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芸術祭/国際展

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国際展に新風を吹き込む匿名の動画という挑発

国際展に新風を吹き込む匿名の動画という挑発

京都で国際展がはじまった。ウィリアム・ケントリッジや蔡國強、ピピロッティ・リストら、参加アーティストの名前は華々しい。美術館やアートセンターのほか、庶民的な団地も展示会場としているため、従来の古都とは異なる京都を堪能することもできる。

とはいえ国際展としては、とくに目新しい特徴がなかったことは否定できない。事実、横浜や愛知、札幌など都市型の国際展はすでに飽和状態にあり、欧米のアートをパッケージ化

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西野達 in 別府

西野達 in 別府

西野達は反転のアーティストである。外側にあるものを内側に反転させ、あるいは水平方向にあるものを垂直方向に転倒させ、さらには従属的なものを主体的なものに逆転させることで、公共空間を私的空間に鮮やかに変容させる。そうした基本的なアイデアを十分に理解しているつもりでも、じっさいに作品を目の当たりにすると、そのあまりにも極端な異化効果に大きな衝撃を受けるのである。

本展は西野達の新作展。別府市内の各

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奥能登国際芸術祭2017

奥能登国際芸術祭2017

石川県能登半島の先端に位置する珠洲市を舞台に催された初めての芸術祭。国内外のアーティスト40組が、市内の随所に作品を展示した。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(2000~)をはじめ、「瀬戸内国際芸術祭」(2010~)、そして「北アルプス国際芸術祭」(2017~)に続く、北川フラムによる芸術祭のひとつだが、開催規模も土地の風土もそれぞれ異なるとはいえ、これらのなかでもひときわ鮮烈に輝く

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北アルプス国際芸術祭2017 ~信濃大町 食とアートの回廊~

北アルプス国際芸術祭2017 ~信濃大町 食とアートの回廊~

長野県大町市を舞台とした芸術祭の初回。総合ディレクターに北川フラムを迎え、国内外のアーティスト36組による作品を、市街地をはじめ大町ダム、青木湖、温泉街などに展示した。同じディレクターであるため必然的に「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」や「瀬戸内国際芸術祭」と比較しながら鑑賞することを余儀なくされるが、何よりも特徴的なのは、その開催規模である。先行する2つの国際展とは対照的に、本展の会

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ユートピア・ヘテロトピア 烏鎮国際現代美術展

ユートピア・ヘテロトピア 烏鎮国際現代美術展

中国・浙江省の観光都市、烏鎮で催された国際展。烏鎮は「東洋のヴェニス」とも言われる水都で、地政学的には上海と杭州のあいだに位置する。古い街並みを人工的に保存した街は、中国人観光客の人気が高い。訪ねた初日は平日だったにもかかわらず、じつに多くの観光客で賑わっていた。

会場のひとつである西柵観光地は、ある種のテーマパークである。ビジターセンターで入場料を支払うと、巨大な湖を中心に形成された街に立

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おおいたトイレンナーレ2015

おおいたトイレンナーレ2015

大分市の繁華街で催された芸術祭。昨今、都市型の芸術祭はおびただしいが、この芸術祭の特徴は「トリエンナーレ」ではなく「トイレンナーレ」という名称にあるように、会場をトイレに限定している点にある。だから来場者は市内に点在する公共施設から百貨店、雑居ビル、飲食店、商店、公園などにあるトイレを探し歩くことになる。もちろん、尿意を解消するためではない。作品を鑑賞するためである。

参加したのは、西山美な

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PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭2015

PARASOPHIA:京都国際現代芸術祭2015

京都で催された国際展。国内外から招聘された約40組のアーティストが参加した。見どころはウィリアム・ケントリッジをはじめ蔡國強、ピピロッティ・リストら、欧米圏で活動する著名なアーティストが数多く参加している点で、それらの作品が京都市美術館を中心に、鴨川の河畔、庶民的な団地の一室、書店などにそれぞれ展示され、美術館から街への導線を強く意識した構成となっている点も大きい。

しかし、全体的な印象は中

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鳥取藝住祭2014

鳥取藝住祭2014

鳥取県内の各所で催された芸術祭。「芸住」とは芸術が日常生活のなかに住む理想的な状態を指した造語で、アーティスト・イン・レジデンス(AIR)を通してその実現を図るという趣向だ。国内外から20組あまりのアーティストが県内の随所に滞在しながら作品を制作した。

ただ、こうしたAIR事業を的確に評価することは甚だ困難を極める。滞在が長期にわたる場合、その進行過程を逐一観察することは事実上不可能であるし

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六甲ミーツ・アート芸術散歩2014

六甲ミーツ・アート芸術散歩2014

六甲山の観光地を舞台にした芸術祭。ケーブルカーや公園、植物園、ホテルなどに展示された作品をバスで周遊しながら鑑賞するという仕掛けだ。参加したのは淺井裕介、宇治野宗輝、太田三郎、加藤泉、金氏徹平、鴻池朋子、西山美なコ、三宅信太郎ら40組あまりのアーティスト。六甲山の観光地が手頃なサイズなので、ほぼ一日あれば、すべての作品を鑑賞して見て回ることができる。

昨今の芸術祭や国際展にとって、アート・ツ

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ヨコハマトリエンナーレ2014「華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」

ヨコハマトリエンナーレ2014「華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある」

昨今の地域型国際展や芸術祭に出品される作品の多くが、その土地の「記憶」を主題としがちなのに対し、本展のアーティスティック・デイレクターである森村泰昌は「忘却」をテーマとして掲げた。その超然とした態度には、そうした国際展や芸術祭がアートツーリズムに全面的に依拠していることへの批評性も、おそらく多分に含まれているのだろう。会場に漂っている静謐な雰囲気は、賑やかしを演出するアートを断固として拒否する明快

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中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス

中房総国際芸術祭 いちはらアート×ミックス

房総半島の中央にある市原市を舞台にした芸術祭。小湊鉄道の沿線に60組あまりのアーティストによる作品が展示された。「大地の芸術祭」や「瀬戸内国際芸術祭」と同じく、過疎高齢化という問題を基礎にした地域型の芸術祭である。先行する2つの芸術祭になくて、この芸術祭にあるのは、鉄道を主軸にした会場構成。運行数が少ないせいか、実質的にはバスでの移動がメインだったにせよ、山間を走る鉄道に乗って作品を訪ね歩くという

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絵はがきの別府展

絵はがきの別府展

大分県の別府市で行なわれている国際展「混浴温泉世界」は、じつは「別府アートマンス」というより大きな枠組みのなかに位置づけられている。これは市民による総合芸術祭で、現代アートのみならず、工芸、陶芸、書、ダンス、音楽など、さまざまな芸術ジャンルのイベントが、「混浴温泉世界」の会期に合わせて連続的かつ同時多発的に催されるのだ。

「混浴温泉世界」の作品を探して街をうろうろ歩いていると、いたるところで

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混浴温泉世界2012

混浴温泉世界2012

大分県別府市で催されている国際展の2回目。「混浴」というフレーズに示されているように、現代アートをはじめ、ダンス、音楽、パフォーマンスなど、さまざまなジャンルをミックスした国際展で、温泉街や商店街、空き店舗、海岸の埠頭などに作品が展示された。

小沢剛が作品を展示したのは、別府のランドマークである「別府タワー」。もともと常設されている「アサヒビール」という電光掲示板の文字を任意に明滅させること

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大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2012

大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2012

5回目を迎えた妻有のトリエンナーレ。海外の著名なアーティストを招聘することより、地域に入り込んで持続的な表現活動に取り組むアーティストを重視しつつあることや、芸術祭のなかで特定のテーマに絞った展覧会を開催するなど、ここ数年で成熟期に入ったように見受けられる。ボルタンスキーの《最後の教室》やタレルの《光の家》、日大芸術学部彫刻コース有志による《脱皮する家》など、定番の作品が充実してきたことも大きい。

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