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昔読んだ本たち

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過去にノートやSNSに書いた本の感想文をnoteに転記したものです。 最近読んで感想文を書いたものと分けたくて作りました。
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記事一覧

閉じられた別世界-『やさしい訴え』小川洋子(1996年)

閉じられた別世界-『やさしい訴え』小川洋子(1996年)

 高校の図書室でこの人小川洋子の『冷めない紅茶』を見つけたとき、きっと私はこの作家を気に入るだろう、と思った。『余白の愛』とか『薬指の標本』とか、語感の美しいものを、私が好むからだ。
 そのあと10冊ちかく読んだが、ぱたりと止めてしまった。物語の空気が重厚すぎるとおもった。主人公たちは、そもそものはじめから、前提として「お嬢さん」であるように感じたし、そこに軽やかさではなく、よく躾けられた不自由さ

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「苦しい」よりも「生きられない」よりも「人生」は上―『乳と卵』川上未映子(2008年)

「苦しい」よりも「生きられない」よりも「人生」は上―『乳と卵』川上未映子(2008年)

 胃痛と、それをかばっての腰痛の併発。そして全体的に行き止まりで、足踏みしているような倦怠感を抱えながら寄った本屋で、やっつけ気分で買った。
 この小説は私が大学生だったときに読んでいる。なのに今回買うのか?もったいなくないか?など、考えるのが面倒だった。しんどくて自暴自棄になっていて、その「無駄かも精神」に唾を吐きたかった。

 川上未映子×村上春樹のインタビュー本『みみずくは黄昏に飛びたつ』で

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幸福だと思ってみたい―『自殺』末井昭(2013年)

幸福だと思ってみたい―『自殺』末井昭(2013年)

 ノンフィクション作家・河合香織の『絶望に効くブックカフェ』(小学館文庫/2017年)で紹介されていて、ずっと死にたいと思っていたので購入した。文庫本はなく、買うのに逡巡したが、その迷いがめぐりめぐって私を死にたくさせているのだ。

 小学校にあがったばかりの頃に母親が自殺した話
 青木ヶ原樹海で仕事をしている人の話
 両親が心中した女性へのインタビュー
 お金と自殺について
 最後の「迷ってる人

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書く、書きたい、書くことしかできない-『ここから世界が始まる』トルーマン•カポーティ

書く、書きたい、書くことしかできない-『ここから世界が始まる』トルーマン•カポーティ

 物語を読みたいとずっと思っていた。物語に逃げこんでそこを居場所にしたいと。この頃本を買いすぎているのにどれも気分に合わないように思えた。
 
 青山ブックセンターの目の高さの棚に並べられたカポーティの私の知らない短編集を、なぜ手に取ったのかわからない。彼はずっと前に亡くなっているのに、こうしてちらほら新刊や新編集が出版されるのだ。文庫本のあらすじに目を通してから、帯の裏面の村上春樹の解説の抜粋を

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「わたしわたしわたし!!!」のことを書きつけろ ー『かみにえともじ』本谷有希子・イラスト:榎本俊二

「わたしわたしわたし!!!」のことを書きつけろ ー『かみにえともじ』本谷有希子・イラスト:榎本俊二

〈当初の感想〉
 実にくだらない。私は元来「くだらない」をむしろ愛することばとして使用しているが、これは本来的な意味においてくだらない。
 自意識過剰じゃない人なんていないと思っていたが本谷有希子のそれは度を超えている。これが本物だった。私なんて全然だったんだ。私は私は私はて、この本の内容に興味の持てる人は本谷有希子のストーカーか本人くらいのものだろう。誰もが、「私は」で始まる文章を即座に100は

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あなたも強い気持ちになれるー『憂鬱たち』金原ひとみ 

あなたも強い気持ちになれるー『憂鬱たち』金原ひとみ 

 彼女のことをなんとも思ってない時期の私が見たら「安直なタイトル!この人、同じことしか書けないの?」と思っただろうが、私は今や何をおいても金原ひとみ読者なので「なんて端的で率直なタイトルなんだろう」と肯定した、私が好きだ。

 7つの短篇集。そのすべてが「ミンク」や「ピアス」など、カタカナ3文字のタイトルが並ぶ。
 主人公神田憂は精神科に行こうと毎回決意して外出するものの、さまざまなものに阻まれ、

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