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「何かを選ぶ際の主体性」について考えさせられる一冊

理系か、あるいは文系か。

人生における大きな分岐点のひとつです。大学や専門学校へ進学する際はもちろん、就職活動でエントリーする企業及び職種を選ぶときも基準になります。

私はバリバリの文系です。子どもの頃から作家になるのが夢でした。だからなのか数学や物理、化学などに関心を抱けない。

一方、現代文と日本史は勉強とすら思わず、ただただ楽しかった。英語の長文読解もRPGに近い感覚でした。世界史は国と時代によるし、古文や漢文には文法の煩わしさが付き纏う。でも基本的には苦ではなかった気がします。

大学は文学部に落ち、法学部に合格しました。いま思えば入学後に転部もできたのだけど、そんなシステムが存在することを知りませんでした。そしてなんとなく文系のイメージを抱いていた法学が、実はロジックを重んじる数学寄りの分野だと痛感する。。。

とはいえ、三島由紀夫やフランツ・カフカ、フェルディナント・フォン・シーラッハなど法学部出身の世界的な文豪は少なくありません。最近では東大法学部卒のミステリィ作家も何人かいらっしゃいます。おそらく彼ら彼女らは適性としては文系だけど、同時に高い理系力も備えていて、それを創作に活かしたのでしょう。

逆に適性としては理系だけど、併せ持った文系力を用いて傑作を残した書き手もいます。前置きが長くなりました。今回紹介させていただきたい一冊は↓です。

装丁が見事で手触りも心地良い随筆集です。版元は灯光舎で、著者は寺田寅彦と中谷宇吉郎(なかや うきちろう)。いずれも物理学者として世に知られています。

表題作の「どんぐり」は、寺田さんが若くして亡くなった最初の奥様との思い出を綴ったもの。現代の観点で眺めると、男尊女卑的な展開にモヤモヤを禁じ得ない。しかし後半に収められた中谷さんの「『団栗』のことなど」を続けて読むと、まったく異なる感情に襲われます。

男社会と家父長制の是非。推測ですが、寺田さんはもっと奥様に優しくしたかった。でもそういうのは男らしくないみたいな価値観が主流を占める時代だったのでしょう。しかも当事者の意向は無視され、親の考えで重要なことを一方的に決められてしまう。

何かきっかけがあれば、寺田さんが師と仰いだ夏目漱石の「それから」みたいな勘当状態に陥る可能性もあったはず。その場合、物理学者としての彼はあるいは日の目を見なかったかもしれない。

欲しい何かを得る代わりにかけがえのない何かを失う。世の理といわれたらそれまでですが、だったら選ぶ際に当人の主体性を認めなければフェアではないと感じました。

親に医学部入学を強制される、もしくは理系へ進みたいのに「おまえにはムリだ」と文系を勧められるケースはいまもあるはず。両親からしたら「あなたのためを思って」だし、それが結果的に正しかったことも少なくないでしょう。でも。

月並みな表現になりますが、いろいろと考えさせられる一冊でした。ぜひ。

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