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論文の要約

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アート系の論文の要約、学術的意義を自分でまとめています。
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装飾模様はアートになりうるのか?筧菜奈子「パターン・アンド・デコレーションの作品における装飾模様の意義」を読む

装飾模様はアートになりうるのか?筧菜奈子「パターン・アンド・デコレーションの作品における装飾模様の意義」を読む

筧菜奈子「パターン・アンド・デコレーションの作品における装飾模様の意義」を要約してみた。
本論文は、日本で少ない1970年代におきたアメリカのアート動向「パターン・アンド・デコレーション」(以下、P&D)の研究書であり、美術史でいまだに曖昧に捉えられている装飾についての関係性について述べている論文である。

目次は以下

1.抽象と装飾
2.P&Dの模様の特徴
3.P&Dが描く装飾模様と抽象表現

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【要約】内山田康「芸術作品の仕事ージェルの反美学的アブダクションと、デュシャンの分配されたパーソン」『文化人類学』(2008)

【要約】内山田康「芸術作品の仕事ージェルの反美学的アブダクションと、デュシャンの分配されたパーソン」『文化人類学』(2008)

(1) 要約

本稿は、文化人類学者アルフレッド・ジェルが芸術作品を西洋中心主義に基づいた美学に反し、ジェルの独自の概念であるインデックスの作用をもたらすものであるということを明らかにすることを目的としている。

まず、本稿ではエージェンシーの働きを解説している。著者によれば「ジェルは芸術作品の中とその周囲に生ずるエージェンシーの働きに光を当てながら、作品が仕事をする仕組みと、その効力を試みている

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【要約】小田部胤久「ゴシックと表現主義の邂逅ーヴォリンガーによる「ヨーロッパ中心主義的」芸術史の批評とその行方」『美学藝術学研究』21(2003)pp.81-114.

(1)要約

本稿では、20世紀前半にスイス・ドイツで活躍した美術史学者ヴィルヘルム・ヴォリンガー(1881−1965)の理論的変遷を「ゴシック」と「表現主義」との関係に着目し考察するものである。特に1907年から320年代末までの、変遷について検討をし、彼が歴史を幾度にも重ね描きしたことへの理論的正当性を明らかにする。
第一節では、ヴォリンガーの有名な著作『抽象と感情移入』(1908)を主に取り

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【要約】R・クラウス「アヴァンギャルドのオリジナリティ」(1985)

(1)要約

本稿の目的は、20世紀以降発展していったアヴァンギャルド芸術がオリジナリティという要素を求めたことを考察するものである。この考察では、ロダン彫刻の複製制度を指摘し、新しさを求めるアヴァンギャル芸術の作品にはオリジナリティを見出そうとする試みであることを明らかにしていく。ここでいうオリジナリティとは、「形式的な発明というよりは、生命の源を指示する有機体論的メタファー」であり、「根源的な

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【要約】天野知香「「装飾」の潜在力」(2019)美術フォーラム21 第40号

【要約】

本稿は、美術フォーラムの特集「「装飾」の潜在力」にあわせて執筆された論考である。本稿では、ルネサンス以降から近代、現代までの装飾や文様の捉え方や解説したうえで、1970年代という時代は美術(特に絵画)や装飾について大きく価値を変えようとした転換期にあたると考察している。その中で1970年代に活躍したがアメリカの美術評論家エミリー・ゴールディンを紹介している。
エミリー・ゴールディンは同

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【要約】ハイリンヒ・リュッツエラー(川上実訳)「装飾ーヨーロッパ美術とイスラム美術の比較ー」『芸術と装飾』(山本正男監修)pp6-19(1986)

【要約】ハイリンヒ・リュッツエラー(川上実訳)「装飾ーヨーロッパ美術とイスラム美術の比較ー」『芸術と装飾』(山本正男監修)pp6-19(1986)

【要約】

本稿ではヨーロッパとイスラムにおける聖堂などの建築に施された装飾を分析することによって、西洋や中東といった「装飾」の捉え方の違いを明らかにすることを目的としている。ヨーロッパにおいては「装飾」とは、ある物に対して付加的なものであるということが一般的な理解である。
しかしイスラム文様などにみられる装飾は、西洋的な概念に囚われず装飾が建築を覆い隠すように支配している。このような装飾に対する

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浜田明範「存在論的転回とエスノグラフィー~具体的なものの喚起力について~」

浜田明範
「存在論的転回とエスノグラフィー~具体的なものの喚起力について~」
立命館生存学研究

本稿は、人類学における参賀と観察、交流と記録をしていく「エスノグフィー」と呼ばれる研究手法について、主に「存在論的転換」と呼ばれる動向のなかでどのような意味を持ちうるのかを考察したものである。

 1.存在論的展開の広がり

人類学の存在論的転回の動向は2010年代といわれている。その火付け役となった

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現代美術にみられる装飾性からジェンダーや多様性を考える

第22回東京科学シンポジウム予稿集
主催:日本科学者会議東京支部
で執筆した本note筆者の予稿をこちらにもUPします

現代美術にみられる装飾性からジェンダーや多様性を考える(2023)久木田 茜

1.はじめに

 本発表では、近代以降の美術作品にみられる装飾性の捉え方の変遷について着目し、近年においてジェンダーや多様性をテーマとして適した造形表現であることを紹介し、その可能性を考察する。

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岡田温司「芸術作品は有機体か?」

岡田温司「芸術作品は有機体か?」

ゴンブリッチの戸惑い

絵画において、「有機的である」という言葉は褒め言葉であるといわれている。しかし、もともと無機物である絵画が有機物になぞらえ例えられるということは、辻褄のあわない比喩のようにも感じる。
そもそも絵画で言われている「比例」や「調和」ということばは、宇宙的で数学的な概念であると筆者は説明する。さらに筆者は、このような有機体のメタファーが、「国家や社会を有機体になぞらえてきた19世

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中林和雄「マティス試論(Ⅱ)—絵画と装飾性」を要約する

中林和雄「マティス試論(Ⅱ)—絵画と装飾性」を要約する

【要約】

著者は、アンリマティスの装飾性について考察するものである。この考察では、マティス絵画における装飾性を分析し、その特徴を時代における芸術の議論等と検討しながら、マティスにおける装飾性とはどんなものなのかを明らかにする。

これまでのマティス論では、マティスにおける装飾性は絵画に装飾文様を導入するもので合った。しかし、筆者はこのような装飾文様を導入するにも関わらず、絵画において暴力的に構図

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ルーシー・R・リパード「美術の非物質化」の要約

ルーシー・R・リパード「美術の非物質化」の要約

本稿は、1960年代以降に発生したと言われている「概念芸術(イデアルアート)」についての考察を行なっている。本稿では、この概念芸術が作品の物質性をなくし、非物質化を呼び起こすものであることを主張している。この非物質化によって、作品の中でオブジェは否定され、全く廃れてしまうだろうと予言している。

まずリパードは、概念芸術の方向性を、観念的なものと行為的なものに分けた。観念的な芸術は、情感を観念に置

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【要約】田中理恵子「「生成」としての音楽」

【要約】田中理恵子「「生成」としての音楽」

【要約】

本稿では、文化人類学のモノや「生成」する議論を援用しながら、ラテンアメリカの音楽が「生成」されるものであることを考察する。この考察では、アルゼンチンやキューバ地区(ラテンアメリカ)のオーケストラやオペラが「オーケストラになる」「オペラになる」といった「生成」される状態を明らかにしていく。

文化人類学では、ボアズやストロースなどが芸術作品を分析しているにもかかわらず、あまり芸術作品を研

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【要約】日高優「映像大量消費の時代における脱社会的社会批判」2012

【要約】日高優「映像大量消費の時代における脱社会的社会批判」2012

【要約】

本稿では、アンディ・ウォーホルの作品や彼が評価された1950年代の作品を分析することで、当時のポップアートがどのように評価されているかを明らかにすることである。機械的反復や社会への無関心という視角から語られることの多いウォーホルであるが、そこの視角から語るのではなく、ウォーホルの社会批判的な態度を見出し、現代にも感じられるアクアリティ(現実性)を探ることを目的としている。
筆者は、ウォ

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【要約】ロザリンド・クラウス「グリッド」『アヴァンギャルドのオリジナリティ』(1978)

(1)要約

本稿は、近代芸術作品における「グリッド」表現を考察している。この考察では、グリッドが近代以前に作品の表彰として現れなかった近代特有の表現であることを明らかにしている。

まず、クラウスはグリッド表現には、「近代(モダニティ)を宣言する方法」として二種類の要素ー空間的なものと、時間的なものがあると主張する。
空間的な要素
空間的な要素において、グリッドは芸術領域における自律性を示す。そ

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