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途上国ベンチャーで働いてみた(バングラデシュ編)

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この記事は、2019-2021年の間にバングラデシュ(ダッカ市)にてとあるヘルスケアベンチャー事業の立ち上げに奮闘した30代女性の記録として書かれたものです。 (すべての内容は個… もっと読む
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途上国ベンチャーで働いてみた:検査室、武装警備に至る

途上国ベンチャーで働いてみた:検査室、武装警備に至る

「なにがあったんですか」

病院側のマネジャー層と日本人経営メンバーがかけつけてくれた時、殴り込みをかけてきた5-6人グループのリーダーはあわや医師Aを殴らんとするばかりの姿勢で、私の執務スペースには殺気立った不穏な空気が満ちていた。
殴りこんできた側は猛烈な勢いで自身の行動の正当性を口角泡飛ばして主張し始めたが、医師Aは最後まで冷静さを維持しながら静かに主張した。
「この人たちが急に押しかけてき

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途上国ベンチャーで働いてみた:妨害工作と暴力事件

途上国ベンチャーで働いてみた:妨害工作と暴力事件

途上国の、それも職場で、政治抗争からの暴力事件に巻き込まれた、という経験は生涯に一度であってほしいと思う。

でも、きっと直接的な当事者ではなかった私以上に、「日本人がバングラデシュのためになにか成そうというのであれば協力するよ」と、さまざまなリスクを負って仲間になってくれた、検査室のマネジメントを引き受けてくれた医師にとって、公衆の面前で拳を振り上げられ暴言を浴びせられたこの事件は、とても自尊心

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途上国ベンチャーで働いてみた:出逢いと政治抗争の狭間

途上国ベンチャーで働いてみた:出逢いと政治抗争の狭間

2020年中頃から、バングラ現地の病院内検査事業を承継し、病院リニューアルオープンに合わせて院内検査室を刷新するプロジェクトが本格的に動き始めた。前回の記事で書いたMOUに基づく準備段階から、コロナ騒ぎで建設作業が滞った半年近くを経て、ようやくといった感覚だった。

(その間、PCR検査室の立ち上げや新規顧客開拓に奔走していて、新しいプロジェクトどころではなかったので、工事が滞っていたのはむしろあ

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途上国ベンチャーで働いてみた:M&Aプロジェクトはじまる

途上国ベンチャーで働いてみた:M&Aプロジェクトはじまる

2019年にバングラデシュに渡り訪問健診事業の立ち上げに関わり始めたころから、すでにとある現地病院の開設プロジェクトと当該病院における院内臨床検査室の受託・運用を請け負う計画が持ち上がっていることは聞いていた。

病院側経営陣との間で正式な契約交渉に決着がついていない中、病院から提示される開設スケジュールと現場工事の進捗状況には大きな乖離があり、いったいいつからこちらの資本を投入してプロジェクトに

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途上国ベンチャーで働いてみた:PCR検査室をゼロベースでつくろう!(通算390日目)

途上国ベンチャーで働いてみた:PCR検査室をゼロベースでつくろう!(通算390日目)

バングラにやってきて1年が過ぎ、当初はバックオフィス担当だったはずがCEO代理になり、気がつけば私は引いたこともない臨床検査室の図面とやらを引いていた。

上図はほぼ最終形に近いレイアウト図で、面積もわかるように実際の床タイル(2フィート×2フィート)の数に合わせて製図されたものだが、初めはとりあえず白紙に手書きで動線を書くところから始まった。

あらためて書くが、私たちは2019年からバングラデ

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途上国ベンチャーで働いてみた:PCR検査ビジネス戦国時代(通算360日目)

途上国ベンチャーで働いてみた:PCR検査ビジネス戦国時代(通算360日目)

2020年7月、人口2億人近くを擁するバングラデシュ共和国内のコロナ陽性患者は一日5000人程度に押さえられていたが、政府系検査機関が無料で提供するPCR検査は供給量に制限があり、有症状者のみに検査受診枠を絞ってもなお、検査予約から検査実施までに一週間の待ち時間があるといわれている状況であったことから、感染者数の実態は誰にも把握できない環境だった(一週間も待っている間に治るよねっていう…)。

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途上国ベンチャーで働いてみた:コロナ対応病床を確保せよ(通算330日目)

途上国ベンチャーで働いてみた:コロナ対応病床を確保せよ(通算330日目)

2020年6月に入る頃、私たちはto B営業に精を出していた。職場向けの衛生管理コンサルタント事業を始め、各所にEメールやSNSマーケを通じてPRを続けるうちに、少しずつ企業からの前向きな反応が得られるようになってきていた。

とはいえ、そもそも現地社員の中で営業トークができるメンバーは一人しかおらず、営業資料の作り方からコールドコールのスクリプトまで、私から日本人の若手駐在社員に伝え、それをもと

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途上国ベンチャーで働いてみた:ピボット模索(通算290日目)

途上国ベンチャーで働いてみた:ピボット模索(通算290日目)

2020年4月の半ば、コロナ感染の拡大を恐れたバングラ政府は交通規制も伴う全面的都市封鎖(ロックダウン)に踏み切った。
バスが動かないとなっては職員をクリニック兼オフィスに来させる足もない。事態は健康診断の需要など起こるわけもない状況であり、事業そのものの危機でもあった。

社員全員を在宅勤務に切り替えると同時に、新しいサービスを2つ立ち上げることにした。
一つ目は遠隔問診事業。これまで単価の低い

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途上国ベンチャーで働いてみた:コロナとボイコット(通算270日目)

途上国ベンチャーで働いてみた:コロナとボイコット(通算270日目)

2020年4月には、バングラ現地の人々の間にもコロナに対する恐怖が拡がりつつあった。3末から始まった不要不急の外出禁止、医療機関や市民生活を維持するための最低限の機能以外は店舗閉鎖とする措置、いわゆるロックダウンは、恐怖と同時に人びとの生活を直撃した。

社内で初めに仕事をボイコットし始めたのは、まさかの医者たちだった。ある朝、始業時間になっても医者の一人が出社してこない。診察(健康診断の結果説明

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途上国ベンチャーで働いてみた:コロナと国境封鎖(通算250日目)

途上国ベンチャーで働いてみた:コロナと国境封鎖(通算250日目)

2020年3月末。コロナが思っていたよりヤバいものらしい、、という声が年明けから日本でも大きくなりつつあったが、ついにバングラの国際便が全面休航になるというニュースが飛び込んできた。つまり、国境封鎖である。

ちょうどその頃、現地では日本人のインターン女子学生を一人受け入れており、そのニュースを聞いた翌々日の朝には日本に戻れる飛行機の最終便が出るとのことだったので、事は急を要した。
私や正社員の男

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途上国ベンチャーで働いてみた:組織再生(通算180日目)

途上国ベンチャーで働いてみた:組織再生(通算180日目)

2019年12月。バングラ現地法人が組織としてクラッシュする出来事が起こった。

ごり押しのトップダウンで組織を率いていた現地社長が自ら地雷を踏んでしまった。それまで、恐怖政治のもとで積み上がってきた社員の不満を押さえ込める唯一の重し、リーダーが持つ勢いと強さによるカリスマ性が、逆回転の渦を引き起こし、現地社長の存在は一転して嘲笑と罵倒の対象となった。

バングラの人たちはとても感情的で、扇動され

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途上国ベンチャーで働いてみた:不協和音と重圧(通算145日目)

途上国ベンチャーで働いてみた:不協和音と重圧(通算145日目)

2019年12月。

新店舗オープンのPRイベントをやってから一ヵ月が過ぎ、なんとか市内中心部に構えた健診センターに来店する個人客の数は増えつつあった。

他方で、お客さんの数が増えるほどトラブルも増えた。
たった数人しか待合室にいないのに待ち時間が長い、レポートをお届けするまでの時間が長い、トイレットペーパーの交換がされていない etc.....

これまでの数少ないお客さん対応に慣れてきたオペ

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途上国ベンチャーで働いてみた:渋滞と車酔い、そして生産性について(通算135日目)

途上国ベンチャーで働いてみた:渋滞と車酔い、そして生産性について(通算135日目)

2019年11月。バングラ生活が4ヶ月を過ぎても、慣れることのできなかったもの。それは、

交通渋滞!10kmの距離かつ直通の一本道が走っている地点間でさえ、下手をすると片道3時間かかる。道路が空いてさえいれば、30分以内に到着する距離だ。

たとえば、一日に数件営業回りをしようと思うと、道路が空いている朝7時半に自宅を出たとして一件目のアポが午前8時半、次のアポまで移動時間に鑑みて2時間は空けた

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途上国ベンチャーで働いてみた:深圳ファンドレイジングの旅(通算130日目)

途上国ベンチャーで働いてみた:深圳ファンドレイジングの旅(通算130日目)

2019年11月、突然、中国の深圳(シンセン)に出張に行ってくれ、と頼まれた。

なんでも、社長がバングラでこの事業を立ち上げる時にサポートしてもらったバングラ人の投資家が、バングラ・ダッカ証券取引所と中国・深圳証券取引所のつなぎ役*を担っているらしく、中国からの投資をもっと呼び込むためにバングラ国内のベンチャー企業を引き連れて深圳(シンセン)でピッチイベントを行うというのだ。

*ダッカ証券取引

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