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The GORK 41: 「あの素晴しい愛をもう一度」
41: 「あの素晴しい愛をもう一度」
俺とリョウの二人は、博物館脇の植え込み前のベンチと車いすにそれぞれ腰を下ろして、煌々と輝く満月を見上げていた。
ベンチは盛り土の上に設えてあって、リョウがその頭を俺の肩に預けて寄り掛かるには、丁度いい高さだった。
「こうして二人で月を見るなんて久しぶりだな、、。」
「えっ?所長と一緒に月を見た事なんてあったっけ?」
俺は怒ったようなふりをして隣のリョウ
The GORK 40: 「サムライ」
40: 「サムライ」
まだ硝煙の匂いが立ち込める銃を両手に握り、それを煙猿に突きつけていたのは、裸の沢父谷姫子だった。
剛人を庇うかのように、ジリジリと、その位置を床に倒れ込んだ剛人に近づけている。
「面白いなお前、、、誰だ、、?」
「沢父谷姫子。」
動き出した人間剥製、沢父谷姫子が唇も動かさず、くぐもった声で応えた。
「沢父谷の顔面は外れるように作った、、それを被っているのか。」
沢父
The GORK 39: 「モンキー・マジック」
39: 「モンキー・マジック」
剛人は一瞬、煙猿に己の背中を見せ、そこから振り向きざま「鞘」を振り下ろした。
常人にとっては神速、、、煙猿には、わざと見せた背中自体が攻撃の的になりかねないギリギリのスピード。
打ち落とした鞘は、何か目に見えない鋭利な刃物によって見事に両断されていた。
その鞘を追いかけるように横払いに撃った剣が、一の太刀の時のように跳ね返される。
剛人は剣を青眼に構えた
The GORK 38: 「じんじんさせて」
38: 「じんじんさせて」
「その悪い癖を止めるのと一緒に、人形も返してもらえると有り難いな。」
煙猿は、突然後ろからかけられた声に驚きもせず、ゆっくり振り返った。
数メートル先に月光を浴びた男がうっそりと立っている。
なめし革のやや丈の長いジャケットが、月の光に濡れているように見えた。
左手には長刀を、鞘ごとぶらさげるように持っている。
「この俺が気づかないとはな、、、あんた、何者だ?
The GORK 37: 「ミスター・ムーンライト」
37: 「ミスター・ムーンライト」
煙猿が鼻歌を歌いながら上機嫌で俺の元に帰って来た。
なんとその曲はビートルズの「ミスター・ムーンライト」だった。
・・・もしかして、今夜は見る者を酔わせる程の美しい月が出ているのかも知れない。
それに煙猿は、資金繰りがつき薬の買い付けの目処がたった安心感で、いつもより多くの薬を服用している可能性もあった。
俺は、ここ数日の監禁生活の中で、煙猿という人
The GORK 36: 「勝手にしやがれ」
36: 「勝手にしやがれ」
ボディガードの福西は、少しの間、目を閉じて、自分の耳に挿入してあるイヤホンから流れ込むムラヤマ達の猥雑音を締め出し、代わりに先ほど確認したトイレの中にある小窓の様子をもう一度思い出した。
個室が外部に晒されている箇所は、ドアを除けばその小窓しかない。
それは隣の空き部屋のものだったが、この手の建物では、しつらえが部屋ごとに変わる事はない。
ムラヤマ達がいる背後
The GORK 35: 「我が良き友よ」
35: 「我が良き友よ」
『この仕事の報酬で、薬を何グラム購入するか、、』
薬を大量に買い付ければ、薬に枯渇していると思われ、こちらの足下を見る判断材料に使われるだろうし、かと言って少量の購入では、半島からの影響を下げる為にストックを増やすという目的が達成出来ない。
煙猿はそういった事を、ある人物を待つ間に、一人考えていた。
これから、人一人を殺すというのに、その事に付いては、何の緊張感
The GORK 34: 「氷の世界」
34: 「氷の世界」
煙猿の説明によると、俺が受けた第一段階の注射では、身体の剥製化はまだ始まらないのだそうだ。
ここでは極端な身体の不活性化だけが見られ、体内でプラスティネーションの準備だけが進められる。
それも第二液を使わず、数週間その状態を放置しておくと、身体は元に戻ってしまうらしい。
しかし、過去の複雑かつ大仰なプラスティネーション技術と比べると、この二薬の体内への注入だけですむ
The GORK 33: 「くちなしの花」
33: 「くちなしの花」
月の光りもない闇の中で、庭園の植え込みに潜みながら、博物館の様子を観察する。
博物館の周囲の地面には、アッパーライトが埋め込んであって、その幾つかが未だに点灯していた。
そのせいで、博物館は巨大な石碑のように見える。
剛人さんは視線を左右に走らせると、迷わず右前方に進み出した。
博物館の裏手の方向だ。
僕も遅れないように必死でついて行く。
博物館の裏手に回
The GORK 32: 「年下の男の子」
32: 「年下の男の子」
田沼工場地帯を縦貫する主幹道路からそれて、奥まった支道をしばらく走っていると、ヘッドライトの光の中に、東洋ケラミック製造山那工場と印刻のある大きなプレートが、厳つい門と共に浮かび上がった。
道は門前から左右に別れている。
それを見て剛人さんは、GT2000の進路を左にとった。
車の窓越しに工場の煉瓦積みの壁が、延々と続くのが見える。
「さっきのは、此所の裏門だ
The GORK 31: 「モンスター」
31: 「モンスター」
「助けてやらなかったのか、薄情な奴だな。」
不意に背後から声がした。
俺は振り向きざま銃を撃とうとしたが、下からすくい上げて来るような金属の打撃によって、銃ごと弾き飛ばされていた。
目の前に、まさかりを肩に担いだ黒のセーターとパンツ姿の男が立っていた。
セーターもパンツもタイトな物だったので、その体つきのスマートさが際立っていた。
目立った装備といえば、背中に背