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これほど評価が分かれた作品はないのでは?「SonnyBoy」

今回は、「SonnyBoy」について書こうと思う。
これは2021年の作品で、広い層に支持されたというよりは、限られた層に熱狂的な支持をされたという作品だね。
文化メディア芸術祭で優秀作品賞受賞。
面白いアニメなのは間違いない。
ただ、スマホ触りつつの「ながら見」などには絶対に適さないタイプだ。
ぼ~っと見てたら、間違いなく作中で示された大切な情報を見落とす構造になってるから。

ひとつ理解しておくべきなのが、これが非常に作家性の強いアニメだということ。
スタッフがみんな集まって協議の上で作ったというよりは、ひとりの作家の独創力をベースに作り上げた感じがする。
その作家が誰かといえば、夏目真悟監督。
「ワンパンマン」「ブギーポップは笑わない」「ACCA13区監察課」
「スペースダンディ」の監督といえばご理解いただけるだろうか。
今までは原作モノが多かった彼が、原案・脚本・監督を全てひとりでやったのが、この「SonnyBoy」である。
へぇ、この人って実はこういう作家性だったのか、と驚いた人も多いだろう。

私は、この作品で夏目さんが一体何をやりたかったのか、少しだけ分かる気がする。
多分それは、「アンチいまどきのアニメ」じゃないかな?
というのも、この作品はかなり確信犯的にアニメのセオリーを外してるのよ。
その確信犯的な部分を列挙してみようか。

オープニングのアニメがなく、曲もかからず、作品タイトルも出ない。
・エンディングにもアニメがなく、黒画面のスタッフロールのみ。
・声優が主題歌を歌ったりしない。
・メインキャストのモノローグがない。
・異世界モノなのに、特にアドベンチャー的展開にはならない。
・超能力モノなのに、全くバトル展開にならない。
・学園モノなのに、全くハーレム展開にならない。
・悪役っぽいキャラは出るのに、特に対決するでもなく、それらはフェイドアウトしていく。
・キャラ作画に「いまどき感」を出さず、敢えて80~90年代に活躍した江口寿史という懐かしい人を起用。
・ハッピーエンドにならず、かといってバッドエンドにもならない。


なんていうかな、全てが逆張りなんだよね。
いまどきのアニメって、主人公が異世界転生して超能力を得たなら、多少はオイシイ思いをするでしょ。
しかし、この作品の主人公は何もオイシイ思いをしていない。
舞台はファンタジー世界でありつつ、物語はファンタジーじゃなく、リアルなんだよ。
最初は令和版「漂流教室」やるつもり?と思ったが、そういうサスペンス・ホラー要素があるわけでもない。
そう、そのてのマーケティング的なセオリーを、ほとんど放棄してるんだよな。

そして、この作品最大の特徴は、モノローグや説明要員のキャラを使ったりせず、画だけで状況説明を簡潔に済ませてしまうところにある。
たとえば、ヒロイン・希がアクシデントで死ぬ(?)場面など、気を抜いて見てたら何が起きたか全く分からないと思う。
なんていうかな、こういうのって「映画的」だよね。
劇場用映画は、大体が90~120分でひとつの物語を完結させなきゃならない尺の都合上、できるだけ簡潔に表現するものさ。
基本的に100%の映像表現は期待できず、表現してくれるのはせいぜい70%ぐらい?
残り30%は、観客が自分の頭で考えて余白を埋めていかなきゃならんのよ。
映画ファンもそこをよく分かってるので、「ちゃんと分かりやすく作れ!」とか絶対言わないよね。
テレビアニメの場合は映画に比べるとずいぶん尺に恵まれてるんだが、夏目監督は、それでも敢えて「劇場仕様」の70%表現でいったんだと思う。
その劇場仕様の心意気は、黒画面のエンドロールでよく分かるでしょ?
その前提を踏まえれば、「ちゃんと分かりやすく作れ!」なんて言う視聴者がどれほど野暮なことか、ご理解いただけると思う。
きっと夏目監督のスタンスって、「そういう方は、なろう系をご覧になって下さい」という矜持かと。
確かに、テンプレで構成された分かりやすいアニメなんて、世の中にいくらでもあるわな。

最終回、妙に切ないヒロイン・希との再会も、あのビターさは実に映画的だと思わないか?
なんか、昔の新海誠を思い出してしまった。
少なくとも、いまどきのテレビアニメ的じゃないよね。
主題歌が冒頭でなく、常にラストにかかるのも映画的。
銀杏BOYSの「少年少女」、同じ曲だけど最終回だけはアコースティックになってて、かなりエモかった。
ひょっとしたら夏目監督、この企画は映画用に温めてたのかもしれん。
というか、彼はテレビじゃなく、今後の仕事は映画の方に絞るんじゃない?
「SonnyBoy」を見る限り、逆にそうしないとマズい気すらした。

いや、個人的には今後もテレビアニメ作ってもらっても全然OKなんだけど、ただ視聴者の反応がね・・。
というのも、某サイトの
「Sonny Boy サニーボーイ」はおもしろい?つまらない?アンケート
において、
有効投票数1122票の内訳が
【おもしろい】311票(27%)
【つまらない】811票(72%)

という結果になっており、圧倒的につまらないということになってしまったのよ。
いや、でもね、その一方で支持する人たちの熱が逆に凄いんだ。
「こんな凄いアニメは久しぶり!」とか「アニメ史に残る大傑作!」とか、ちょっと尋常じゃない絶賛ぶりである。
2021年の覇権に推す声もあった。
つまり、めっちゃ絶賛する人とめっちゃ貶す人ばかりで、その中間となる層がぽっかり空白になってしまってるようなイメージ。
特に支持派については、たとえばYouTubeの「SonnyBoy」考察動画はかなり多い。
「つまらない」といわれたアニメでここまで考察動画が盛り上がった例は、おそらく「SonnyBoy」が初めてじゃない?

多分、これが映画だったらまた話は違ったと思うよ。
映画という媒体なら事前情報を得て能動的に来る客層だし、ちゃんと監督の作家性を理解する層が多いかと。
しかしテレビアニメじゃ、そういうわけにいかんからなぁ。
うん、日本には映画向きの作家とテレビ向きの作家がいると思うのよ。
夏目さんは、明らかに映画向きだ。
彼は、おカネを出しても見るべき価値のあるものを作るタイプだと思う。
逆に、なろう系の劇場版、そうだな、たとえば「異世界はスマートフォンとともに」が映画化されるとして、それを見にいく人って絶対いないでしょ?
でも、テレビなら普通に皆さんが見るわけさ。
ちなみに、某サイトの「異世界はスマートフォンとともに」はおもしろい?つまらない?アンケートにおいて、有効投票数952票の内訳は
【おもしろい】322票(33%)
【つまらない】630票(66%)

という結果になっている。
まぁ、こっちもつまらないという結果は同じにせよ、ポイント差で見ると
「Sonny Boy」はおもしろい⇒27%
「異世界はスマートフォンとともに」はおもしろい⇒33%
というわけで、数字上は「Sonny Boy」の負けです。
こういうのは、納得いかんなぁ、と思う。

もし、「Sonny Boy」を見てないなら、是非1回見てくれ。
といっても、ハマったら1回じゃ済まないんだけどね。
むしろ何回も見直して、分からなかったところを復習したくなる。
そういう作品です。
ちなみに私は、2周目が一番感動しました。

この作品、悠木碧さんのうまさは尋常じゃない

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