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ISの奴隷にされた人たちが故郷に戻れる日

 シリアとイラクにまたがる広大な地域を支配していたISが、最後まで占拠していたバグズ村を失って、領域としてのイスラミック・ステートが消失してから一週間余り。

ISに邪教とみなされ、殺害されたり性奴隷にされたりといった迫害を受けてきた中東の宗教的少数派ヤジーディたちに、平和と安寧は到来するのだろうか。

ISに囚われの身になっていたヤジーディたちが解放され、ヤジード教の宗教指導者に引き渡されたりした、という情報もある。

ISによる攻撃を回避できたヤジーディコミュニティがあるイラク北部ドホーク県バアダラでは、救出されてシリアから帰還した女性とその子供2人が家族と再会した。

しかし、全体的にみると、ヤジーディの苦難は、依然、続いている。

4年にわたって続く「ジェノサイド」で、ヤジーディの約8割は依然として家を追われた状態が続く。キリスト教徒のほとんども、(故郷であるイラク北部の)ニナワ平原に帰還できないでいる。イラクとシリアの少数派は、未曽有の人道的危機状態が続いている。(ヤジーディ支援を行う国際NGO「ヤズダ」のムラード・イスマエル事務局長)

家屋やインフラが破壊された故郷に帰って、生活を再建するのは容易ではない。再び、「ISなどイスラム過激派の標的にされるのでは」という不安も強い。さらにヤジーディの場合、対IS戦を通じて深まったクルド人諸勢力の対立が、帰還を困難にしている。

英国の女優キャリー・マリガンはイラク北部の避難民キャンプを訪れた際の感想を2月22日付の英紙タイムズ(電子版)に寄稿している。

キャンプで、1か月、1人当たり15ドルで暮らすことを強いられ、飢餓ギリギリで生活している家族と会った。破壊された家の再建も資金不足で進んでいない。イラク北部の難民キャンプでは、18人の自殺者、22人の自殺未遂者が出た。状況は絶望的だ。

米政府による「ISが滅亡した」という発表も、ヤジーディをはじめとする迫害を受けた人々の状況の改善に何も寄与していない。

ヤジーディたちは今、極めて困難な「戦後」に直面している。彼らが帰郷できる日は、いつやって来るのだろうか。




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