見出し画像

子供のウエイトリフティング選手における障害予防の考え方:01[フォームと道具×判断]

ここでは、アスレティックトレーナーの立場から、小中学の成長期にあたるウエイトリフティング選手や、初心者を対象とした怪我予防のポイントについて考えていきます。


1. 正しくフォーム指導と負荷設定のできる指導者に教えてもらう

ウエイトリフティングの技術は、スナッチとクリーン&ジャークの3種目で実施されます。これらの技術では、瞬時の力を発揮しながらバーベルを頭上や胸部・肩部まで引き上げる必要があり、同時にバーベルを下支えするための動作まで行います。技術を向上させると、体重を超える負荷を扱うことができるため、1回の操作でも集中した取り組みが必要です。

正しい技術について判断してくれる指導者の存在は重要

この点から、技術の習得においては経験豊富な指導者によって動作フォームが確認され、正確な構え、スタート動作、加速動作、キャッチ動作、バーベルの静止と下降動作の一連の流れを学ぶことが重要です。

障害予防の観点から言えば、経験豊富な指導者が「危ない場面」「危ない操作」を感知してくれることが大切です。

子供達は、練習が進むにつれてフォームの崩れを起こしがちであるにも関わらず、そこに気づかないまま練習を継続してしまう危険があります。 真剣に取り組む中でも、動作のエラーを発見した際には、すみやかに修正してくれる指導者の存在は大変大きいと言えます。

また、負荷設定には、どの技術が習得できたら重量を増やすのか?について明確な基準がなく、選手が自分の技術を過大評価して、高重量にばかりに挑戦してしまう事があります。

こうした場面を回避するためにも、経験豊富な指導者から負荷重量の増加についてアドバイスをもらって練習することが大切です。

環境や事情が様々に異なりますが、各都道府県のウエイトリフティング部を持つ高校の先生方が、地域の小中学生や、一般初心者の練習希望を受け入れて、基礎技術を指導されている事例があります。


2. 軽量シャフトや木材シャフトを効果的に活用する

ウエイトリフティングの技術を練習する際、試合で使うシャフト(男子20kg、女子15kg)以外にも練習方法があります。子供でも使える軽量なシャフト(3kg)や、練習用の10kg程度のシャフトもあるので、それらを使って操作を学ぶことができます。また、シャフトのグリップ部の直径は約28mmなので、ホームセンターで売っている木材を使ってシャフトの動きを繰り返し練習することが手軽で効果的です。

動作軌道を学習するには木材シャフトが簡単で効果的

3. 関節の痛みに注意し、不具合を感じたら中断して確認する

ウエイトリフティング競技は、爆発的な挙上の力を発揮するための短縮性筋収縮に続いて、バーベルを静止させるための等尺性筋収縮が行われます。下降の加速度に対しては、バーベルを安定して支える伸張性筋収縮も必要になり、これらの動作を何度も繰り返すことにより、特定の部位に負荷が集中する可能性があります。

関節部分の痛みは軽視せずに症状を確認することが大切

この中でも特に留意すべきなのは、腰部、肩、膝、手首、肘の関節部です。これらの関節は挙上する際に力を発揮するだけでなく、負荷を支えるためにも重要な役割を果たします。特に、圧縮される力に耐えなければならず、操作のタイミングが合わないと、一部の関節にのみ大きな力が偏ってかかり、怪我の原因となります。

成長期の選手にとっては、継続した関節の痛みは絶対に避けたいことの一つです。 
関節は、筋肉の適切な収縮と弛緩に伴って動く組織であり、円滑な運動を継続することが本来の役割です。しかし、痛みを伴う動作不良がある場合、筋出力が正しく発揮されていないことを意味するだけでなく、他の部位を使った代償動作(ごまかし動作)を伴って動いている可能性もあります。

また、関節は再生能力の乏しい軟骨組織や靭帯組織によって構成されているため、怪我にまで発展すると、長期に渡って不具合を抱える可能性があります。 さらに、成長期の選手にとっては、骨の成長が行われる骨端線近くでの炎症を伴う過負荷は特に避ける必要があります。痛みを我慢して放置してしまうと、一定期間の競技中断の必要が生じるかもしれません。

練習中に身体の痛みを感じた場合には、練習を一時中断して、痛みの性質や程度を確認しましょう。痛みに関する情報をメモやノート、スマートフォンに記録しておくことも有益です。特に痛みが生じる動作や不快感を感じる状況を、動画などで撮影しておくことで、回復計画の立案や原因の特定に役立つ材料となります。

▼ 72時間を目安に観察すると様子を掴みやすい

私が選手に提案しているのは、身体の不具合を感じたら当日の確認に加えて、そこから72時間を一つの目安として継続した確認をするよう勧めています。 この期間は、炎症と呼ばれる初期の適応に一定の収束が見られる目安として知られています。72時間を経過しても痛みや症状が軽快しない、変化がほとんどない症状は、医療機関での診察を積極的に受けるようにしましょう。

ここで誤解のないように再度お伝えしますが、72時間を我慢するというのではなく、ひどい症状ならすぐに病院で診察をしてもらうのが前提にある上で、症状にゆとりがあるのであれば、身体の様子を俯瞰しながら捉え、不具合のある部分には特に注目する時間として過ごして頂ければと考えています。



(参考文献)
・公社)日本ウエイトリフティング協会指導教本2022
・日本トレーニング指導者協会トレーニング指導者テキスト(実践編・理論編)大修館書店
Olympic Weightlifting: A Complete Guide for Athletes & Coaches (English Edition):英語版/Greg Everett
・NASM ESSENTIALS OF SPORTS PERFORMANCE TRAINING 2nd edition


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?