川良部逸太

かわらべ・いつた いつか小説を書いてみたい。 そんな夢を抱きつつ、手にするのは小説:技…

川良部逸太

かわらべ・いつた いつか小説を書いてみたい。 そんな夢を抱きつつ、手にするのは小説:技術書=1:3。 古建築とお酒、ランニングを愛してやまない、元技術屋です。

最近の記事

ご覧くださる皆様、いつもありがとうございます。 家族に病人が出てしまい、しばらくの間、投稿が滞ってしまう見込みです。 引き続き皆様の作品は、拝見させていただくつもりでおります。 noteに舞い戻ってこられます日を楽しみに待ちながら、日々、成すべきことに集中し、務めて参る所存です。

    • 拙作「Monument」の書かれ方 #3

       なんとか「プロット」(の、ようなもの)が形になりました。  後はただ、ひたすら書き進めていく。  ただ、それだけ。  ……と、たかをくくっていたのですが、そう簡単には参りません。  仕事でも愛用してきたポメラを叩くと、確実に文字の数は増えていきます。  増えてはいく……のですが、なんと表現したらいいのでしょう。  シーン表に書かれていることが、なんとなく文にまとまっては、降り積もっていく。  そんな感覚が、拭えないのです。  積み重ねられた文章を読み返してみても、な

      • 拙作「Monument」の書かれ方 #2

         自分史を記し、読み返してみると存外にたくさんのエピソードの断片が得られました。 「亡き友を偲びバラ園に植樹する」  この物語の骨子に、これらを上手に肉付けしていくため、前段階としてアイデア出しの作業が始まります。  道具には仕事で使い慣れたものを用いました。  方眼のリーガルパッドと万年筆です。  万年筆というと、ペリカンとかモンブランみたいな恰好いいものを思い浮かべられる方も多いと思いますが、わたしのは国産のノック式。  アルミ製でとにかく軽く、ボールペンのよう

        • 拙作「Monument」の書かれ方 #1

           本当は「書き方」と名付けられたら恰好よかったのですが、変な題名でごめんなさい。  たった一作を、ようやく捻り出したばっかりの、このわたしのことです。 これから記しますのは「書き方」というよりむしろ、「物語を記す」迷路のような過程についてのお話ですので、結局、こんな題名に落ち着いてしまいました。  現在、手元の資料――主として紙媒体――の整理に当たっています。  手を動かしておりますと、懐かしく昨年の今時分のことを――想い悩んでいた日々ことを思い返しました。 「どうやっ

        ご覧くださる皆様、いつもありがとうございます。 家族に病人が出てしまい、しばらくの間、投稿が滞ってしまう見込みです。 引き続き皆様の作品は、拝見させていただくつもりでおります。 noteに舞い戻ってこられます日を楽しみに待ちながら、日々、成すべきことに集中し、務めて参る所存です。

          後片付けに苦慮しています

          Monumentの後片付けに手を焼いています。 生来のズボラが災いし、整理整頓なぞ、後回しのまま書き進めること最優先。 その結果、パソコンの中はぐちゃぐちゃ。 アイデアメモや取材資料などの紙片が乱雑に詰め込まれたファイルボックスは、本棚の一角を占めるまでになりました。 意を決して手を付け始めてみれば、今度は、テストピースを読み耽ったり、使えなかった設定資料をひっくり返したり。 それらひとつひとつに、思い出が染みついていて、捨ててしまおうにも手放すことができません。 進

          後片付けに苦慮しています

          「Monument」に触れてくださった皆様へ

          noteに出会い、アカウントをいただいたのは、一昨年の大晦日のことでした。 それから早、一年余り。 お陰様で、一遍の物語を無事、完結に導くことができました。 思い出されますのは、昨年の今頃のこと。 わたしは頭を抱えていました。 多くのクリエイターさんが毎日のように紡ぎ出す物語と、その美しい言葉の数々に打ちひしがれて。 果たして、わたしの描く物語は、noteという舞台で通用するのだろうか? お目汚しにならぬようにと、推敲に推敲を重ねて、ようやくたどり着けた初投稿の日。 ボ

          「Monument」に触れてくださった皆様へ

          【連載小説】Monument エピローグ

          馨 「今朝は、この秋一番の冷え込みとなりました」  助手席に着くなり、カーラジオがそう告げた。  吐く息は白く、指先は冷たい――そしてまた、車の中も。  シートベルトを留めようとした僕の手に、運転席の眞琴はむっつりと無言のまま、あからさまに身を離した。  ……怒って、いるのだ。  こうなってしまうともう、手のつけようがない。  歩み寄ろうにも、話かけるだけ無駄だった。  気まずい沈黙の内に、車はマンションの駐車場から滑り出る。  行き先は、バラ園。  そう。

          【連載小説】Monument エピローグ

          【連載小説】Monument 第七章#5

          眞琴  クチナシの、ほのかな香りで目が覚める。  わたしは窓辺に寄りかかったまま、ブランケットにくるまっていた。  薄く開けておいた窓から吹き込んだ夜風にあたったのか、片頬と耳が冷たい。  ブランケットから抜いた手を、そっと頬にあてがう。  温もりがなんとも心地よい。  今一つ焦点を結びきれない眼で振り返った窓の外――ベランダには、緑に混じって白が滲んだ。  ちょっぴり隙間をひろげて、窓の外を覗き見る。  明け方の冷気と一緒に、ふんわりと甘い香りが流れ込んだ。

          【連載小説】Monument 第七章#5

          【連載小説】Monument 第七章#4

          眞琴  凪いだ湖水を想わせる、漆黒の闇。  その水面を、謎の光は進み続ける。  光の点は瞬きつつ円形から楕円に、そしてまた丸い形へと脈動し、次第に大きくなっていく。  やがて、それははっきりとした楕円形を示すと、さらに細長く横に伸び、光の粒に分離した。  ――モノレール?!  そう。闇夜を走るモノレール……。きっとこんな風に見えたことだろう。    でも、まさか。そんなはずはない。  車両はもう――遊園地の閉園に先立って――壊れてしまい、とっくに撤去されていたはずだ

          【連載小説】Monument 第七章#4

          【連載小説】Monument 第七章#3

          眞琴  眼下には、地平の果てまで一面の闇。  光も、ない。  音も、ない。  風も、ない。  匂いも――走りに走り続けたせいで、焼き付いた肺が吐き出す微かな血の香りを除けば――なにもない。  汗を吸った衣類は肌に纏わり、手の甲で拭った口元には、薄っすらと塩の味がした。  街は、闇という名の海の底に深く沈んで果てしなく広がり、そのまま空へ――吸い込まれてしまいそうなほど澄み渡った星空へと連なっている。  天空は、くっきりと銀河に両断されていた。  首筋に冷たく流れた

          【連載小説】Monument 第七章#3

          【連載小説】Monument 第七章#2

          眞琴  夜風に頬を撫でられて、わたしは我に返った。  ちょっぴり腫れぼったくなったまぶたを開く。  涙が渇くと、満天の星空は変わることなく頭上にあった。  目の前のクチナシの樹に向き直る。  合わせた両手に、つぼみが頷き返した。  ひざについた土をはたいて、辺りを見回す。  道具はすべて片付いていて、残っているのはわたしとクチナシだけだった。 「気を遣わせちゃったかな……」  それにしても、なんて星のいい晩なんだろう。  シルエットになった梢の上で、煌々と輝く赤い

          【連載小説】Monument 第七章#2

          【連載小説】Monument 第七章#1

          眞琴 「もうじきだよ――眞琴っちゃん――あと少し」  前を行く啓太郎が、呼吸の合間にわたしを気遣う。 「――うん」  とだけ返すのが、精一杯になった。  急な登りを終えると水路は次第に浅くなり、もうわたしですら、ひざを屈めなければ歩けない。  狭苦しい通路の中、ちょっぴり酸欠気味なのか、頭の芯がぼおっとなる。 「ついたぞ」  先頭の毬野が、足下を照らす赤いランタンを消した。  啓太郎が、背負ってきてくれたクチナシが、わたしの目の前、水路の床に降ろされる。  暗闇に目が

          【連載小説】Monument 第七章#1

          【連載小説】Monument 第六章#4

          馨  それからのぼくは、支離滅裂だった。  授業には全然身が入らず、隣の机――森ノ宮の席――に飾られた花を、ちらちらと眺めてばかりいた。  彼女の言葉。  彼女の仕草。  彼女の顔。  すべてが幻だったみたいに、なにもかもがその輪郭を失って、はっきりと思い出せない。  それでも、季節は巡っていく。  秋は、ことさらに残酷だ。  美しい夕焼けを目にするたびに、ぼくはその光景を垣間見る。  橙色の夕焼けの影絵に沈む森ノ宮、を。  その鮮烈な記憶だけが、ぼくの頭に焼き付

          【連載小説】Monument 第六章#4

          【連載小説】Monument 第六章#3

          眞琴  木曜日の終バスに、乗客は少ない。  わたしは啓太郎と二人、一番後ろの左窓側に並んだ。  ここに座っていれば、途中、香澄の墓碑「23番」の柱を通るはず。 「発車します」  ぶっきらぼうなアナウンスでバスが動き出す。  タイヤが水溜まりを踏む音がした。  陽もすっかり暮れ切ってからの、激しい雷雨には肝を冷やした。  毬野が計画を断念してしまうのではないか――たとえ決行、としても、わたしを置いて行く、なんて言い出しはしまいか。  でも、毬野からは一言もなく、淡々

          【連載小説】Monument 第六章#3

          【連載小説】Monument 第六章#2

          馨  夜更け待って、僕らは出発した。  昨夜、眞琴がカーナビにセットしてくれたポイントで、クチナシとともに車を降りる。  木曜の晩が幸いしたのか、近所の家々にもう灯りはない。  宵の口の激しい雷雨にさらされて、夜気はしっとり湿気り、冷たかった。  窓は、閉ざされているだろう。ことさら、物音に気を配る必要もなさそうだ。  僕はクチナシの苗木を背負い、慎重に水路へと降りていった。  心配なのは水かさだ。  予想した通り、昨日よりは幾分高く、くるぶしを洗う。  が、この程

          【連載小説】Monument 第六章#2

          【連載小説】Monument 第六章#1

          眞琴  長い、一日になる。  覚悟して望んだ最終日、木曜のボランティアは、流れるように時間が過ぎた。  脩さんの誤解は最後まで解けず、おかげで恒例の懇親会も堂々とすっぽかして、毬野と二人、帰途につく。  日中、啓太郎が調達してくれた不足の品を確かめて、行動計画をおさらいすると、わたしたちにはもう、成すべきことはなくなった。  ベッドを譲る、というわたしの提案はあっけなく退けられて、啓太郎はリビングのカウチで、毬野はダイニングテーブルに突っ伏して、わたしは――意固地に

          【連載小説】Monument 第六章#1