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財務モデリング Tutorial② - 3 Statement model to DCF/AVP

今回は前回から時間が空いてしまったが、引き続き財務モデル作成のTutorialのうちStep2にあたる過去の財務数値の整理というところから始めていきたい。あらためて前回記事で示したStepは下記になる。

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過去数値の整理とは

モデル作成のベースとなる過去の財務数値に関して、上記のテーブルにある通りKey stats(主要な財務指標)の推移・傾向を確認し、ケース別のプロジェクション作成時に参考にする

今回のケースでは、過去の財務数値や管理会計資料の入手データが限られているのでその点に留意されたい。実際の案件ではインフォメーションメモランダムや、提示される過去の監査済財務諸表、事業計画概要を基礎にして検討することが多い。

なお今回は過去の財務数値のサマリーなので、ケース別で数値が異なることはない点に留意である。

利益率(Profit margin)やKey ratioの確認

過去10-20年間の財務数値を整理することで、DCF法のバリュエーションで用いるプロジェクションを設定する際の利益率(Gross margin, EBIT margin)、売上高成長率、Capex(設備投資)、運転資本項目の回転日数等のアンレバードフリーキャッシュフロー(UFCF)の計算をする際に必須の項目(Key ratios)を確認する。

以下は今後使用するモデルでの項目の計算・モデル上での表示例である(スペースの関係上、2007Aまでの一部期間のみの表示になっている)

PLまたはIS(Income Statement: 損益計算書)

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BS

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Controlタブで使用する利益率等の確認

Controlタブをどのように作成するかは、例えばPL面であれば過去10-20年間の推移を見る必要がある

具体的には、粗利率(Gross margin)がどのように推移しているか、EBITマージンはどの程度か、DA(償却費)等のnon-cash expensesの売上高に対する比率はどの程度か、売上高の年平均成長率(CAGR)もしくは年間成長率(YoY growth)はどの程度かを検討することが望ましい。
上記以外にもPLの項目が過去売上高に対して、どのような比率で推移しているかを分析することは意義がある。

より詳細に分析する場合は、売上高の成長が国内のインフレ率もしくは業界平均成長率に比してどの程度か、類似上場会社と比較して各数値は差異があるか、等を総合的に検証していく。

下記は例示であるが、過去20年・10年・5年で各利益率の数値の平均値・中央値をまとめておりDashboardにおいてサマリーとして作成している。これによりプロジェクション作成時の妥当な水準が検討可能になる。

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BS面では売上債権・在庫・仕入債務の回転日数、運転資本/売上高比率、設備投資(Capex)/売上高比率、Capex/減価償却費比率等を試算することが重要である。運転資本の水準、Capexの水準はいずれもDCF法でバリュエーションを行う場合にアンレバードFCFを計算する際の重要な項目になるためである。

これも下記の通り、過去20年、10年、5年で平均値と中央値をまとめることで概ねの水準を確認できよう。以下の試算によれば平均値・中央値で見れば過去20年間ではDSO(売上債権回転日数)、DIO(在庫回転日数)は2001年台前半の高水準の数値に引っ張られてそれぞれ90日、60日程度となっている。
一方で過去10年および過去5年の中央値を見ればいずれの期間でも中央値及び平均値共にDSOは80日弱、DIOは45日程度となっており、当該期間が妥当な回転日数の水準であることが分かる。

DPO(仕入債務回転日数)についても過去20年、10年、5年の中央値が112-118日となっていることから概ね110-120日の範囲で見ておけば問題なさそうであることが分かる。

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過去10-20年間の推移を見て、上記のインプットを整理して今後のStepであるControl tabの作成に役立てることが可能になる。

ただしこのような財務分析のアプローチが比較的有効なのは、対象会社が比較的成熟産業に属していること、創業から相当程度時間が経ち事業モデルがある程度確定している企業、事業のライフサイクルが成熟期にある等、事業として安定しているケースが多い点に留意する必要がある(例:重厚長大型の化学産業)

アーリーステージの企業の場合は事業計画の利益率等の基礎的な財務指標がどの程度現実的なのかを競合企業と比較したり、市場の動向と比較する必要はある。

次回以降のTodo

次回のTodoはコントロールタブの作成である。上記は過去の財務数値の分析結果をもとにOperating model作成を行っていくためのtutorialであり、コントロールタブ作成では、上記の利益率やBS、CFに関する指標・分析結果をもとにプロジェクションを作成していくシートを作成することになる。

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