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人生が変わる哲学書 浅田彰『構造と力』の正しい読み方

四ツ谷:『構造と力』って知ってる?

高端:なんそれ?

北山:浅田彰が書いた哲学書ね。1980年代のニューアカデミズムブームを牽引した本で、おもに構造主義とポスト構造主義について書いてる。ニューアカデミズムの定義はけっこう難しいけど、①歴史学・人類学など人文社会系の学問を横断していること ②論文の形式に限定せずエッセイ的な表現をしていること などがあるらしい。とにかく凄いブームだったんだ。

そのニューアカのヒーロー格が、宗教学者の中沢新一と経済学者の浅田彰。『構造と力』自体は「誰が理解できるの?」ってくらいめちゃくちゃ難解なのに、15万部を超える大ヒットを記録した。これは出版業界の大事件なんだ。しかも、当時はお洒落な若年層がこぞって読んでいたみたい。「誰も理解できずファッションとして消費されていた」とも言われているくらい。

四ツ谷:説明が長いな。社会学研究科修了の悪い癖が出てる。
その『構造と力』が40年ぶりに文庫化されたらしい。みんなで読もうぜ。現代思想なんて最高にお洒落だし、インテリみたいでかっこいいじゃん。

高端:そんな難解な本を理解できるのか……?

北山:我々出版に関わる人間に理解できなかったら、ほかの誰が理解できるというんだ。楽勝でしょ!

(年末年始を使って読んできた3人)

四ツ谷:どうだった……?

北山:なんとか……ね……。

高端:ああ、難解は難解だけど、よく理解できたよ。ふう、ひと苦労だったな。つまり、こういうことだ。『構造と力』を読むべき理由は3つ挙げられます。ひとつめ、構造主義及びポスト構造主義をきれいに整理された形で理解することができる。

北山:!? ふたつめ、知的好奇心をそそられる。みっつめ、新しい生き方を提示してくれる……。

高端・北山:!? いかに私たちが周囲の社会、及び構造に縛られているかを知ることで、新しい価値観、生き方を模索することができるのです……。

四ツ谷:なんか聞いたことあるな。もしかして、二人ともこの解説動画見た?

北山:バレたか。解説動画からパクりました。ごめんなさい。正直に言うと、マジでちゃんと読んできたけど、まっっったく理解できなかった。

高端:だって、本編の書き出しがこれだぜ。

はじめにEXCESがあった。この命題はすでにミスリーディングである。はじめにXがあったと言うとき、Xは何らかの実体としてイメージされるだろう。EXCESとは、しかし、そのような確実の原点なのではなく、むしろ、デリダのいう差延化……(略)

本文より

北山:書評とかを読んで、ようやく「構造主義とポスト構造主義を整理したうえで、近代の生き方を実戦的に模索している」ということが理解できたくらい。

高端:あの解説動画、めっちゃ分かりやすかったわ。本来、分かりやすいとされている「序に代えて」すら、動画のおかげで理解できたくらい。

四ツ谷:それにしても「序に代えて」はカッコよかったな。

北山:言い回しがめちゃくちゃクールだよね。真似したくなる。俺たちも「この本を理解できるか」ということを考えるのは辞めようよ。二値論理に合わせて答を出すのは共通一次試験で卒業しようぜ。

四ツ谷:お、さっそく引用してる。バカ丸出しだ。

高端:うん。ノリつつシラケるべきだ。理解できなくても楽しんでいい。答えに△を出せばよい。本と娼婦は、ベッドに連れ込むことができるからね。

四ツ谷:こいつもか……。理解できてないくせに。

北山:ひとつのパターンを後生大事に守り抜くことは寺院にこそふさわしいのさ。

高端:俺たちも、すっかり『構造と力』を身に着けられたな。流石に我々も受験戦争の歴戦の勇士(!?)なだけある。

四ツ谷:全員私立文系のくせによく言うよ。浅田彰は京大経済学部だぞ。

北山:おれは国立ですけど!!

四ツ谷:お前が国立なのは、大学院からだろ!!

高端:まあまあ、北山が私大卒か国立卒かなんて二値論理にこだわるのは辞めよう。そんな問いは、共通試験で辞めたはずだろ。こいつは私大でもあり国立でもあるんだ。

北山:そうさ。俺はひとつのパターンを後生大事に守り抜くことを寺院に任せたスキゾなインテリなのさ。

ちゃんと色々勉強してきたんです

四ツ谷:なんか茶化してるみたいになっちゃったけど、この茶化し方は割と浅田彰の本意に則しているかもね。マジでシラケつつノリ、ノリつつシラケてる。

高端:ああ、読み方としては完璧だ。『構造と力』をどう理解するかという問いにまともに答えず、問題そのものをズラすことに成功した。

北山:浅田彰氏がこの記事を読んだとして、優雅に肩をすくめてやりすごして欲しいね。

編集部註:お分かりの通り、本記事は『構造と力』からの引用が死ぬほどあります。


北山:1994年生まれ。ライター。「文春オンライン」、「プレジデントオンライン」などに寄稿。共著に『紫式部と源氏物語の謎』(プレジデント社)。奇妙な老成と温室育ちの幼さとを兼ね備えている。署名は(円)。

四ツ谷:1996年生まれ。学術書編集者。この記事を書きながら、はや投げ出したいような気分になっている。浅田彰について論ずる? まだ何か論ずべきことが残っているかのようなふりをして? 署名は(四)。

高端:1994年生まれ。医療系メーカー勤務。廃墟の腐敗と頽廃の中から舞い上がるヨタカがミネルヴァのフクロウよりも高くとぶ一片の可能性に賭ける程度には、楽観主義者。署名は(高)。



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