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第94回:一生分の宝物が生まれる瞬間を目撃しませんか

こんにちは、あみのです。
今回の本は天祢涼あまねりょうさんの『Ghost ぼくの初恋が消えるまで』(星海社FICTIONS)という作品です。

天祢さんの作品はこれまでにも何冊か読んだことがあるのですが、可愛い女の子が活躍するライトミステリーから現代社会の深刻な問題を描いた物語まで、作品ごとでそれぞれ違った色を見せてくれるところが魅力的な作家さんだと思います。

今作は主人公の「初恋」と「成長」から複数の謎が展開されるライトノベルに近い読み味の物語でした。
個人的には「天祢涼」という作家さんのいいところを詰め込んだ作品という印象だったので、天祢作品未体験の人にも強く推せる1冊です!

あらすじ(カバーより)

なんで、いのり姉ちゃんがここにいるの?殺されたはずなのに――
生方理人のもとへ現れたのは、連続殺人の犠牲になった6歳年上の幼なじみ。犯人の顔を目撃していた幽霊——四条いのりは、連続殺人犯の逮捕への協力をただひとり彼女が視える理人に求めた。
事件の酷薄な真相がすべて明らかになる時、理人の初恋に終止符を打つ、哀切なもうひとつの真実とは。

感想

今作は章ごとで主人公・理人りとが中学生、高校生…と成長していき、殺人事件に巻き込まれ「幽霊」となってしまったいのりに対する彼の初恋が終わるまでを描いた物語でした。

恋愛小説色が濃いめながらも、理人の「心」を成長させるきっかけにも繋がっていく各事件には作品の設定を上手く活かした仕掛けがあったり、作中で描かれていた問題について考えさせられた箇所もあったりして、ミステリーとして読んでも非常に充実した内容でした。

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私が今作を読んで印象に残ったのが、理人の父親に対するイメージの変化の描き方です。

彼の父は記者として世の中の過酷な姿を何度も見てきたこともあり、幼い頃の理人にも厳しい話を頻繁にしていました。一方の理人はそのような父の話が苦手で、距離をおいているところがありました。

しかし理人が中学生の時に遭遇したある事件にて、父の「正義」が必要となる場面が訪れます。
この事件にてひとりの同級生が救われたことによって、理人は父に対する印象を大きく変えていきます。また後に、父の存在が理人自身の将来の選択にも影響を与えたところがありました。

理人の「身体」やいのりへの恋愛感情の変化のようなわかりやすい成長だけではなく、父に対して「尊敬」の感情が生まれたことのような細かな成長がところどころで描かれていたところも、「理人」という人物をより身近に感じやすくて好印象が持てました。

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「幽霊」となったいのりと一緒に謎解きをしたり、興味のある作品を楽しんだり。お互いの秘密を共有しているような理人といのりの不思議な関係性は、読んでいて微笑ましくなりました。
作中で描かれていた事件もいのりがいたからこそ解決へ導けたものが多かったように思いました。

一方、あの時にいのりが殺されていなければ理人と彼女の付き合い方もまた違っていたんだろうな…と想像すると、いのりを襲った悲劇に対する悔しさも感じられました。

いのりと共に理人の身近に潜む謎に挑み、やがては悲劇の真実へと近づく。彼女と数々の事件に挑んだことはもちろん、悲劇の真実も受け入れた上でいのりとの別れを告げることができた理人の姿は、今作における最大の成長だったのではないのでしょうか。

またいのりは、理人にとって「目に視える」存在ではなくなってしまいましたが、大人になるまで彼はいのり以外の人との繋がりも持つことができました。そんな理人の新しい恋を、きっといのりは彼の視えないところでも応援していると思います。

理人の新たな恋にエールを送るようないのりとの別れのシーンは、とてつもなく美しい光景のように見えてきました。(読後にカバーイラストを見返すと、また違った印象が思い浮かぶと思います!)

悲しい結末だった初恋も、いつかは美しい思い出に変わる。一生大切にしたい宝物が生まれていく瞬間を目撃しているようなとても素敵な感情と成長で溢れていた物語でした!

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