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悲しいだけじゃない生と死の物語(塩瀬まき:『さよなら、誰にも愛されなかった者たちへ』)

とても心に沁みる物語に出会えたので紹介します!
塩瀬まきさんの『さよなら、誰にも愛されなかった者たちへ』(メディアワークス文庫)という作品です。

今作は生と死の世界をつなぐ「賽の河原株式会社」で働くことになったいたるが、様々な事情を抱えた死者たちと出会い、彼らとの別れを経験して成長していく物語が描かれました。

ファンタジーのような世界観ではありながらも、賽の河原株式会社のお客様ともいえる死者たちとの交流の様子は現実の接客業・サービス業とも重なる箇所があり、至の仕事におけるやりがいや厳しさの描き方はとてもリアルに感じました。

作中で至は、ともちゃんという少女と善治さんという男性と出会います。親から日常的に虐待を受けていた朝ちゃん。異国の女性と結婚したものの、偽りの関係でしかなかった善治さん。2人に共通していたのは、「家族から愛された経験がなかったこと」でした。
中でも朝ちゃんのエピソードは、親から愛されなかった悲しい気持ちと、これからは幸せになってほしい祈りで涙が溢れそうになりました。

朝ちゃんを妹のように可愛がる姿、職場の掟を破ってまで善治さんを救おうとする姿と至の優しさが伝わるシーンが各エピソードでありましたが、一方で彼の優しさがやや過剰に描かれていたところに違和感もありました。

だけど、至も朝ちゃんや善治さんとよく似た境遇を背負っていたことを知ると、これは至自身の過去と向き合う物語であったことに気が付きました。
そしてこれまで描かれていた至の優しさは、出会った彼らに対する共感からのものだったのかなと思いました。

悲しい物語ではありますが、至の優しい気持ちが込められているのか、微かな温もりも感じられたところがとても美しい物語でした。心が浄化されていくような物語で、読んでみて良かったなと思います。
生と死に関わるすべての人にぜひおすすめしたい1冊です。

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