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本の森002 モモ ミヒャエル・エンデ(岩波少年文庫)

圧倒的な感動。でも、深く深く考えさせられる。

1973年に児童文学として書かれた本だけど、今を生きる僕たち大人こそ、読むべき本だと思った。

物語の主人公は浮浪児の少女、モモ。
モモは、不思議な力を持ってる。
彼女に話を聞いてもらうだけで人は癒され、話を聞いてもらった人は自分自身の価値に気づいて元気になっちゃう。

彼女は浮浪児(不労児?)なんだけど、街のみんなが彼女に色々なものを届けてくれる。だって、話を聞いてもらって、元気にしてもらってるからね。

住む場所を整えてやったり、衣類や食べ物を届けてる。
不仲な夫婦もいがみ合っている大人同士も、モモのところに来るとニコニコして帰って行く。
そういう意味では、モモは不労児なんかじゃない。
ちゃんと働いてるわけです。
他人のために自分の時間を割いて、話を聞き、人を癒す。
街の人たちは彼女を必要としてる。
そして彼女もまた、みんなを必要としてる。
相互支援の関係性が保たれているわけです。

さてさて、ある時その町に、灰色の服を着た怪しい人たちがやって来る。
時間銀行の手先たちだ。
奴らは、ごく普通に暮らしていた街の人たちに、時間貯蓄の営業活動を始める。
「時間を節約し、その節約した時間を時間銀行に預ければ5年でその利子が倍になって返って来る」という甘い言葉で人々を誘惑し、時間を奪っていく。
いや、奪われたんじゃない。
人々は「利子」の魅力に誘われて、自ら時間を預けてしまうのだ。

やがて人々は徹底的に時間を節約し、無駄な時間を使わないようにあくせくと働き、資産を増やすために猛進し始める。
そして人々は人間らしさ、自分らしさを見失う。
いつもイライラし、常に何かにせき立てられるように、生活するように変わっていっちゃう。
せかせかと動き、効率と生産性ばかり追い求め、人としての優しさやぬくもりも失っていく。

そんな風に変わっていく街の人たちや、友達、子供達の姿に、モモは戸惑い、悲しむわけです。
そして案の定、時間泥棒たちはモモのところにもやって来るわけ。
彼らにとって、モモの存在は邪魔だから。
でも、時間泥棒でさえも、モモのところに来ると素直になっちゃう。
自分たちの本音や、時間泥棒の秘密を正直に話してしまう。
だから、モモの存在に危機感を感じた時間泥棒たちは、彼女をどうにかして潰そうと企むんです。
そんなとき、モモは不思議な力を持つカメ「カシオペイア」に導かれ、時間を司る神のような人物、ホラに出会う。

モモはそこで、時間の大切さや時間の持つ意味を知る。
奪われてしまった時間を取り戻さなければ、この世界は時間泥棒に支配されてしまう!
モモは、世界を救うために戦う決意と覚悟を決め、カシオペイアと共に、時間泥棒たちとの戦いに挑むわけです!

そんなお話だ。

人間にとって大切なものは何か?
エンデがこの本をはじめとする著作で遺したもの、それは、貨幣経済(市場原理)に支配され、人間としての本質を失ってしまう危険性に対する「警鐘」だったんじゃないかって、僕は思う。

エンデにとって、モモという物語でいう「時間」って、「貨幣(カネ)」のことだって思うわけ。

Time is money!

だからね。

なぜなら、エンデの他の著作を読んでも、エンデのインタビューを聞いても、彼は「貨幣」ってものをちゃんと考えようよ!って、警鐘を鳴らし続けてきたことがわかるから。

エンデは、こんな風に言う。
パン屋でパンを買う購入代金としてのお金と、株式取引所で扱われる資本としてのお金は、2つの全く異なった種類のお金である、と。
(エンデの遺言 ~根源からお金を問う~NHK)

今、僕たちの国で起こっていることや、今、世界中で起こっている「実態の見えない経済状況」って、1973年に書かれたこの児童文学の中に、見事に予言されてるって、僕は思ったわけです。

僕たちは今一度、立ち止まって考えなくちゃならない。
経済って何なのか?
僕たちにとって、本当に大切な「経済」って、どういうものなのかってことを。

知らず識らずのうちに、僕たちは「モモ」のような大切な存在を、排除しようとしてはいないだろうか?

無駄だからといって、生産性が低いからといって、実は本当に大切なものを排除しちゃってないか?

もう一度、よく考えてみなくちゃいけないと思う。

次は、エンデの「はてしない物語」を再読してみよう。
また、新しい発見があるかもしれないから。

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