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短編オリジナル小説│後悔なく好きに生きよう




【お似合いの芸能人カップル】
【共演して交際に発展した芸能人○選!】

SNSを開くと、
そういった記事や投稿がよく目につく。

なんとなく開いてみたら
そこには最近話題のイケメン俳優と、
バラエティに引っ張りだこの
女性アイドルが並んでいた。

少し前に週刊誌で熱愛スクープが出ていたが
本人達は否定していたはずなのに
投稿者はきちんと調べていないのだろうか。
本当、こういう記事は信じられない。


なんといっても、その本人は
私の目の前でスマホをいじっているのだ。



「楓奏(ふうか)、今度ここ行こーよ」

そう言って彼女は画面を見せてくる。
隣県にある温泉地の写真だ。



「碧(そら)、休み取れそうなの?」

「んー、恋人の為ならね」

サラッと言ってのけるのが
アイドルらしいというか、彼女らしい。
昔からそうなんだけど。


久しぶりに愛おしい恋人と
小旅行にいけるなんて、嬉しすぎる。

そのままぎゅっと抱きしめてみたが、彼女は

「ご飯おいしそー」

なんて、呑気なことを言っている。
かわいい。


そう、私達は女同士で
真剣にお付き合いしている。
なんならもう何年になるかな、5年?
そして6年くらいは一緒に住んでいる。



*


出会いは、高校。

色めき立っているこのお年頃
みんな好きな人ができたり、
恋人ができたり。

なんとなく、自分は
女性に惹かれるのだと気付いてはいたが、
誰にも言い出せずにいた。

むしろ、隠すかのように私には
途切れることなく彼氏がいた。

告白されたらとりあえず付き合ってみて、
大概すぐ振られちゃってた。
毎度の事で、特に好きではなかったので
ショックなんてものは全く受けず、
─ああ、またか─とだけ思っていた。
今考えれば最低だったな。



「矢野楓奏(やのふうか)!」

私のフルネームを叫びながら遠くから
走ってくるのは、上本碧(うえもとそら)。

輝くほど白く、小さな顔には
吸い込まれそうな程の大きな瞳。
誰が見ても可愛い、綺麗だと思う存在。
同じクラスになったことはないのに、
1年の頃から何故か私に懐いている。

「んー、落ち着く」

勢いそのままに私の胸へ飛び込んできた。

彼女が小さいのか、私が大きいのか
ちょうどいいクッションに顔を埋める。

あまり他人と接触することは
好きではないのだが、
彼女は何故か嫌ではなかった。


「よしよし、どーした?」

柔らかい髪を撫でると、
上目遣いで見つめてくる。
琥珀色の綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。
これは反則だ。

「なんでもない。
ただ、元気チャージしにきただけ」

そう言って、去っていく彼女は
本当、私の気も知らずに何がしたいんだろう
─挨拶のように毎回飛び込んでくるが、
正直しんどい。心が─


彼女は誰が見ていようと関係なく、
私にスキンシップしてくる。
挨拶になっているハグ、
恋人みたいに絡めた腕や指。

「ふー、だいすき」

その好きがどの好きか分からないけれど、
私は満更でも無かったし
普通に嬉しかった。



最後に付き合った彼氏には

「楓奏は、上本と一緒にいるときは
凄く優しい顔するよね。
俺じゃあんな顔引き出せない」

そう言われて振られた。


高校時代に1番長く付き合った人。

最短3時間で振られるという
都市伝説みたいなことも頻繁にあったので、
奇跡的だった。一緒に帰ったり、
映画を観たり、傍から見れば
デートだと思われることは一通りできた。
情も湧いてきていたけれど、
手をつなぐことがギリギリで
それ以上はどうしてもできなかった。


─あぁ、この人はちゃんと
私のこと好きでいてくれたんだ。

だからこそ、申し訳なくなった。
とても優しい人だったから、
ずっと耐えてくれていたのだと思う。
嫌いになったとか、他に好きな人ができた
とか、そういって振ってくれてもいいのに
最後まで優しすぎて本当、
私こそ君を幸せにできなくてごめん、
そう思った。


そこから、告白されても
付き合うのはやめた。

私は、たぶん、きっと
碧が好きなんだと思う。

本人には言わないけど。言えないけど。
だって、女が女を好きだなんて
信じてもらえないでしょ。


好きになった相手に好きになってもらえる
確率ですら低いのに
ましてやそれが同性って、ね。



*



彼女は高2の途中で転校していった。

夢だと言っていたアイドルになるために。
たくさん受けていたオーディションのうちの
1つに合格し、追加メンバーとして
デビューできることになったらしい。

ここから東京までは、通えないことは
ないけれどやっぱり遠いし、
何より頭の固い学校だったので
芸能活動は禁止されていた。

そして彼女は東京の芸能コースのある高校へ
転校していった。それからはメッセージや
電話のやりとりをするくらいで、
何も進展は無し。



─国公立の大学なら東京でも地方でも
好きに一人暮らししてもいいぞ

そう両親から言われていたので、
私は必死で勉強した。流石に東大なんて
もんには行ける訳がないので、
努力すれば届きそうな大学へどうにか
滑り込んだ。頑張れた。

なぜなら、

〈東京に進学するなら、
ルームシェアしようよ〉

碧がそう言ってくれたから。

両親に碧とルームシェアすると伝えると、
安心だと喜んでくれた。


合格発表から引っ越しまでは怒涛の日々で、
色々手続きに翻弄されて大変だった。
でもそれはこれからの為だったし、
それを考えると楽しかった。


*


都内の2LDK。大学生なんかがまともに
住めそうにないくらいの高級マンション。
さすが売れっ子アイドル。
セキュリティも万全だ。


碧はデビューしてしばらくは、
メンバーの中に埋もれていた。
あんなに可愛くても
可愛いだけじゃ人気は獲得できない。

だから彼女は、途中からバラエティに
力を入れるようになった。
ちょっとおバカな天然発言をしたり、
大きなリアクションをしたり。
私よりも頭が良い彼女は、何を求められて
いるか瞬時に判断して動いていた。
わざとそう演じていた。


「別に、嫌ではないよ」

そう言いながら欠伸をする彼女は、
今ではバラエティで引っ張りだこ。

忙しいのだろう。

「ちゃんと寝て」

バイト終わり、私が夜遅くに帰ってきても
まだ台本とにらめっこしたり、
SNSや出演番組をチェックしていたりする。

体壊しそうで心配になる。

私とルームシェアする前までは
事務所の寮で暮らしていたらしい彼女の
家事能力はゼロ。
ぜーんぶ寮母さんに任せていた。

私もそんなに家事能力があるわけでもなく、
どちらかというとズボラだ。
しかし、今は碧を支えることになるのだから
進んでするようにしている。それが幸せだ。


バラバラと散らばった服や資料を片付けて、
夜食にと買ってきたおでんをお皿に移す。

あの様子じゃ、ご飯は食べていなさそうだ。

「ほら碧、糸コンと大根くらいなら
食べても大丈夫でしょ」

キッチンから呼びかけると、

「良い匂いするね」

そう言ってフラフラとやってくる。

「食べたら寝るよ。
明日も朝から収録なんでしょ」

「んー、沁みる」

聞いてるのか聞いていないのか、
分からないけれど
とりあえず食べてくれているので安心。

食べ終え、また台本を読み始めたと思ったら
すぐに寝息を立て始めたので、
碧の寝室へ運ぶ。

自分よりも小さいから軽いのは
分かっていたが、それにしても軽いし
細いし、これで生きていけているのが
信じられない。

安心しきった寝顔を見ると、
私の元気もチャージされる。
しばらく癒やされ、
また私はキッチンへ戻った。



同居してるといったって、碧の仕事は
早朝だったり日付を超えたりするので
会えることは少なかった。
私も大学の講義やバイトで忙しくしていた。

その中で有り難かったのが
マネージャーさんの存在だ。
スケジュール管理はマネージャーさんの
仕事で、家での体調管理は私の役目。
合流、現場到着、帰宅した等
何かあれば都度連絡をくれた。
今日はご飯を食べれていない、
体調崩すかもなど、そういった細かいことも
伝えてくれたので、その日のご飯や
作り置きなどにも役に立った。



*

そんなこんなで、同居して
1年半ほど経った頃、
碧が突然こんなことを言い出した。


「そろそろ恋愛解禁しようかなと思って。
デビューして3年経ったし、うちのグループは
恋愛禁止じゃないじゃん?」

恋愛禁止ではないことは知っていた。
名だたる先輩メンバー達が、
ちゃんと恋愛していて幸せそうにだった。
中には炎上していた人もいるけれど、
それは個人の行いが悪かったからで
ファンたちはけっこう見守る姿勢を
保っているように思える。


だけど、急に解禁ってなに?
今までの同居期間、
恋人が居たような雰囲気は無かった。
楽しく生活している中で
恋愛の話もなかった。
私がしたくなかったし、
その話題にならなかったから。

脳内でぐちゃぐちゃ考えていると、

「ねぇ、興味ないの?」

頬を膨らませて、怒った素振りをする碧。
可愛い。

興味ないわけないじゃないか。
そりゃもちろん、好きな人がいるなら
応援するよ、嫉妬もするだろうけれど。

「そういうわけじゃ…
それより急にどうしたの?」

「私の中で、3年我慢すれば恋愛okって
決めてたの!だからさ、楓奏…私は
楓奏が好き。お付き合いしてほしいです」

好きな人ができたと言われるのかと
構えていたのに、思いもよらない告白に
言葉を失った。


ずっと好きだった、実らないと思って
ひた隠しにしていたこの想いが
ついに実るなんて…

「え、本当なの?」

信じられない。凄く嬉しい。

答えを言う前に、私は碧を抱きしめていた。
重なる心臓からは、どちらもドクドクと
脈が早くなっていることが分かる。

「私もずっと、好きだったよ」

そう言って碧の顔を見下ろすと、
大きな目は赤く潤んでいて、
どうしようもなくそそられた。
そしてお互い自然と唇を重ねた。


*


あっという間に時は流れ、
私は銀行に入行した。
何かやりたいことがあったわけではないが
安定していて転勤もない職種、
ということで地域限定社員として。
大量採用なのでどうにか採ってもらえた。
転勤も可能なら給与がもう少し高かったが、
私はこの地から、碧の側から
離れたくなかった。
だから後悔はしていない。
給料より大切なのは私生活だ。



碧とは、付き合ってから大きな変化は無いが
同居から同棲に変わって、
元々多めだったスキンシップは更に増えた。
ストレスの多い碧は仕事や
ホルモンバランスでイライラしたり
不安定になることが多いが、
もう長いので慣れた。

逆にメンタルや感情の揺らぎが少ない私とは
真反対だからこそバランスが取れている
ような気がする。
素直に曝け出してくれていることは
分かりやすくて有り難い。




「ただいま」

定時で仕事を終え帰宅すると、
オフだった碧が夕飯を用意してくれていた。
おかずはデパ地下で買ってきたものみたい
だけど、白飯は碧が炊飯器で炊いたもの。
これは進歩だ。えらいえらい。

「碧が炊いてくれたご飯美味しいよ」

「えへ、ありがと。水加減大丈夫だった?
入れすぎたかもって心配で」

「大丈夫、ちょうどいい」

「今日ね、久々にデパート行ったら
目当ての商品が無くて、
むしゃくしゃしたから
美味しそうなお惣菜を買いまくっちゃった。
担当さんに取り置きしてもらってたはず
なのに、他の人に売っちゃったらしいの」

「それは担当さんのミスだね」

「でしょー、一応アイドルだから笑顔で
〝大丈夫ですよ〟って言ったけど、
嫌になっちゃうよね」

「そうだね、せめて連絡くらい
してくれたらよかったのにね」

ブランド物に興味のない私は、
担当が付くなんて知らなかったし
そこまでして欲しい物は何なのだろうかと
少しだけ気になる。



*




「ふーか、またそんな服着ていくの」

「どうせ着いたら制服に着替えるもん。
何でもいいじゃん」

朝、出勤しようと身支度をしていたときに
碧に話しかけられた。


女性銀行員にはなぜかダサい制服がある。
男性社員はスーツなのに。
銀行員だけではないけれど、
女だけ制服があるのって気持ち悪い。
男女共にスーツでいいじゃん。

私服を着るのは行き帰りだけなので、
シンプルで着脱しやすいもの。
オシャレなんて考えない。

いつもなら碧は寝ているか、
既に出ているかのどちらかだったので
こうやって見つからずに済んだのに。



「そーんな楓奏に良いものをあげよう」

手渡された小箱は、お高いブランドのもの。

開けてみると、小さなピアスだった。

「ありがと、でも、え、何で?」

「制服あるからっていっつも
オシャレしてないでしょ。シンプルな
ピアスなら勤務中も着けられるし、
可愛いから気分上がると思って」

心遣いは有り難いが…

「これ、高いやつでしょ。申し訳ないよ」

「いーのいーの、
いつもご飯とか作ってくれてるし、
そのお礼。着けるたびに私のことを
考えてほしくて勝手にしたことだから。
何も要らないよ」


いやいや、こんな立派な部屋に
住めているのは碧のお陰なんだが…


貰ったピアスを耳に通すと、
碧は満足そうに笑って私の耳に触れた。

「時間やばい、いってきます」

チュッと軽くオデコにキスを落とし、
急いで家を出た。

あれ、そういえばこの間言ってたやつって
まさかコレのこと?



*



月に数回、
本屋に寄って帰ることにしている。
碧が出ている雑誌をチェックするためだ。

SNS上のファン達が発売日を
纏めてくれているので、
私もその情報を有り難く活用している。

昔は雑誌の隅にほんの少しだけ載っていた
だけだったが、今では表紙を飾ったり
巻頭数ページに渡ったインタビューも
増えてきた。ドラマや映画の仕事が
増える度に、表紙を飾ることが更に
増えてきている。ピン表紙や、
相手役との表紙など
本屋さんの雑誌コーナーには
可愛い碧でジャックされている。

全部買いたいところだけど、家に帰れば碧が
貰って帰ってきた分があるので
気に入ったものを数冊。
本棚も限界があるし、少しだけ。



「今月のチョイスは何だー?」

夕飯を作り終え、
リビングでさっき買った雑誌を広げていると
碧が帰ってきた。

雑誌の束をペラペラ捲り、
─ほーん、そうきましたか
なんて呟いている。


「これは選ぶと思った」

一冊手に取り、私の隣に腰を下ろした。

それは、色気のある碧が表紙のもの。
この雑誌は本屋で立ち読みすることは
あっても、刺激が強すぎるので
普段は買わない。だが、表紙の碧が
あまりにも妖艶で美しすぎるから、
買わずにはいられなかった。


「だって、これは綺麗すぎて…」

「撮影頑張ったもん。
緊張したけど仕上がりよくて安心。
しかも楓奏にチョイスに入ってたから
嬉しい!楓奏が好きなら、
こういう作品増やそっかな」

「え、それはちょっと嫌。
私は独り占めしたい」

「だよね」

満更でもない顔でニヤけている。
分かって言ってるんだよな、絶対。

ちょっと悔しくて、強引に碧を引き寄せ
両手で頬を包み込むと、
ぷにゅっと挟んでやった。

「ふぇ、にゃにすんの」

ムッとしている。それも全て可愛い。
これは絶対…

「キスされるかと思った?」

血色の良かった頬が、
更に紅潮していくから分かりやすい。


白くてもちもちした頬へ吸い付くと、

「んも、そっちじゃなくて」

なんて言って唇を尖らすから
ズルいんだよね。

「お姫様のお望みを
叶えて差し上げましょう」

再び頬を包み込み、そっと唇を重ねる。


「さ、ご飯にしよ」

そう言ってぱっと離れると、
物足りなさそうな顔が見えたが
このままいくと碧のペースに
飲まれてしまうから、我慢我慢。





「月末、友達がうちに来ることになった」

「そーなんだ、誰が来るの?」

「この人」

碧がトントンと雑誌の表紙を叩く。

そこには今放送中のドラマの主演の二人が。
碧と、同世代のイケメン俳優。
美と美の暴力に耐えきれず
買ってしまった訳なのだが
実物を拝んでもいいんですか─

「まじ?」

「マジだよ。カップルで遊びに来るって。
手料理振る舞いたいから、
練習付き合ってほしい」

「おっけ。何作る?苦手なものや
リクエストとか聞いておいてね」

「うん。聞いとく」


バラエティ番組で料理を披露したとき、
碧が披露した料理が酷すぎて
めちゃめちゃ笑われた。ファンからも
〝ヤバすぎ〟と言われてしまい、
負けず嫌いで努力家な碧の心に火がついた。
そこから偶に
ご飯を担当してもらうようになった。


最初はのお米の研ぎ方すら分からない、
適量や少々という曖昧な表現が苦手らしく
入れ過ぎたり逆に薄すぎたり。

朝食にホットケーキを焼いてくれたとき
なんて、塩と砂糖を間違えてペタンコ
そしてしょっぱいものが
出来上がったことがあった。

それはそれで愛おしいし、
どうにかアレンジすれば食べられるので
美味しく完食した。



徐々にだが、作れる料理が増えてきた。
本人も楽しそうにしているし、
一緒にキッチンに立つこともできて幸せだ。

そして今はレトルトや、混ぜるだけで
美味しいものができる、良い時代だ。
私もちゃっかり使っている。
全部自分で作る時間が無いもの。

「ふー、袖濡れそう」

「あー、はいはい、ちょっと待ってー」

シンクで洗い物をしている碧の
袖を捲ろうと軽く腕を掴む。
私自身、細いほうだと思っていたが、
碧の手首があまりにも細くて
ドキッとしてしまった。
骨自体の細さが違うのであろう。

普段と違うシチュエーションで触れると
何だかすごく、ドキドキする。



リクエストはグラタンと、肉系。
あとはお任せということなので、
朝から二人で手分けをして作ることにした。

碧は半熟になるよう茹でた卵を
ひき肉で包み、ハンバーグを作っている。
成形に苦戦しているようだが、ここまで
できるようになったのはとても感動する。

そして私はその横で、大きめの耐熱容器に
色とりどりのマカロニやベーコンを入れ、
ホワイトソースやチーズをのせ、
オーブンへ。グラタンって
簡単で美味しいのでよく作る。

そして冷蔵庫に残っていた野菜を
細かく切り、野菜スープに。ほんの少しだけ
カレー粉を入れるのがポイント。

レタスを千切っていると、
碧のスマホが鳴った。

「もしもし、着いた?」

「荷物あるらしいから、
私下に取りに行ってくるね」

「了解」

「「お邪魔します」」

碧と今日の訪問客がやってきた。

「おまちしてました。はじめまして、矢野楓奏です」

「はじめまして。
青野燿(あおのひかり)です。そして僕の
パートナーの眞崎朔人(まさきさくと)」

テレビでよく見る青野さん。
実物も凄く綺麗な人だった。
想像よりも背が高い。

その隣には青野さんと同じくらいの
背丈の男性。少しガッシリとしているが、
顔はくまさんみたいで可愛らしい。

「はじめまして。眞崎です。
あの、これお土産です」

「わざわざありがとうございます」

可愛らしい袋を受け取った。
ケーキだろうか。


男性カップルだとは聞いていたので
驚きはしなかったが、
パッと見はカップルだという感じがしない。


「うんま」

ガツガツ食べてくれているので
作った甲斐がある。嬉しい。

「これ、上本が作ったの?マジ進歩じゃん」

「でしょーハンバーグ以外は
楓奏が作ってくれたんだよ」

「やっぱり?急に作れるように
ならないよな。楓奏さん、美味しいです」

「ありがとうございます。お二人は
いつもご飯はどうされてるんですか?」

「外食や出前が多いです。僕ら二人共、
生活の時間帯がバラバラなので」

「たまに燿が作ってくれますよ。
無駄にチャーシューから作り出したり。
ラーメンとか、丼ものが多いです」

「いいですね。
美味しいレシピあったら教えてください」

「もちろん!僕もこのスープ作りたいので、
後で教えてください」

話していくと緊張が解けたのか、
燿さんが朔人さんにべた惚れしていることが
すぐ分かった。食後に手土産に貰った
ケーキと紅茶を飲みながら話す。

「こいつ、カメラマンしてるんですけど
全然僕を撮ってくれなくて」

「プライベートで撮りまくってたら
疲れるんだよ。
ファインダー越しじゃなくて、
直接目に焼き付けたいんだってば」


なーんだ、
めちゃめちゃお互い大好きなんじゃん。

「燿は特別だから」

そう言って朔人さんは
愛おしそうに燿さんを見つめる。

「なに言ってんだよ恥ずかしいだろ」

頬を赤らめながら耳を引っ張る燿さん。



「ねぇ青野、もしかしてそれ…」

「ああ、これ?朔人とお揃いのピアス。
上本がプレゼントしたって聞いて、
僕らは片耳ずつ着けてんの」

二人の耳には、私が碧から貰った
ピアスと同じブランドの
少し違ったデザインのピアスが。
私も今、貰ったピアスを着けてるんだけど。

「いーじゃん!
私も楓奏とお揃いで着けたかったんだけど、
色違いで着けてんだよ、ほら」

─それは知らなかった。
お揃い…じゃなくて色違いなのか。

「碧、もしかしてそれが例の?」

「そう。次は絶対お揃いにしようね」

「もちろん」



*




噂になったのは、
耀さんカップルが来た時に撮られたから。
上手く碧と耀さんだけが写るように
撮られており、荷物を持ってマンションに
入っていく姿なんて、普通の人が見たら
カップルに見えるのは仕方がない。
しかも共演していて、
美しい二人はお似合いだ。


まぁね、こんなの気にしていたら
キリがないし、私達は何も変わらない。


碧のマネージャーや
仲のいい碧の仕事仲間には私達のことを
話しているが、公表はしていない。
同性が仲良くしていたって、
仲のいい友達にしか見えないであろう。
少々いちゃついていたって、
特に女同士なんて違和感は少ない。
さすがに外でキスなんてものは
しないけれど、二人で手を繋いで
買い物は余裕でできちゃう。


*



一年の最後の日。
私はテレビ局に車を走らせる。
歌を歌う者にとっては大舞台である某番組の
生放送を終えた碧を迎えに行くのだ。

関係者口から碧が出てきた。
黒いベンチコートを着ているため、
シルエットが可愛い。

「楓奏、ありがと。
そして明けましておめでとう」

そう言いながら助手席に乗りこんでくる。
ふと時計を見ると、もう既に
年を越していた。

もう既にメイクを落としたようで、さっき
テレビで見たキラキラ感は無かったが
肌はつやつやしていて綺麗だった。


「お疲れさま。今年もよろしくね」

ふわりと微笑み返してくれる天使、
じゃなくて碧。
周りにはあまり知られていないだろうが
本当、私がべた惚れなのである。


「それじゃ、レッツゴー!」

疲れを感じさせないほど元気だ。
久しぶりに二人で遠出。
ぐっとハンドルを握り、アクセルを踏んだ。



中心部を過ぎれば、東京であっても
大晦日というか元日?は静かだ。
お店のネオンもほとんど消えていて、
出歩く人も少ない。

「いい風」

碧は窓を開け、夜風にあたっている。
外からの風がひんやりしていて心地良い。

暫く当たっていると寒くなってきた。

「碧、寒いから閉めて」

「えー、いいじゃん」

「高速乗るから危ないでしょ」

「しかたないなぁ」


窓を閉めても、
まだほんのり寒くて暖房をつけた。

暫くすると、疲れていたのか碧は
うとうとしだしたので、自分の膝の上の
ブランケットをかけてやった。







5時15分ほど前、タイマーが鳴った。

〝初日の出を一緒に見たい〟
そうリクエストしてきた碧は
相変わらず眠っている。

起こさないようそっと車から出ると、
空はほんのり赤くなり始めていた。
深い紫と青
そして赤みを帯びたオレンジ色。
もうすぐだろう。

「そーら、起きな!」

もぞもぞと動きながら
ブランケットを抱きしめている。

「初日の出、見るんでしょ。
もう出かけてるよ」

ゆさゆさと揺らせば、
「ヤバッ」なんて言いながら飛び起きる。


遠くの地平線から徐々に太陽の輪郭が
見えてくる。山も全て赤く照らし、
まるで燃えているようだった。



「ねぇ楓奏…わたし、
アイドル辞めようと思うの」

朝日に照らされながらそう呟く碧の顔は、
真剣だった。そして、強く美しかった。



*



あれから数年が経った。

アイドル卒業後女優に転身した碧は
海外に挑戦したいといって飛び立った。

私も東京にこだわる必要が無くなった為、
職種を変え、結局転勤で地方に配属された。
住んでいるのはあの大きな部屋ではなく、
質素な1LDK。
田舎だから家賃や生活費が抑えられる。
節約にもなるし私にはやりたいことかある。


離れていても頑張れるのは、
この指輪のお陰かな。

お揃いで買ったペアリング。
シンプルなシルバーだけのリングだが、
裏の刻印は私達だけの秘密。


結婚なんていう法的な契約ができない
私達の関係。
それができなくても私達は
一緒に居たいと思う。



さぁ、飛ぼう。





※この物語はフィクションです


今回当時した人物達は今後の違う物語にも出てくるかも!?
まだ未定ですが、出したい気持ちはあります!


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