銭本隆行さん_

デンマークでの経験を活かして、自己決定ができない日本社会の変革を目指している”銭本隆行さん”

2009年より10年間デンマークに行き、そこで学んだことを活かしていきたいと1人1人の意識改革に向けて仕組みづくりや各地で講演活動などもされている、銭本隆行さんにお話を伺いました。

■銭本隆行さんプロフィール
出身地:広島県生まれ、福岡育ち
活動地域:札幌を中心に全国
経歴:早稲田大学政治経済学部在学中にヨーロッパを放浪。そのときにデンマークと出会う。大学卒業後、時事通信社、産経新聞社で、11年間の記者生活を送る。平成18年にデンマークへ渡り、デンマーク独自の学校制度「国民高等学校」であるノアフュンス・ホイスコーレの短期研修部門「日欧文化交流学院」の学院長を務め、日本からの福祉、教育、医療分野に関する研修を受け入れながら、デンマークと日本との交流を行ってきた。平成22年にオーデンセペダゴー大学で教鞭を執り、25年にはデンマークの認知症コーディネーター教育を受けた。
27年末に日本に帰国し、28年3月に名古屋市の日本福祉大通信制大学院で認知症ケアシステムについて修士号を取得し、同年、福岡市の精神障害者の生活訓練事業所の設立・運営に携わった。
現在の職業及び活動:札幌市の日本医療大学認知症研究所と日本福祉大学大学院博士課程に在籍しながら認知症に関する研究を進めている
座右の銘:「不断の努力」

自己決定が当たり前になる国にしていきたい

Q.銭本さんが思い描くこれからの夢・VISIONを教えてください

銭本隆行さん(以下、銭本):日本でも自己決定という考えがかなり進んできたと思いますが、色々な場面で本人の決定は二の次になっています。
特に福祉の世界になるとしばしば家族か職員の決定が先になりがちなので、自己決定ができる教育や福祉にできるようにしていけたらというのが夢です。

福岡で携わっていたは事業では、精神障害の人の自立支援を中心にしていました。
教育関係でいえば、専門の認知症の分野では、その人がその状態になる前から自己決定、自分の意思を聞いてそれを次に活かすという事をしています。認知症が重度になってから自己決定というのはそう簡単なものではないんですが、初期とか中度くらいまでの時に色々と話を聞いておいて、次に活かせるようにして、自分の意思を常に反映できるような社会にしていきたいと思っています。

1人1人が自分でものを考えていけるようなあり方へ

Q.夢を実現するために、どのような目標や計画を立てていますか?

銭本:大学では1人1人が自己主張や自己決定ができる場面を設定しています。
デンマークでは、事前に色々と準備をしていても準備した半分しかできないんです。また、机の配置も日本のように学生全員が先生の方を向いているのはありえません。コの字に並んでいることが多いです。何かを振ったら、学生同士で議論ができるというようなあり方なんです。

大学は数年後に新しく福祉系の新学部をつくる予定
ですが、自己主張や自己決定ができるような授業を新しい学部でもどんどんやっていきたいと思っています。
普通に就職をしたら何も主張ができないままおかしくなってしまうので、学生が自分でものを言えるようにならないといけないと思います。1人1人が自分でものを考えて生きられるようにならないといけないと思います。それを考えたら、大学の中でもあり方を変えていくということで、自己決定を最大限尊重しながらやっていきたいと思っています。

記者:デンマークの授業は日本とはだいぶ違いますね。

銭本:そうですね。その時の授業や科目などにもよりますが、特に小学校、中学校では学生や生徒がみんなで話すのは当たり前です。決まったスタイルではなく、授業の内容についても、子どもが関わる場面が多々有ります。例えば、アクティブラーニング的に、国語であれば「劇の脚本のようなものをみんなで一緒に作ろうか」「グループに分かれて作ろう」「どんなのを作ろうか」とみんなで考えますが、日本では先生がほぼほぼ決めていきますよね。大まかな筋書きは先生は知っていないといけませんが、それを生徒たちの意見によって変えられるというような授業をしている点が違います。

日本はマニュアル的なのが多いです。授業の中でよく違いを感じるのが、日本はひたすらノートをとりますね。ノートテイクの本まで出ていますしね。日本はノートテイクはしますが、頭ではまず考えていません。だから教室を出てからそのノートを見るまでは内容を覚えていない「10のうちの9忘れる」というような教育になっています。
デンマークではノートテイクではなく、その場で一緒に考えたりします。
ノートテークをしないので情報量としては少ないですが、一緒に考えれば教室を出たときに覚えている量は3倍4倍は違ってきます。
そういうところから変えていって、自己主張や自己決定ができるようにしていけるようにと考えています。



若い人の考え方を変えていく

Q.どのような活動指針で、どのような活動をされているのでしょうか?

銭本:自己決定ですね。自分で何かものを言って人が参画していく社会を作るためには制度も変えていなかないといけないし、みんなも考えていかないといけません。

大学での教育は若い人の考え方を変えていくということですね。世の中を作っていくのは若い人ですから。もちろん年をとった人も変えていきたいですけどね。
講演や研修会の講師も色々やっているので、授業を通して「こういう問題があったりもする」というようなことを、色々な場面で人たちに訴えかけたいと思っています。実際にそれを訴えかけるように、講義などでも話しができるようであればなるべく話をしながらやっていくように努めています。

デンマークで感じたカルチャーギャップ

Q.その夢やVISIONを持ったきっかけは何ですか?どのような発見や出会いがありましたか?

銭本:一番初めのデンマークとの関わりは大学の頃で、政治を勉強をしていましたが、その当時はバブルの頃でみんな金融に就職したくらい、どこでも就職ができた時代でした。そういうのを見て面白くないと思ったのと、大学生なりに色々と悩む部分があり、「自分はこのままでいいのか」というところから始まって、自分というものを一度壊してみたいと思い、大学5年の時に、大学に籍を残してデンマークに行きました。

実際にデンマークに行ってみてカルチャーギャップを受けたんです。
「物を言わなければ世の中は変わらない」
というのをデンマークで感じて、「面白い世界だな、日本と全然違うな」というのがずっと頭の中に残っていたんです。
その後日本に戻ってきて大学6年で卒業し、新聞記者を10年くらいやっていました。
デンマークにいた時に日欧文化交流学院を設立した千葉忠夫さんと「将来一緒に学校で仕事をしよう」と話をしていたので、2006年1月に家族の反対を押し切ってデンマークに行き、そこから10年間「日欧文化交流学院」で日本からの福祉、教育、医療分野に関する研修を受け入れながら、デンマークと日本との交流を行ってきました。

パーフェクトを求める国 日本の考え方

Q.その発見や出会いの背景にはどんな気づきがありましたか?

銭本:教育に関しては若い人の意識を変えるのはなかなか難しいです。大学のレベルでも難しいです。100人のうち何割かでも心に響いて貰えばいいと思っています。クラスで1人の教師が落ちこぼれを1人も出さないようにするというのは、とてつもなく大変な事です。
日本はなんでもパーフェクトを求めすぎますが、100%はないと思って物事にあたっています。

記者:デンマークはどういう考え方なのですか?

銭本:少人数でやるとか。それについていけないというのであれば、その人をサポートする人がそこにでてきているという感じです。1人の人間が100%全てやるというのは日本は変えたほうがいいのではないかと思います。

記者:日本はパーフェクトを求めるというのは面白いですね。日本の中にいたらなかなか気付きにくいですよね。

銭本:そうですね。デンマークは足し算で、物事を考えるんです。「こういういい所がある」とか、積み上げ式の考え方です。日本は「できない」というところから考える引き算の考え方なんです。
教育の部分では、日本の教育は「そんな風に曲がったらダメ」というような教育で、ヒノキを育てるようにひたすらまっすぐにさせるんです。
それに対してデンマークでは本人が行きたいようにさせて、曲がってつまづいたらそこからサポートするという考え方です。
デンマークでは曲がるのは自分の意思、曲がってもいいんです。でもそこでサポートして曲がったらその時にまたサポートをする。
日本はひたすらサポートが周りにないと進めない。でもそんなことする労力自体も大変だし、自分の意思もだんだん無くなっていきます。

記者:日本とは大前提の考え方が違うといことですね。

銭本:自己主張しないというのは社会の中で決してよいものではないという考えが教育にもあるし、社会全体にもそうです。しかし日本では「出る杭は打たれる」ということわざもあり、自己主張は必ずしも認められませんが、そういうことではないと思います。

自分の意思に基づいて生きられる社会

Q.今までお話ししていただいたことも含めて、これからどんな時代を創っていきたいですか?

銭本:自分の意思に基づいて生きられる社会というものを創っていきたいです。そこには自己決定が入っています。そのためには色々な制度や考え方、社会のこれまでの伝統、慣習なども変えていかないといけないですね。
伝統は大切ですが、法律や制度も日本も3年ごとに変えていますが、それは当たり前のことです。

記者:だから行政が必要になるんですね。

銭本:そうですね。全てが100%完璧ということはあり得ないんです。だからその場その場で見直しをしていくことですし絶え間なくやり続けないといけないですね。

記者:以上でインタビューは終了です。
デンマークのように1人1人が自分で考えてものを決めて参画していける自立した社会づくりに向けて今後も頑張っていただきたいと思います。

本日は貴重なお話をありがとうございました!
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銭本さんの活動、連絡については、こちらから↓↓
日本医療大学
http://www.nihoniryo-c.ac.jp
デンマーク流「幸せの国」つくりかた
世界でいちばん住みやすい国に学ぶ101のヒント/銭本隆行著書
デンマークの歴史教科書
古代から現代の国際社会まで デンマーク中学校歴史教科書
イェンス・オーイェ・ポールセン著/銭本隆行著

【編集後記】
今回インタビューを担当した菊地と廣瀬です。
自己主張や自己決定ができる社会づくりに向けて色々と実践をされていますが、その背景には人間の可能性や人間としての尊厳を大切にされているのを感じました。

今後の更なるご活躍を楽しみにしています。
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この記事は、リライズ・ニュースマガジン “美しい時代を創る人達” にも掲載されています。
https://note.mu/19960301/m/m891c62a08b36

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