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加速主義

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#MMT

島澤諭『シルバー民主主義の政治経済学 世代間対立克服への戦略』読んだ

島澤諭『シルバー民主主義の政治経済学 世代間対立克服への戦略』読んだ

世代間格差についての本を読んだので、その著者がより最近に出版したものも読んでみたのだ。

シルバー民主主義とタイトルにあるが、まえがきでいきなり日本にシルバー民主主義は存在しないと言い切っている。シルバー優遇、シルバーファースト現象はあるが、シルバー民主主義ではないとのことである。これらを厳密に区別する意味はあんまりなさそうなのだが、著者はたびたびこのことに言及している。

しかし著者は、いかに高

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MMTは実物の不足を解決しない

MMTは実物の不足を解決しない

近頃の貨幣のほとんどは電子データにすぎないので、ケツを拭くことすらできない。

100億円じゃなくて、1億ドルでも1億ユーロでもいいが、どういう帰結になるかは明らかだ。労働者と労働者でない者のバランスが歪になった社会は持続しえない。

これは極端な想定ではあるけど、現状の日本社会はこういう方向に向かっているのは明らかである。そのことについては過去に何度か述べているのでくどくどとは書かない。

こう

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なぜ私は経済学を学ぶようになったのか

なぜ私は経済学を学ぶようになったのか

今月は時間の早さを思い知らされることが多かった。

例えば藤浪晋太郎、彼のデビュー戦を神宮球場まで見に行ったのはちょうど8年前のことだった。高卒ルーキーとはいえ、8年経ったらもうおっさんである。デビュー当時とほぼ変わらない投球内容なのであまり意識することはないかもしれないが。

あるいはついこないだできたばっかりと思ってた東浩紀氏のゲンロン。もう設立から10年以上になるらしい。

そして東氏の著書

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ステファニー・ケルトンの一般向けMMT解説書の邦訳がやっと出た

ステファニー・ケルトンの一般向けMMT解説書の邦訳がやっと出た

ステファニー・ケルトンの『The Deficit Myth』の邦訳『財政赤字の神話』の邦訳が早川書房から出版された。経済学の素養がない人に、Modern Monetary Theory(MMT)を説明するという趣旨である。政府の赤字、貿易赤字に関する様々な神話、つまり思い込みを解き明かしていく。本書を読み終わると、いかに誤ったレンズを通して現実を見ているかわかるだろう。

私は英語しかまだ通して読

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長かった第二次安倍政権もおしまいか

長かった第二次安倍政権もおしまいか

2020年8月28日、体調不良を理由に安倍晋三内閣総理大臣は辞意を表明した。7年8ヶ月にわたる長期政権であった。
とりあえずはお疲れ様であり、体調管理につとめてほしいところである。

当科にまわってくる潰瘍性大腸炎は、若年者の全大腸型で大腸全摘が必要だったり、下血がどうしてもコントロールできなくて大腸全摘の止むなきに至るとか、悲惨な病気という印象が強い。そのため総理大臣などというストレス満載の激務

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令和元年の振り返り

令和元年の振り返り

2019年ももうすぐ終わりなのでnoteでの活動を振り返る。たくさんの人にスキ、お買い上げしていただき感謝感激です。ありがとうございました。反響の多かったもの、個人的に思い入れのあるものを中心に取り上げます。

1.反響の最も大きかった記事令和元年ということで自分にとって平成とはなんだったかを子供たちへの想いもこめて書いたこの記事はたくさんの人に読んでいただけたようである。天安門事件のこともいれて

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書評『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話』

書評『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話』

書評です。ヤニス・バルファキスのこの本はずいぶん前から話題になっていたのになかなか邦訳がでなくて英語版(原書はギリシャ語)読むかどうしよう悩んでいたら3月に邦訳でてたらしいのでお買い上げ。

著者のバルファキスは、2015年ギリシャ危機のさいにギリシャ財務相をつとめた経済学者である。彼が10代の娘に経済について易しく語るという体裁になっており、たいへんわかりやすい。まず第1章はジャレッド・ダイアモ

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井上智洋『MMT 現代貨幣理論とはなにか』読書メモ

井上智洋『MMT 現代貨幣理論とはなにか』読書メモ

主流派経済学よりの立場からMMTを解説した本。薄くて読みやすいです。

須藤さんのおっしゃるとおり簡潔なのもいい。

1から4章はMMTの事実説明的な部分の解説。ひっかかるのは1章でデフレ脱却を強調していること。MMTにおいてはデフレ脱却は直接的な目標ではない。目標は完全雇用である。完全雇用が実現すれば結果的にインフレにはなるだろうけど。この点以外はおおむね納得できる内容である。

2章の租税貨幣

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井上智洋『純粋機械化経済』読書ノート

井上智洋『純粋機械化経済』読書ノート

井上智洋氏は経済学者であるが、エンジニアの経験もありITについても積極的に言及することで有名である。本書でもそこが遺憾なく発揮されており、AIやIOTが社会のどのような変化をもたらすかについて広い視野で概説している。

第1章は現在進行中の第3次産業革命とまもなくやってくる第4次産業革命についての解説である。そして第4次産業革命は一部の人間の頭脳が生産性を規定するような頭脳資本主義をもたらし、やが

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バイオ研究のお金を減らされるのは悲しいけど

バイオ研究のお金を減らされるのは悲しいけど

「(政府の支援を)いきなりゼロにするのが本当なら相当理不尽だ」。11日、日本記者クラブ(東京・千代田)の記者会見で、山中所長は憤りをみせた。ストック事業への政府の支援を2020年度から減らす話が現実的になってきたからだ。
この事業は再生医療に使う高品質なiPS細胞をあらかじめ備蓄する。拒絶反応が減るように多くの日本人に適したタイプの細胞を取りそろえる計画だ。13年に22年度までの10年間の国の支援

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ビル・ミッチェルがやって来た 番外編

ビル・ミッチェルがやって来た 番外編

先週の、MMT提唱者ビル・ミッチェル先生の京都での二度にわたる講演について2つの記事をアップした。

これらを読んでもらえばどんな感じだったかは伝わると思う。しかし基本的にポジティブなことしか書いていない。また、参加者とのクロストークから生まれた発想などについてはあまり書かなかった。というわけで以下の有料エリアには、怒られそうなことや、まだ煮詰まっていないアイデアについて書いてみたい。また子宮頸が

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ついに『クライテリオン』でも新反動主義が取り上げられる

ついに『クライテリオン』でも新反動主義が取り上げられる

保守系の思想誌である『クライテリオン』11月号は安倍晋三批判特集であった。主に保守側からの安倍首相批判で多くは妥当なものであったと思う。ただ多くの安倍批判が虚しいのは、別の人間が首相であっても似たりよったりの情況にしかならず、ことによってはもっと酷いことになるかもしれないということだ。

安倍晋三はただの空虚な器であり、そこにはさまざまな勢力の多様な思惑が入り込む余地がある。そして現実の政治力の強

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ビル・ミッチェルがやって来た その2

ビル・ミッチェルがやって来た その2

昨日11月4日、京都市国際交流会館にて薔薇マークキャンペーン主催でビル・ミッチェル教授のセミナーが行われ、またしても聴講してきた。

今日は松尾匡教授と朴勝俊教授よりいくつか質問が事前に提出され、ミッチェル教授がMMTのアウトラインを話しつつ、質問に答えていくというスタイルであった。ただし通訳を介してすべての質問に詳細に答えるのは不可能なので、仔細は順次ブログにアップしていくとのことでした。誰かが

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ビル・ミッチェルがやって来た

ビル・ミッチェルがやって来た

11月2日土曜日、MMT提唱者の1人であるビル・ミッチェルさんが京都大学にて講演されたので行ってきた。本やブログで知ってる人が目の前で喋ってるというのは不思議な感覚だった。

オーストラリア訛りが凄くて聞き取るのに苦労したけど、通訳の方々の活躍により楽しく聴くことができた。

印象に残っているのは、税の役割は民間から実物支出の余地を奪うことだと強調されていたことだ。税は貨幣的な意味では財源ではない

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