的には「ガルフォース」ほどには評価していない。
メインヒロインを声優じゃなく歌手が本職という人がやっていて、実際その役柄もエージェント兼歌手になっており、マルチメディア戦略として劇中歌をCDでガッツリ売っていこう、という魂胆がミエミエなのが痛いし。
この本編よりは、スピンオフである「ADポリス」(OVA版)の方がアニメとしての出来が断然いいと思ったなぁ。

「ADポリス」(1990年)

「バブルガムクライシス」と「ADポリス」の違いは、美少女エージェントが主人公か否かというだけの差である。
闘う相手は両作品とも違法ブーマゆえ、物語そのものに大きな違いはない。
でも、このての話は美少女エージェントでやるより、普通に刑事モノとしてやった方がしっくりハマるんだよ。
「ブレードランナー」だって、あれはハリソンフォードというオッサンがやったからこそ、哀愁あるハードボイルドとしてキマったわけでしょ。
この世界観で、敢えて美少女を主人公にする必然性がないんだ。
その点、「ADポリス」は敢えて主人公を明確にせずに群像劇として、ブーマ犯罪と警察組織を俯瞰する作風になっている。
ゆえに、めっちゃハードボイルドな雰囲気。
OVA版(1990年)とTVアニメ版(1999年)があるが、OVA版(全3話)の方が圧倒的にいい。
ここでは「攻殻機動隊」以上に、義体化をすることの怖さをリアルに描いてくれている。
付け加えると、番外編の映画(タイトルは「PARASITE DOLLS」)もあるんだわ。
これは監督・中沢一登、脚本・小中千昭、キャラクターデザイン・恩田尚之というメンツを揃えてるだけあり、めっちゃハードボイルドで良かったよ。

「PARASITE DOLLS」(2004年)

さて、こういう系統のものをもうひとつご紹介したい。
それは、「ARMITAGE III(アミテージザサード)」というOVAである。
めっちゃサイバーパンクなやつなんだけど。

「ARMITAGE III」(1995年)

なんや、「攻殻機動隊」のパクリかいな?と思ったかもしれんが、OVA発売としてはむしろこっちの方が早かったんじゃないかな。
日本国内ではさっぱり売れず、でも米国でかなり売れたらしい。
思えば「攻殻機動隊」も、先に火が点いたのは米国じゃなかったっけ?
サイバーパンクを受け入れる土壌は、あっちの方が先にできてたんだろう。
で、こういうOVAは当時VHSだったんだけど、日本はDVD化せず、でも米国はきっちりDVD化したもんだからそれを逆輸入し、その英語版に日本語字幕をつけたものだけがずっと流通してたという。
日本制作のアニメだというのに、妙な話である。
しかもその英語版、キーファーサザーランド(ジャックバウアーの人)とかの大物が声優をやってくれてるわけで、このへんからして「ARMITAGE III」の日米温度差が感じられるね~。

このコンビが主人公だが、草薙+バトーに少し似ている・・

結局、米国側の資本で劇場版新作まで作られるという始末で、米国ってば、どんだけ「ARMITAGE III」大好きなのよ(笑)。

米国ではTシャツになるほどの大人気!
劇場版の続編「ARMITAGE III: DUAL-MATRIX」(2001年)

ちなみにだが、日本は2年前にようやく日本語版DVDを制作。
20年以上も前の古いアニメながら、今さらじわじわと日本国内での知名度が上がりつつあるらしい。
で、この物語の内容についてだが、舞台は地球の植民星になっている火星。
ここではアンドロイド工学が地球よりも発達しており、それこそ「ブレードランナー」のレプリカントみたく、人間と見分けがつかないのもある。
じゃ、彼らに人権はあるのかというと、ないんですよ。
よって彼らは素性を隠して人間のフリをしながら生きてるんだが、ヒロインのアミテージも表向きは有能な女刑事、でも実はレプリカントである。
しかも「サード」という特殊な素体で、これは世間に秘匿されてるものの、どうやら子供を出産することもできる最新鋭タイプみたい。
で、彼女が現在捜査している連続殺人事件において、その被害者の全員が「サード」であることが判明する。
さて、その犯人、およびその犯行の目的とは・・?
というのが大まかなあらすじで、かなり硬派なサスペンスである。
これ、米国でウケたのに日本でウケなかった理由は、おそらく絵だろうね。
画がアメコミ風で、美少女モノでありつつも萌え要素がほとんどない。
「バブルガムクライシス」は、漫画家・園田健一が美少女のキャラデザしたからウケたのであって、国内市場を想定した場合、ああいう感じのキャラにしないと逆にキツイってことね・・。

こういう画風は↑↑、「萌えキャラは嫌い」という人にのみハマるのかもしれない。
これの監督は越智博之さんという人で、「ARMITAGE III」以外だと「太陽の船ソルビアンカ」の監督を手掛けてるんだが、これもまた日本国内より米国の方で売れたやつである(もともと日米合作だったっぽい)。
もはや、そういう人なんだと認識した方がいいだろう(笑)。

「太陽の船ソルビアンカ」

私は、個人的に結構好きなんだけどね。
「ARMITAGE III」はそのうちハリウッド映画化される可能性も高いらしいので、その時にまた再評価されることを期待しよう。
作品のメッセージ性としては、「ADポリス」と非常によく似ている。
「ARMITAGE III」も「ADポリス」も、「攻殻機動隊」の悲哀要素を増幅してそこを重点的に描いてる感じ、といえば作風が伝わるだろうか。
よってエンタメ度はさほど高くなく、一般ウケしないが、でも分かる人には伝わる面白さである。
いわゆる、オトナ向けだね。
「攻殻」でいうと、神山版や黄瀬版より、押井版に近い作風かと。

話をまとめると、今回私がお薦めしたいのは4つ。

ADポリス(OVA版)全3話
PARASITE DOLLS(ADポリスの番外編劇場版) 全1話
ARMITAGE III 全4話
・ARMITAGE III: DUAL-MATRIX
(続編の劇場版) 全1話

ちなみに、「ADポリス」は「バブルガムクライシス」を見ていなくても全く問題ありません(全く絡まないので)。
4作品ともフル動画がネットにアップされてるので、興味があれば見てみてください。


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