てん

生きる黒歴史が紡ぐただの日常の記録。この物語はフィクションです。Twitter / I…

てん

生きる黒歴史が紡ぐただの日常の記録。この物語はフィクションです。Twitter / Instagram : @10mujuryoku

記事一覧

固定された記事

自己紹介(いまさら)

 noteのバッジを確認していたら「プロフィール記事を作成する」という項目があったので、今さらながらに自己紹介の記事を書いてみています。 ■ざっくり  てん といい…

てん
2週間前
20

3回観て3回号泣した映画の話:バジュランギおじさんと、小さな迷子

 エンドロールが終わったあと、全観客と今すぐハグしたい! と思うような映画ははじめてかもしれない。  ツイッターを開くたびに『バジュランギおじさんと、小さな迷子…

てん
2日前
5

春のおさんぽと音楽

 ものごころついた頃から重度の花粉症で、この時期はいつも体調を崩しがち。さくらが咲き乱れ、人々がコートとマフラーを脱ぎ捨ててスキップで街に繰り出す春だが、わたし…

てん
1か月前
6

人生は続く、仕事も続く

「てんさんの今まで、けっこう濃かったなあ」  職場の飲み会で誰かが言った。汗をかいたグラスに並々と注がれたハイボールが減らなくなるころあい、冷めてかたくなった唐…

てん
1か月前
37

【短編小説】会いたいとか言えないから

「まだ冷えるねえ」  ぷしゅっと軽快な音を立てたと同時に、彼女が口火を切った。織江は適当な相槌をうちつつ、先ほどまで食べていた麻婆豆腐の残り香を掻き消すように安…

150
てん
2か月前
6

#ファインダー越しの私の世界

 カメラが好きだ。片目をぎゅっと閉じてピントを合わせる。ジーッとレンズが動いて、ぼやけた視界がクリアになり焦点があう。よし、ここだ。狙いを定めてシャッターを切る…

てん
2か月前
27

拝啓 ナタリア・テナ様

拝啓 ナタリア・テナ様     および 貴女を必死に追いかけていた、学生のころの私へ  小学生のころ、わたしはハリーポッターの世界にどっぷりと浸かっていた。分厚…

てん
3か月前
10

1月14日の日記

 日曜日。フォロワーさんと会って、おいしいものを食べ、舞台できらきら輝く推しを眺め、うまいコーヒーで冷え切った体をあたため、帰宅してシチューを煮込み、これで今週…

てん
3か月前
2

Here's to the mess we make

 2024年、ひどく物騒な幕開けになったものだといつか笑える日がくるのだろうか。  暖房の効いたあたたかい部屋で、家族とくだらない話をしながら、ぼうっと眺めたテレビ…

てん
4か月前
7

もしもボックスなどない

 2023年、人生の岐路に立つことが多い一年だった。  とはいえ、たいていのものは私が勝手に生み出してしまったものだったが。  周りの人たち、平気な顔をして人生を歩…

てん
4か月前
7

詠み人知らずの人生

 最近、常々思うことがある。めっきり弱くなった。何もかもに対して。  (ひとつひとつの事象に真摯に向き合うことをせず「何もかも」などと曖昧な言葉を使うのも、弱さ…

てん
5か月前
6

あなたが嘘をつかなくても 生きていけますようにと

 27年間生きていた大阪を出て、名古屋で暮らし始めた。誰も知らない土地で2年ぶりのひとり暮らし。すべてを焼き尽くした夏が終わり、ようやく息ができるようになって、こ…

てん
6か月前
13

 ずっと、髪を染めるという考えがなかった。  高校3年生、公募推薦で大学受験に合格し人より早く受験勉強から逃げ出した私は、母親に土下座する勢いで頼み込んだ。 「ど…

てん
1年前
7

Call Me by Your Name

 慌ただしく月日が過ぎた。学生という鎧を脱ぎ捨てリクルートスーツで青山を闊歩し、新橋で酒を煽る日々に別れを告げる。研修の名のもと、存外あっさり手に入れた憧れの一…

てん
1年前
9

とある魂ラジリスナーの回顧録

「えーーっ、魂ラジ、復活?!」  何気なくパトロールしていたツイッターのタイムラインに懐かしい文字が見え、思わず声を上げた。言葉にしてこの単語を発したのはいつぶ…

てん
1年前
5

ビル・ヘイドンという男

 ビル・ヘイドンという男が好きだ。  高慢ちきで、人たらしで、人を手球で転がすようにして愛し、愛され、しかし本当の愛を知らず温もりに飢えた哀れな男。  大学生だ…

てん
1年前
3
自己紹介(いまさら)

自己紹介(いまさら)

 noteのバッジを確認していたら「プロフィール記事を作成する」という項目があったので、今さらながらに自己紹介の記事を書いてみています。

■ざっくり

 てん といいます。
 もちろん本名ではないけれど(かすってもないです)、15歳からずっと名乗っている名前なのでもうほとんど本名くらいの愛着があります。この名前で作ってきたものもたくさんあるし、出逢ってきたひともたくさんいる。大切なハンドルネーム

もっとみる
3回観て3回号泣した映画の話:バジュランギおじさんと、小さな迷子

3回観て3回号泣した映画の話:バジュランギおじさんと、小さな迷子

 エンドロールが終わったあと、全観客と今すぐハグしたい! と思うような映画ははじめてかもしれない。

 ツイッターを開くたびに『バジュランギおじさんと、小さな迷子』の情報が流れてくるようになった。期間限定でリバイバル上映をしているという。
 推しが絶賛しているので、この人が勧めるなら面白いのだろうと軽い気持ちでチケットを取った。

 実は『RRR』も『バーフバリ』も機会を逃していたわたしの、初ボリ

もっとみる
春のおさんぽと音楽

春のおさんぽと音楽

 ものごころついた頃から重度の花粉症で、この時期はいつも体調を崩しがち。さくらが咲き乱れ、人々がコートとマフラーを脱ぎ捨ててスキップで街に繰り出す春だが、わたしにとっては気の抜けない季節が始まる。
 季節の変わり目で寒暖差も激しく、年度末年度始まりに伴う環境の変化もあいまって、例年はいつも発熱するまで追い詰められる。今年はまだましなほうか。

 あさ、くしゃみと同時に目が覚める。3回連続でくしゃみ

もっとみる
人生は続く、仕事も続く

人生は続く、仕事も続く

「てんさんの今まで、けっこう濃かったなあ」
 職場の飲み会で誰かが言った。汗をかいたグラスに並々と注がれたハイボールが減らなくなるころあい、冷めてかたくなった唐揚げをつつきながら、そうですねえと上の空で相槌を打つ。

 3月末、スギ花粉の飛来と同時にどうしても過去を振り返りたくなる季節。説教じみたことを言いたくなるのをぐっと抑えて、自分の社会人人生をたどってみることにする。

 確かに、この6年間

もっとみる
【短編小説】会いたいとか言えないから

【短編小説】会いたいとか言えないから

「まだ冷えるねえ」
 ぷしゅっと軽快な音を立てたと同時に、彼女が口火を切った。織江は適当な相槌をうちつつ、先ほどまで食べていた麻婆豆腐の残り香を掻き消すように安い発泡酒を流し込んだ。

 冬と春の境目で、まだ季節を移りきれない冷たい風が頬を切る。
 ふたりは缶ビールを片手に繁華街に背を向けて歩き出した。

 残業が確定した瞬間、飲みに行こうと誘ったのは織江のほうだった。仕事がうまくいかなかった時、

もっとみる
#ファインダー越しの私の世界

#ファインダー越しの私の世界

 カメラが好きだ。片目をぎゅっと閉じてピントを合わせる。ジーッとレンズが動いて、ぼやけた視界がクリアになり焦点があう。よし、ここだ。狙いを定めてシャッターを切ると、ミラーの跳ね上がる音が軽快に響いた。
 その一連の動作は銃を扱う時のそれと似通っているが、カメラの場合は命を奪うのではなく、一瞬の時に静止画としての永遠の命を与えられるところが、良い。

 幼いころ、家族が使っていたコンデジを借りて撮影

もっとみる
拝啓 ナタリア・テナ様

拝啓 ナタリア・テナ様

拝啓 ナタリア・テナ様 
   および 貴女を必死に追いかけていた、学生のころの私へ

 小学生のころ、わたしはハリーポッターの世界にどっぷりと浸かっていた。分厚い本をランドセルに押し込んで、同級生と競うように物語を読み進めた。新聞紙を丸めて魔法の杖を作っては、呪文を唱えてぶんぶんと振り回す。ノートにびっしりと書き溜められた、登場人物の名前。
 親はよく「その熱量を勉強に回してほしいものだわ」と言

もっとみる
1月14日の日記

1月14日の日記

 日曜日。フォロワーさんと会って、おいしいものを食べ、舞台できらきら輝く推しを眺め、うまいコーヒーで冷え切った体をあたため、帰宅してシチューを煮込み、これで今週は乗り切れるなと安堵し、あつあつの湯船に浸かって鼻歌を唄い、沈香のお香を炊いて白湯を飲み、「明日からも仕事がんばろー!」とインスタのストーリーに投稿した。充実した一日を抱きしめて眠る。

 翌朝、胃痛とともに目が覚め、退職を決意する。

 

もっとみる
Here's to the mess we make

Here's to the mess we make

 2024年、ひどく物騒な幕開けになったものだといつか笑える日がくるのだろうか。

 暖房の効いたあたたかい部屋で、家族とくだらない話をしながら、ぼうっと眺めたテレビから流れる緊急地震速報の音。NHKのアナウンサーが叫び避難を誘導する声。ふーわふーわと長い時間揺れたあと、震源地の様子が映し出される。ひしゃげた家屋と押し寄せる波と、犠牲になった人々を表す数字。
 ひと晩明け、地震は嫌だね、怖いね、何

もっとみる
もしもボックスなどない

もしもボックスなどない

 2023年、人生の岐路に立つことが多い一年だった。
 とはいえ、たいていのものは私が勝手に生み出してしまったものだったが。

 周りの人たち、平気な顔をして人生を歩んでいく人々が、どのようにしてその道を選んでいるのか、どうやって正しい選択肢を選び取って生きているのか、不思議で仕方がない。
 私はいつだって誰がどう見ても不正解の方に助走をつけてダイブしてしまうから。

 地球の歩き方ならぬ、『人生

もっとみる
詠み人知らずの人生

詠み人知らずの人生

 最近、常々思うことがある。めっきり弱くなった。何もかもに対して。
 (ひとつひとつの事象に真摯に向き合うことをせず「何もかも」などと曖昧な言葉を使うのも、弱さの表れなのだろう)

 自分の仕事に対して叱られが発生した。
 ワッと怒られるようなものではなく、裏で「あいつ最近なんなの」とこそこそと後ろ指をさされていた。その場に仲の良い役員がいたので「俺が話聞いてきます」と引き受けてくれて、面談の場が

もっとみる
あなたが嘘をつかなくても 生きていけますようにと

あなたが嘘をつかなくても 生きていけますようにと

 27年間生きていた大阪を出て、名古屋で暮らし始めた。誰も知らない土地で2年ぶりのひとり暮らし。すべてを焼き尽くした夏が終わり、ようやく息ができるようになって、この数ヶ月間の記憶を少しずつ取り戻している。

 梅雨を知らない6月、寝不足とメンタルの不調でぐちゃぐちゃになった頭で 、2年と半年付き合っていたパートナーに別れを告げた。
 そのことを知った会社が、なぜか乗り気で転勤を打診してきて、いずれ

もっとみる
髪

 ずっと、髪を染めるという考えがなかった。

 高校3年生、公募推薦で大学受験に合格し人より早く受験勉強から逃げ出した私は、母親に土下座する勢いで頼み込んだ。
「どうか縮毛矯正をかけさせてください」
 渋々……というか結構怒られた気もするのだが、最終的に親は私の髪に1万円もの多額を投資して縮毛矯正を当てさせてくれた。

 放っておけばチリチリウネウネになるこの天然パーマの地毛は、私の最大のコンプレ

もっとみる
Call Me by Your Name

Call Me by Your Name

 慌ただしく月日が過ぎた。学生という鎧を脱ぎ捨てリクルートスーツで青山を闊歩し、新橋で酒を煽る日々に別れを告げる。研修の名のもと、存外あっさり手に入れた憧れの一人暮らしも、この週末で終わりだ。

 2018年4月、私は一ヶ月だけ東京で暮らしていた。新入社員研修のため、会社で借りたウィークリーマンションに住んでいた。
 ずっと実家暮らしで、早く独り立ちしたいと願っていた私にとって、この一ヶ月はあっと

もっとみる
とある魂ラジリスナーの回顧録

とある魂ラジリスナーの回顧録

「えーーっ、魂ラジ、復活?!」
 何気なくパトロールしていたツイッターのタイムラインに懐かしい文字が見え、思わず声を上げた。言葉にしてこの単語を発したのはいつぶりだろうか。

 福山雅治のオールナイトニッポン サタデースペシャル・魂のラジオ……通称「魂ラジ(たまらじ)」は、毎週土曜日の23時半〜25時まで(仕事の兼ね合いでたまに収録になることもあるが)基本的には生放送でお届けされる。
 一旦は放送

もっとみる
ビル・ヘイドンという男

ビル・ヘイドンという男

 ビル・ヘイドンという男が好きだ。
 高慢ちきで、人たらしで、人を手球で転がすようにして愛し、愛され、しかし本当の愛を知らず温もりに飢えた哀れな男。

 大学生だった頃、BBCドラマ「SHERLOCK」にダダハマりしていた私は、ベネディクト・カンバーバッチとマーティン・フリーマンの作品を漁り、有名どころを制覇しようと試みた。
 その一作品目がおそらくこの「裏切りのサーカス」だった。
 そこでビル・

もっとみる