deriba | 脳と学習

神経科学/脳波 慶應大大学院で脳の研究。

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神経科学/脳波 慶應大大学院で脳の研究。

最近の記事

25本の高インパクト論文で振り返る2023年度のニューロテック

(初めての有料記事で若干緊張していますが、前半は無料なのでお気軽にお読みください。後半ご購入いただいた場合、学費や研究費として活用させていただきます) 2023年度は、ニューロテック界に大きな発展がもたらされた年といえます。 イーロン・マスクのNeuralinkが臨床試験を開始し、Appleがイヤホン型脳波計の特許を取得したというニュースも舞い込んできました。もっと基礎的なレベルでも革新的な研究論文が多数報告されました。 この記事では、2023年度のニューロテックを25本

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    • 「脳波は下処理しない方がいい」という衝撃の論文が出ていた件

      EEG is better left alone (脳波はそのままが良い)というタイトルの論文が2023年にScientific Reportsに出ていた。つまり、「脳波の下処理はしない方がいいよ」という衝撃的なメッセージだ。 しかも著者は脳波処理の王道EEGLABを開発したDelorme氏であり、つまり脳波のスペシャリストだ。その彼が「脳波の下処理なんてしない方がいい」という論文を出したという点に、とてつもないインパクトがある。 この記事ではその内容を整理し、関連する議

      • 【論文】結局なぜ自主性は大事なのか?

        ※この記事は以前に別媒体(研究ホームページ)に投稿し、好評だったためNoteに移行しました。 「自主性が大事」とはよくいうが、その理由って何だろうか。 単によい成果を挙げるだけが目的なら自主性なんてなくてもいいんじゃないのか。 と正直思う。 例えば、受験生A君は自分で勉強法や教材を考えた上で選択して受験を終えたとする。 一方、受験生B君はカリスマ講師から完璧な受験勉強プランを組んでもらって、完璧な勉強法を教わり、完璧な参考書を適切なタイミングでこなしたとする。 こ

        • 【脳波解説3】はじめて脳波を測ったときのこと

          第一回と第二回では、脳波とはそもそもどんなものなのか、その導入的な話をしてきた。 今回は少し毛色を変えて、私がどのような経緯で脳波研究の世界に入り、研究を進めてきたのかについて話したい。 記憶が正しければ、私が初めて脳波を計測したのは大学2年生の3月ごろだ。 慶應義塾大学環境情報学部の牛山潤一研究室に所属してから約半年が経ち、そろそろ自分で実験をしてみたいというときだった。 先生にメールで「脳波の取り方を教えてください」と頼み込んだのを覚えている。 先生はガタイが良くて声

        25本の高インパクト論文で振り返る2023年度のニューロテッ…

          自己紹介(研究業績・実績等)

          プロフィール略歴 1994年生まれ 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在学中 牛山潤一研究室所属 自己紹介 記憶・学習・脳波をテーマに研究 脳波を眺めている時間が一番幸せ 「脳を知り、自分を変える」ことができる世界が目標 連絡先 まずはX(旧Twitter)のDMまでご連絡ください 仕事の依頼、脳に関する相談等、どんな相談でもお気軽にDMください。 研究関連の業績原著論文 [1] Ideriha, T., & Ushiyama, J.

          自己紹介(研究業績・実績等)

          【脳波解説2】なぜ私たちは機械のように同じ動きができないのか?

          気が向いた時に脳波を解説する企画、連載第2回。今回は、私たちはなぜ機械のように完璧な運動を行うことができないのか?という素朴な疑問に答えたい。このテーマを通じて、脳波、特にアルファ波についての理解を深められるはずだ。 バスケットボールの勝敗を決めるフリースローの瞬間、観客が固唾を飲んでボールの行方を見守る。しかし、選手が放ったボールは無情にもリングに弾かれてしまう。次の瞬間ブザーが鳴り、チームは惜しくも敗退する。 大チャンスであるはずのフリースローを外した選手に対して「な

          【脳波解説2】なぜ私たちは機械のように同じ動きができないのか?

          ずっと実現したかった学習方法が実現できたかもしれないという話

          恥ずかしながら、私は教科書や専門書を最初から最後まで読み通せたことがない。 どうしても途中で(ほとんどの場合は最初の2,3ページで)飽きてしまう。 なんとかならないか、と思っている。 僕は記憶や学習について研究している。 理由のひとつは、もっと色々なことをもっと速く楽しく学習したいからだ。 世の中には相対性理論とか宇宙論とか、意識の統合情報理論とかロマンのある科学がたくさんある。 しかし、この短い人生でそれらを満足に理解することはおそらくできない。 それはとても残念なことだ

          ずっと実現したかった学習方法が実現できたかもしれないという話

          【脳波解説1】脳はリズムが支配する

          脳波について、理解が深まる読み物を気が向いた時に書いてみる。初回のテーマは「脳はリズムが支配する」。これこそが、脳波を知る第一歩であると思う。 私が研究の道に入ってから早7年。この前、研究に割いた時間を計算したら、どうやら10,000時間を超えていた。 人は10,000時間を練習に捧げれば、その分野のエキスパートになれるという仮説がある。私がまだ研究者として何一つ成し遂げていないことから、この仮説は間違っていることが立証されてしまったのだが、ゲームならプロゲーマーになれる

          【脳波解説1】脳はリズムが支配する

          脳波ワークショップ2023夏(詳細)

          2023年8月19日(土曜日)、渋谷で脳波ワークショップを開催します! 緒言良く実験参加者に実際の脳波をお見せしながら話すことがあるのですが、とても面白がってくれるのが印象的です。それをもっと多くの人に体感してもらいたいと思い、このワークショップを開催することにしました。自分の脳波がリアルタイムに変化する様子を眺めるのは、とても貴重な体験になるはずです! 目標・自分の脳波をリアルタイムに観察する ・脳波の面白さに触れる ・脳波の基礎を学ぶ プログラム概要12:45〜13

          脳波ワークショップ2023夏(詳細)

          DERIGINOがやりたいこと

          先日、ラボ同期の杉野とDERIGINOなる組織を立ち上げました。 なぜ急にそんなものをスタートしたのか? DERIGINOが目指す未来について共有したいと思います。 背景…高まる脳科学ビジネスへの期待現在、ブレインテック・ニューロテックと呼ばれる「脳科学ビジネス」に大きな期待が集まっています。 脳科学ビジネスの市場規模は5兆円規模とも言われています。 Appleがイヤホン型脳波計を開発しているという話も記憶に新しいですね。 アメリカや中国をはじめ、巨額の資金が脳科学ビ

          DERIGINOがやりたいこと

          一人に対して複数データポイントがある場合の相関について

          単純に20人の体重と身長を測ってその相関を出すのはピアソン相関とかで簡単だ。散布図にすると20点あることになり、おそらく右肩上がりの相関が得られるだろう。 そうではなく、たとえば上記のケースにおいて、一人が1年に1回10年分、身長と体重を計測した場合はどうすればいいのだろうか? その場合、点の数は20x10=200点になる。 それをそのまま散布図にして、ピアソン相関を求めることは問題がありそうだ。 実際、このような手法は各点に独立性があることを仮定している。しかし、この例

          一人に対して複数データポイントがある場合の相関について

          脳波の「ワンチャンはあるかも」な社会実装アイデア

          (非侵襲)脳波は難しいので、実は真に価値のあるビジネスを生み出すのは難しい。 ※脳の計測手法にもいろいろある。ここでは頭皮の上から脳波を計測するデバイスについての話を書く。ここで述べる非侵襲の脳波は最もコンパクトな脳計測技術であり、社会応用の期待が高まっている。 他に侵襲型といって頭蓋骨の中に電極を配置するタイプもあるが、これらは全くの別物であり革新的な技術となる可能性が高い。 脳波が難しい理由はいくつかあるが、代表的なものを挙げると ①ノイズに弱い ②個人差が激しい ③

          脳波の「ワンチャンはあるかも」な社会実装アイデア

          AIは研究の楽しみを奪うか

          21世紀は間違いなくAIが人類の知能を完全に超える世紀になるだろう。 囲碁や将棋といったゲームでは既にトッププロですらAIに歯が立たない。 昨年話題になったMidJourneyというAIは、プロが数ヶ月かけて描くような絵を数秒で描く。 AIの発展は研究の世界にも及び、AlphaFoldをはじめとするAIが新しい研究成果を生み出し始めている。 そのような中で、AIが研究の楽しみを奪うことはないのだろうか。 このポストでは、研究の魅力とAIの発展について思うことを書くことにし

          AIは研究の楽しみを奪うか

          2週間毎日瞑想して脳波を測った結果

          先日脳波計OpenBCIを購入しこんな記事を書いた。 それから約二週間、毎日瞑想をしながら脳波を計測したので記録を残しておくことにした。 瞑想と脳波といえばMuseが有名で、自分も使ったことがある↓ が、この手の製品って脳波の波形など細かい情報が分からないので、普段脳のことをやってる院生的にはあまり面白くない。 そこで先日OpenBCIという15万ぐらいする脳波計を買って毎日脳波を測っては解析するようになった。 (厳密にはMuseを使って脳波の波形を取り出して解析し

          2週間毎日瞑想して脳波を測った結果

          脳科学系院生がOpenBCIを使ってみたレビュー

          日本語のOpenBCI情報が少ないので簡単にレビュー。 買うか迷ってる人、買ったけど困ってる人向けに。 簡単に自己紹介をすると、神経科学系の研究室の博士課程1年で、脳波を対象とした研究をしています。Twitterは@deriba9です。 なので研究向けの脳波計との比較をしながらOpenBCIのレビューをできればと思います。 OpenBCIとはそもそもOpenBCIとは ・脳波計 ・10-30万円ぐらい ・8-16チャンネル ・ドライ電極(ジェルとかを使わない) ・3D

          脳科学系院生がOpenBCIを使ってみたレビュー