新米ID

某地方病院で感染症専門医として勤務しています。感染症について情報発信していきます。

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最近の記事

「まとめ抗菌薬 表とリストで一覧・比較できる 特徴と使い方」の特徴

前回の記事では「まとめ抗菌薬」の執筆を始めるまでの経過を書きました。 今回は本書の特徴についてまとめます。ご購入いただく際の参考になれば嬉しいです。 1. 初学者にとっても分かりやすい 本書は私が執筆した内容を、編者の先生が校閲して、私が再度推敲するといった流れで作成しました。感染症をご専門とされる方が書かれた書籍はたくさんありますが、感染症を専門とされない先生と一緒に作られた書籍は多くありません。この点が他書にはない本書の強みです。  編者の先生は、感染症のご専門ではあ

    • 「まとめ抗菌薬 表とリストで一覧・比較できる 特徴と使い方」を執筆するまで

      1. 始めに 私は鹿児島にある市中病院で感染症内科医をしています。  感染症内科のトレーニングのため2年間大学病院で研修した以外は、初期研修も含めて同じ病院で仕事をしている一勤務医です。  学会での受賞歴もなければ、著明な雑誌に論文が掲載されたこともありません。  感染症内科医として大きな実績のない私が、このような本を出版に至った経緯をまとめましたので、何かの参考になれば幸いです。 2. 感染症の研修 多くの医師は医学部卒業後2年間の初期研修を修了すると、卒後3年目から将

      • 今後世界的な流行が危惧される「BA.2.86」について

        新型コロナウイルスが流行し続けています。 2023年9月20日時点で、日本を含め世界中で流行しているウイルスはオミクロン株に含まれる「XBB」系統のウイルスです。 新型コロナウイルスはこれまでも変異を繰り返してきましたが、2023年8月に現在流行している「XBB」と比べて30以上のアミノ酸変異がおきた「BA.2.86」と名付けられた変異株に注目が集まっています。 「BA.2.86」はBA.2から変異したウイルスで、以下のような特長があります。 伝播力がXBB.1.5やEG

        • 新型コロナウイルスの感染力はいつまで続くのか

          新型コロナウイルスの流行が続いています。 ご自身や身近な方が感染された方も多いと思います。 このウイルスの厄介な点は、二回・三回と複数回感染してしまうことです。 さらに、他のウイルスと比べて感染力のある期間が長いことも特長です。 では、いつまで感染力があるのでしょうか。 まず、新型コロナウイルス感染後、吐く息の中に含まれたウイルス量を検討した研究をご紹介します。 44人の新型コロナ感染者の方を対象に吐く息の中に含まれた新型コロナウイルスのウイルス量を検討したこの論文では

        「まとめ抗菌薬 表とリストで一覧・比較できる 特徴と使い方」の特徴

          2023年9月現在増加しているオミクロン株「EG.5」について

          地域差はありますが、本稿執筆時全国的に新型コロナウイルス感染症が流行しています。 流行の要因は、「EG.5」と呼ばれる免疫を開始しやすい変異株の増加です。EG.5は現在流行の中心であるXBB系統から派生した変異株です ヒトの細胞に感染するスパイク蛋白に「F456L」という変異があることでEG.5には、以下のような特長があります。 感染力や免疫を回避する能力が高い 重症化の徴候は「今のところ」確認されていない(不明な点も多い) 免疫を回避する能力に優れるため、オミクロ

          2023年9月現在増加しているオミクロン株「EG.5」について

          新型コロナ感染予防にマスクは役立つ?

          新型コロナウイルスの感染伝播防止にマスクは役立つのでしょうか。 その疑問の参考になる研究をご紹介します。 2020年4月から2022年5月の中国で 50人以上の新規感染者が発生し7日以上新規感染者が発生し続けた アウトブレイク事例を解析した研究です。 現在世界規模で流行している新型コロナウイルスのオミクロン株流行時期に マスク着用:53% ソーシャルディスタンス:33% 濃厚接触者の追跡と隔離:24% 大規模なPCR検査:2% 実行再生産数が減少しました。 さらに

          新型コロナ感染予防にマスクは役立つ?

          新型コロナウイルス感染後2年間における死亡・入院・後遺症発症リスク

          2023年8月21日「nature medicine」誌に新型コロナウイルス感染後の後遺症を2年間追跡した大規模なコホート研究結果が掲載されました。 新型コロナウイルスに「感染した」約14万人と 新型コロナウイルスに「感染していない」約600万にを比べた本研究 新型コロナウイルス感染中に入院しなかった、いわゆる「軽症」の方でも 感染後180日まで死亡リスクが高い(感染後90日まで約2倍) 感染後540日まで入院リスクが高い(感染後90日まで約1.5倍) 感染後720

          新型コロナウイルス感染後2年間における死亡・入院・後遺症発症リスク

          2023.8.26時点の新型コロナワクチンの情報

          2023年9月20日から新型コロナワクチンの追加接種が生後6ヶ月以上の全年齢の方を対象に始まります。 今秋から開始されるXBB.1.5対応ワクチンは現在流行しているXBB株だけでなく、今後主流株となる可能性が高いEG.5.1株への効果も期待されています。 モデルナのXBB.1.5対応ワクチンを接種することでXBBだけでなくEG.5.1に対しても中和抗体が上昇すると報告されています。 新型コロナは「身近で」「重症化しうる」感染症です。 重症化予防のためワクチンのアップデー

          2023.8.26時点の新型コロナワクチンの情報

          7日間の療養後も約50%で感染性のある新型コロナウイルスを保有している

           新型コロナウイルスはヒトからヒトへ感染する力が高く、感染できる期間も長いウイルスです。  以前はウイルスの伝播防止のため、療養期間を「発症から10日間」求められていました。  一方で10日間の就業制限は社会活動への制約が大きく、令和4年9月から療養期間が「発症から7日」に短縮されました。  新型コロナウイルス-オミクロン株の感染後7日目以降に感染性を示すウイルスはいないのか、医療従事者を対象として検討された文献をご紹介します。  対象:2022年1月から2月にオミクロン株

          7日間の療養後も約50%で感染性のある新型コロナウイルスを保有している

          新型コロナによる合併症~心筋炎~

           新型コロナ感染症は肺だけでなく、全身の臓器に炎症を及ぼします  特に心臓に炎症がおこった心筋炎は、致命的な経過をとりうる合併症です  心筋炎の原因は新型コロナだけではありません  新型コロナ以外のウイルス、薬剤、そしてワクチンも心筋炎の原因となり得ます  新型コロナの発症・重症化予防で接種されているmRNAワクチン接種後にも心筋炎がみられます  今回北欧4カ国でワクチン関連、新型コロナ関連、またはそれ以外の原因で心筋炎となり入院された7297人を対象とした研究をご紹介し

          新型コロナによる合併症~心筋炎~

          16歳未満の子供と新型コロナ

           オミクロン株の流行で新型コロナは子供にも流行する感染症となりました  新型コロナは発熱や倦怠感といった感染症そのものの症状だけでなく、 倦怠感といった症状が長期化する「後遺症」が問題となる感染症です  後遺症が残るのは、大人だけではありません  今回16歳未満の子供における新型コロナウイルス感染症の特長や後遺症について、日本のデータをまとめられた論文をご紹介します 対象: 2020年2月から2022年4月に日本で新型コロナと診断された16歳未満の子供 5411人 うち2

          16歳未満の子供と新型コロナ

          オミクロン対応ワクチンの重症化予防効果

          新型コロナウイルスは頻繁に変異するウイルスです。 2022年から世界的に流行している「オミクロン株」は免疫を回避する能力に優れ、ワクチンの効果も落ちてしまいます。 そこで、世界的に流行中のBA.4/5というオミクロン株への免疫をつけやすくするオミクロン対応2価ワクチンが開発されました。 日本では2022年9月20日以降、3~5回目接種として2価ワクチンを接種できるようになりました。 今回BA.4/5やBQ.1といったオミクロン株が流行している時期に3~5回目接種として2価

          オミクロン対応ワクチンの重症化予防効果

          尿路感染症の原因となりうるグラム陽性菌について

           膀胱炎や腎盂腎炎といった尿路感染症の主な原因は  大腸菌やクレブシエラといった腸内細菌科細菌です。  これらの細菌はグラム染色で陰性の桿菌にみえ、グラム陽性菌による尿路感染症は稀です。  一方、尿路感染症が疑われる入院患者や高齢者の尿をグラム染色してみると予想に反してグラム陽性菌がみられることがあります。  今回尿からグラム陽性菌がみえた場合、考えられる細菌と特徴、治療薬について簡潔にまとめました。 S. saprophyticus - 女性に尿路感

          尿路感染症の原因となりうるグラム陽性菌について

          5~11歳対象の新型コロナワクチン効果

           新型コロナウイルス感染症から子供を守るため、新型コロナワクチン接種が勧められています。  その一方、5~11歳を対象としたワクチンの接種率は  2回接種完了者が約20%  3回接種完了者が約8% と、子供の多くはワクチン接種をしていないことが分かります。  ワクチン接種が進まない背景には  子供は重症化しないからワクチンの効果が分からない  副反応が怖いといった想いがあるようです。  2023年1月23日に5~11歳を対象としたmRNA COVID-19ワクチンの効果

          5~11歳対象の新型コロナワクチン効果