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バックパッカーズゲストハウス

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二〇〇九年、二十七歳の時に、秋葉原にあるゲストハウスへ四ヶ月滞在したときの旅行記です。 著者の記憶違い、主観が多分に含まれています。また、主に登場人物に関して名前や設定を故意に… もっと読む
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バックパッカーズゲストハウス①

バックパッカーズゲストハウス①

*この話は実体験ですが、著者の記憶違い、主観が多分に含まれています。また、主に登場人物に関して名前や設定を故意に変えている部分があります。

 JR秋葉原駅から、南に三分も歩けば神田川が流れている。万世橋を渡って更に二分ほど歩いたところに、『秋葉原バックパッカーズ・ゲストハウス』という場所があった。雑居ビルを無理やりゲストハウスに仕立てていて、一泊いくらという貸し方は旅館法に引っかかるため、一ヶ月

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バックパッカーズゲストハウス②「寂しい男」

バックパッカーズゲストハウス②「寂しい男」

*この話は実体験ですが、著者の記憶違い、主観が多分に含まれています。また、主に登場人物に関して名前や設定を故意に変えている部分があります。

 東京で暮らす必要があった訳ではない。あえて理由を探すと、地方で暮らすフリーターという、つまらない役どころに飽きていた。そこで自分の役を変えようとしたのだ。本当はF1レーサーになりたかったが絶対に無理なので、努力も才能も必要無く、それでいて面白そうな役を探し

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バックパッカーズゲストハウス③「高速バス」

 仕事柄、稼ぎに浮き沈みはあるが、出費は常に多かった龍の懐事情に合わせて、送ってくるのが飛行機代かバス代か、その時によって違った。バスで東京を離れるときはいつも、
「もし、この街にもっと長いこと滞在したらどうなるのかな」と思いながら車窓を眺めた。

 東京、愛媛間をバスで移動するのはつらい。肉体的なことだけではない。私は酔うので、バスでも電車でも本を読めない。精神的に、何時間もただ座って、目を閉じ

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バックパッカーズ・ゲストハウス④「旅の計画」

バックパッカーズ・ゲストハウス④「旅の計画」

前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 それからしばらくし、前記したように風来坊になろうと思い立った。行き先は東京。風来坊なので定住はしない。かといって余りにも短いとただの旅行と変わらない。バイトでもなんでも大体三ヶ月したら飽きてくる。でも飽きてから先に見えるものがある。職場でいえば、誰々と誰々は本当は仲が悪いとか、あいつと

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バックパッカーズ・ゲストハウス⑤「荷物を担ぐ」

バックパッカーズ・ゲストハウス⑤「荷物を担ぐ」

 前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 フリーターなりのマナーとして、リタイヤを宣言してから一ヶ月ほど消化試合をこなした後、日雇い派遣の会社に登録した。当時、日雇い派遣は、「登録制バイト」と呼び方を少しマイルドに変えて、爽やかな印象のテレビCMを流す会社がいくつかあった。これは金貸しが明るいCMを流したがるのと同じ、悪いも

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バックパッカーズ・ゲストハウス⑥「トラックドライバーとラジオ」

前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 繁忙期の引っ越し作業は、朝六時集合で夜十時とか十一時まで仕事ということがざらだった。ヤバいことに社員は、十一時に我々派遣が帰った後もまだ、次の現場に向っていた。

 よく派遣されていた、引っ越しも請け負う運送屋に、「津川さん」という五十代のドライバーが居た。この業界の人としては珍しく、

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バックパッカーズ・ゲストハウス⑦「パンになった男」

バックパッカーズ・ゲストハウス⑦「パンになった男」

前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 自分でシフトを組める環境下で、二日続けて十五、六時間の肉体労働をこなすほど変態ではなかったので、私は一勤一休のペースで働いた。本業の人には到底敵わないが、よく働いた方じゃないかと思う。時間1,000円だか1,100円だか貰えて地方都市としては上等な時給だった。それでも、どういう分けか引

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バックパッカーズ・ゲストハウス⑧「モヒカンの誘惑」

バックパッカーズ・ゲストハウス⑧「モヒカンの誘惑」

前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 時間を切り売りする以外にも、なにか金を作る方法はないかと考えたが、私に出来ることは競輪の予想ぐらいだった。競輪の予想には、映写機を回すよりも専門的な知識がいる。そのスキルを頼りに、たまに入る日雇いで得た金を元手に競輪場に通った。しかし、手っ取り早く路銀を用意したいという思いに引っ張られ

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バックパッカーズ・ゲストハウス⑨「モヒカンの弊害」

バックパッカーズ・ゲストハウス⑨「モヒカンの弊害」

前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

「モヒカンのコンテストで世界チャンピオンになった」と龍が嘘くさい紹介をした美容師に刈ってもらった。自分で言うと信憑性に欠けるが似合っていた。愛媛に帰ると、お世辞なんて言うはずのない弟に、「今まで見たモヒカンの中で一番格好いいと」と褒められた。はたして弟がどれほどのモヒカンを見たことがある

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バックパッカーズ・ゲストハウス⑩「旅立つ前に」

バックパッカーズ・ゲストハウス⑩「旅立つ前に」

前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 私が雇われた立ち飲み屋は、元々野球中継を流し、おでんを出すような店だったのを、不良のイスラエル人が買い取り、自分好みにDIYした結果、昭和とサイケデリックが混在する空間になっていた。狭くてL字型のカウンターに八人並べば満席の店だが、大通りに面した路面店なのと、三百円から飲めること、同じ

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バックパッカーズ・ゲストハウス⑪「理由」

バックパッカーズ・ゲストハウス⑪「理由」

前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 なぜその日にしたのか覚えてないが、二月二十一日のバスに乗った。当時、山本一力の「背負い富士」、阿佐田哲也の「次郎長放浪記」と、立て続けに清水の次郎長物の小説を読んでいた私は、静岡に寄り道してから、東京に行くつもりだった。大阪まで一旦バスで出て、そこから静岡を目指そうと思っていたが、前日

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バックパッカーズ・ゲストハウス⑫「静岡で飲むションベン」

バックパッカーズ・ゲストハウス⑫「静岡で飲むションベン」

前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 十時間掛けて翌日の早朝に名古屋へ着いた。朝マックを食べたあと、ネットカフェで携帯を充電し、シャワーを浴びた。パソコンで静岡までの行き方を調べて、一番安かったので電車で行くことにした。急行なら正午には着きそうだった。名古屋の滞在はそれだけで終わった。

 愛媛―名古屋のバスの中で龍とメー

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バックパッカーズ・ゲストハウス⑬「微笑み」

バックパッカーズ・ゲストハウス⑬「微笑み」

 静岡からは当たり前のように龍の金で新幹線に乗って東京へ向った。龍とパンクが泊まるというビジネスホテルに私の部屋も取ってくれていた。

 訳の分からない東京都の条例のせいで、日の出時間に合わせて仕事が始まるので、ホストという仕事のイメージにそぐわず、龍は早寝早起きだった。何を食べたか覚えていないが、やはり龍の奢りで晩飯を食べて、直ぐに就寝ということになった。東京最初の夜は、部屋で彼女にメールを送り

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バックパッカーズ・ゲストハウス⑭「職と住」

バックパッカーズ・ゲストハウス⑭「職と住」

 これまでのあらすじ:F1ドライバーになることを諦め、風来坊になろうと決めた私は、七難八苦を乗り越え無事に東京へ辿りついた。前回までのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2

 一〇〇均で履歴書を買って、その辺にある無料の求人誌を何冊か探して、覚えてないが当時の私の行動を考えるとドトールかマクドナルドのどちらかへ入った。そこで求人誌の中か

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