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短編ナンセンス小説『ウラギリのメリクリにハラキリを』
リビングの時計の長針がカチッと鳴って短針に重なる。
12月24日から25日へ。
そのかすかな音が、つけっぱなしのテレビの音声をくぐり抜け耳に届く。心に悲しく響く。
この乾いた音を聞くことになるだろうと私は予期していたのだと思う。ただ受け止めようとしなかった。できなかった。今度こそと思った。私は愚かだ。
クリスマス用のディナーで占められるテーブル。もういい加減目を覚ましなさい、夫は別の女と一緒なの
逆から語る昔話 桃太郎編
むかしむかし、あるところに鬼ヶ島という島がありました。
赤鬼と青鬼の兄弟が住んでいました。
兄の赤鬼は金棒を磨いていました。
弟の青鬼が言いました。
「赤にい、どうしたの? 金棒なんて磨いちゃって」
「アオ! お前こんな大事な日を忘れるやつがあるか!」
赤鬼は顔を真っ赤にさせて言いました。もっとも、もともと真っ赤なので青鬼には赤鬼の憤怒の感情は伝わりませんでした。
「うーん。今日? 何の日だ?」
短編ホラー『呪われた牙』
カタカタッ カタカタッ カタカタッ カタカタッ カタカタッ カタカタッ
都心から郊外のベッドタウンへ私鉄が走る。
空調が効いた車内。
「まもなくぅー新沼ー新沼ー」
椅子にのけぞって居眠りしている秦野に、そのアナウンスは届かなかった。
ガタン 電車が停まった。
その衝撃で体を左右に揺さぶられた秦野は目を覚ました。
電車の扉が開いた。眠気が残る目で扉の向こうの光景をしばらく眺め、もう一度目を閉じよう