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これからの医療の話をしよう

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医療について考えた記事を集めます
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記事一覧

ノンクリティカル・ノンビジネス・パラダイムの医療界

ノンクリティカル・ノンビジネス・パラダイムの医療界

今日は、先月開催されていた日本医学放射線学会総会の内容を踏まえてのお話です。

こないだ放射線科医アカウントの雄@economics_dr先生が、学会の特別企画の内容について激おこされてたんですね。

(↑この後、スレッド続いてます)

ご存知の通り、働き方改革は江草としても関心の高いトピックですから、この放射線学会公式による働き方改革のセッション企画は気にはなっていたんです。ただ、配信が開放され

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イメージ・インタープリテーション・セッションをAIが荒らす日

イメージ・インタープリテーション・セッションをAIが荒らす日

たまには放射線科っぽいトークでも。

放射線科と言えば、「AIに仕事を奪われる仕事」の筆頭としてあげられがちですが、放射線科業界の偉い先生方からの「そんなことはないぞ」という主張が目に付きます。

(一応、非医療系の読者のために補足説明しておきますと、ここで言う「放射線科医」はレントゲンやCTやMRIなどで撮影した医用画像を見て病気を見つけたり診断する仕事を担当してる医師です)

たとえば、今回総

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真の「不労所得」を得ているのは誰か

真の「不労所得」を得ているのは誰か

医師の働き方改革が始まったものの、病院当局による斜め上すぎる発想の改革の実態が露わになって来ています。

江草の観測範囲では、特に先日出たこの報道に対する反響が大きかったですね。

医師の位置情報を常に追跡し、医局(※病院内にある医師たち専用のスタッフルームみたいなもの)に戻った瞬間に休憩時間扱いにすることで、働き方改革の労働時間規制を免れようとするなかなかに斬新な発想です。

これに対し、医師ア

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韓国医学部定員増員騒動に見る医療界改革の難しさ

韓国医学部定員増員騒動に見る医療界改革の難しさ

ここのところ、韓国で医学部定員を巡って大騒動になってるそう。

医師の働き方トピックに強い病理医の榎木英介先生がXでポストしてくださってて知りました。

めちゃざっくりまとめると、将来の医師不足を見越して医学部定員の増員を強行した政府に対し、医師団体が反発。中でも若手の研修医たちが一斉退職する事実上のストライキ的な抗議行動に打って出たために、医療現場が回らなくなりおおわらわとなってるという状況のよ

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「医学部入学定員の漸減の必要性」は火を見るより明らかなのか?

「医学部入学定員の漸減の必要性」は火を見るより明らかなのか?

先日、厚労省で「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」が開催されたそうで、医学部定員に関する議論をまとめた記事が流れてきました。

江草も以前、医学部定員増減問題については色々と調べたり考えたりしていた時期があったのですが、最近は他の事に主要な関心が移っていて、久しぶりに見かけたなあという感覚です。

で、今はどんな議論になってるのかなと思ったら、案の定、雰囲気はたいして変わっておら

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甲南医療センター専攻医自殺問題の報道特集を見たよ

甲南医療センター専攻医自殺問題の報道特集を見たよ

甲南医療センターの専攻医自殺問題の報道特集を見ました。

(↑アップ後に詳細な記事が出てるのに気づきリンク追記)

たまたまテレビをつけたらやってた、という感じで全然狙って見たわけではないのですが、Xでも話題になった事件でもあり、ついつい見入ってしまいました。

総じて、番組としては、秘匿されていた第三者委員会の調査報告書を暴露したり、遺族側のインタビューは密にあったりと、黙秘を続ける病院側に批判

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医療費増大と医療技術の進歩のジレンマ

医療費増大と医療技術の進歩のジレンマ

前回からの続き。

前回は、個々の薬の費用対効果に注目すると医療費総額の問題を見落としやすくなるよという注意点を紹介しました。

これだけでも十分に大事な話なのですが、今回はさらにここから発展した議論を展開してみます。

「なんで抗がん剤も批判しないの?」に潜む意味さて、前回も引用させていただいたこちらのポスト。

長文で書いてくださってるおかげで、こうした新薬問題に対して取られる典型的な態度の一

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新薬の費用対効果の議論で見落とされやすいこと

新薬の費用対効果の議論で見落とされやすいこと

認知症の新薬の「レカネマブ」が保険収載されることが決定されました。

高額な薬で、年約300万円に及ぶ薬価に注目が集まっています。

患者自身の自己負担は高額療養費制度で抑えられるものの、その残りは健康保険側が負担することになります。ただでさえ医療費抑制の声が高まってる中で「高すぎる」という批判がやはり多々生じているようです。

一方で、他にも同様に高額ではあるが有効な薬があることや、介護費用や介

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『白い巨塔が真っ黒だった件』読んだよ

『白い巨塔が真っ黒だった件』読んだよ

大塚篤司『白い巨塔が真っ黒だった件』読みました。

「SNS医療のカタチ」というSNSでの医療情報発信活動にも精力的に参画していることで知られる皮膚科医の大塚篤司先生によるフィクション作品です(他の方と違ってどうしても医師の方の名前には「先生」と付けてしまいたくなるのは職業病なのでお許しを)。

大塚先生はつい最近の2021年に近畿大学医学部皮膚科学教室の主任教授に就任されたのですが、実際に教授に

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『脳外科医竹田くん』に関する私見

『脳外科医竹田くん』に関する私見

昨晩、話題のマンガ『脳外科医竹田くん』に関する私見をTwitterで長スレッド投稿しました。

けっこう頑張って書いたので、せっかくだしnoteにも置いておこうかなと。

以下、ツイートからのコピペです。

話題のマンガ『脳外科医竹田くん』を読みました。噂に違わず閲覧注意レベルのショッキングな内容ですね。しかも(あくまでフィクションという建前ですが)現実の医療事故事例に酷似しているということで、実

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本当に医療界は善くあろうとしてるのか

本当に医療界は善くあろうとしてるのか

昨日書いた記事。

その後、自分のObsidianにダイブしていたら、過去に全く同じような内容をツイートしていたことが発覚しました。

人間、意外と変わらないものですね。

自分でも忘れてた過去の自分のにヒョコッと遭遇できるのがObsidianみたいなPKMツールを使うことの面白さです。

さて、せっかくなので、このツイートスレッドの続きも貼っておきます。

この辺も今も全く同じ気持ちでありまして

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ここんとこ学会の「医療倫理」の教育講演のテーマが臨床研究規制の話ばかりに偏ってる件

ここんとこ学会の「医療倫理」の教育講演のテーマが臨床研究規制の話ばかりに偏ってる件

今週末行われる日本医学放射線学会秋季臨床大会のプログラムを見ていたのですが、ここんとこ放射線科関連の大きな学会の「医療倫理」の教育講演のテーマがずっと「人を対象とする研究・臨床研究に関する規制」についてなんですよね。

軽く過去数回の春と秋の大会のプログラムを見てみたところ、ここ最近はやっぱりずっとそうでした。

研究倫理と、規制を遵守することによる手続的正義の確保はもちろん大事ですし、江草もこん

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「効果があるから」だけではただちに「やるべき」とは言えない

「効果があるから」だけではただちに「やるべき」とは言えない

地域枠関連の記事を読んでため息をついています。

地域枠制度はより一層推進されていくことが既定路線のようです。

読んでて色々と文句はあるものの一番気持ち悪いのは「地域枠は地元定着率が高いというデータがあるから」としてさらなる推進の根拠とする雰囲気です。

当然ながら何事も「効果があるから」だけでは「やるべき」とは言えません。

とある薬に全生存期間を伸ばす効果があったからといって、それだけでただ

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Twitterで議論はしちゃいけないよと

Twitterで議論はしちゃいけないよと

今週は疲れておりついついTwitterを眺めていたら、白饅頭氏と医クラの口げんかが盛り上がっていて、相変わらずいつものSNSでした。

まあ、医療者が氏の発言に怒りを覚え不快に感じる気持ちも分かるのですが、氏の問題提起自体はそれはそれでけっこうクリティカルなポイントに近接してそうな話なので(江草の解釈では)、別に氏に同意はする必要はなくとも、一蹴せずその主旨の理解にはもう少し努めてもよかったのでは

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