2019年3月27日―
わたしにはこれまでこの10年で、ベトナムでの小さな赴任経験と、さらに小さな、ここスペインでの赴任経験がある
いずれの国でも、例えば食あたりや風邪で現地の病院にかかったことはあるが、昨夜はちょっと勝手が・・・違った
結論から書けば夜中に救急病院へ搬送され、首元に3本の麻酔とそして4針縫い、キッチンの床は血まみれに・・・
要するに日本ではない場所で、緊急事態が発生したのだ
朦朧とした意識で、キッチンの床から立ち上がったとき、まず視界に入って来たのは血だった。それに、砕け散ったガラス
ガラスはキッチンカウンターで使う珈琲メーカーにミネラルウォーターを供給させる為の水差しで、大型で分厚い。それが粉々ー
血はー
どうやら、喉元から溢れ出していてー
ふらつく足で、キッチンの壁にもたれかかり、そのまま玄関へ
玄関は5畳程のスペースがあり、壁面には大型の鏡が備え付けられている
そこに映った自分の姿ー
上半身は裸で、首元から血が止めどなく流れ落ちて・・・
白いバスタオルがあっという間に血に染め上がり・・・
誇張でも潤色でもなく、一瞬【死】が脳裏をよぎったー患部は首/大量の出血/異様な寒気
まさか・・・死ぬのか・・・こんなところで・・・
状況も悪かった
湯上りで身体が火照り、とにかく血が止まらないのだ
そして出血量に比例して砂時計のように足元から力が抜けて行くのが体感としてよくわかる
おまけにここは高層アパートの8階で、開け放っていたリビングの窓からの冷たい風がさらに体力を根こそぎにしていくー異様な寒気/閉めに行くことは不可能
ここが日本ならば、即座に救急車を呼べばいいが、そもそもスペインの救急車は何番?
仮に番号がわかってかけても、一般的にスペイン人は英語を話さない
仮に英語が通じても、この状況下でわたしの英語力での状況説明は不可能
だから即座に秘書のKYOKOさんへ電話ー
いや、待て。待てよ。
数時間前にKYOKOさんと電話で話したとき、【今日はこれからダンス教室なの♪】って言っていたはず
KYOKOさんー
案の定、電話を掛けても通じなかったが、しかしこのことが逆にわたしを冷静にさせた
身体中の震えは止まらなかったが、この状況下で、ダンス教室のくだりを思い出すことができ、「多分、捕まらないかな」と推測できるということは、少なくとも意識の混濁や思考力の低下はないはず。そして錯乱もしていないーOK
再び玄関に戻り鏡の前に立つと、血は止まらないが携帯で傷口と床に溜まった血を撮影し、【衝撃画像】をWhats upでKYOKOさんへ送信
ー頼む、気付いてくれKYOKOさん
喉元にどのように動脈が走っているのかは知らないが、恐らくざっくりいったのは静脈か
程なくKYOKOさんから着信があり、もの凄い勢いで【松澤さん、生きてますか!?】
【生きてます】と答え、状況を簡単に説明するとそれからのKYOKOさんの判断は迅速で適切だった
そして、そこからは深夜の大車輪だった
アパートから車で数分の救急病院へ連れて行ってもらいーこれにも改めて驚かされたが、会社は緊急事態を考慮して病院の側のアパートを提案してくれていたのだ
すぐにドクターが駆けつけてくれて、初診ー傷口の確認と血液検査
やはり、動脈には異常がないらしく安心すると、今度は別の恐怖が襲ってきた
まさか・・・縫うのか・・・
初めて乗った担架で病院の天井の蛍光灯を見ながら右折と左折を繰り返し、処置室へ
ここでもKYOKOさんがいなければ、ドクターと話すことすらままならないー結局のところ海外で働いていても、それは自明だが誰かの助けがないと生きられないのだ
そして、自分一人では結局のところ何もできないのだ
KYOKOさんは言ったー”松澤さん、どうやら縫うことになるらしいわ。傷はそんなに深くないけれど、傷口が大きいので何針か縫うみたいね”
神よー
恐怖で担架の手摺りを握りしめていると、程なくスペイン人の女医が現れた
この先生がしかし、スペイン人女優のペネロペ・クルスに似たもの凄い美人の先生で、一瞬傷の痛みが引いた
処置をされている間、目を瞑り奥歯を噛み、脂汗を流しながらペネロペ・クルスが出演した映画をひたすら思い出しながら耐え、耐えに耐えて処置が終わったのは深夜2時・・・
KYOKOさんと深夜の救急病院のエントランスに立ち、冷たい風を浴びながら聞いてみた
ーKYOKOさん、本当にありがとう。今回のこの御礼は一体どのようにして返せばいいだろうか・・・”
そしてこの夜は、治療を待つ間にKYOKOさんと多岐に渡って様々なことについて話し続けた
KYOKOさんは、小さくウフフと笑って言ったーそんなにしんみりしないで。とにかく早く治すことね。
KYOKOさんは天使で、同時にマリアだ
画像は翌日ーつまり今日ー朝から貧血気味でフラフラだったので、血を作り出すために旧市街でヴォリューム・ランチ
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