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『四顧溟濛評言録』

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私、雁琳が書を読み世事を鑑みる中で私かに惟うことを綴りました、中編から長編の文章を載せて参ります。「溟濛」とは薄暗く先の見えないことを指します。どこを見渡してみてもこの暗い世の中… もっと読む
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#エッセイ

「歴史家達の闘い」についての雑感

 最近、主に歴史学周辺で「知識がない人の自由な発想」の問題が大きな論議を引き起こしているようである。一躍ベストセラーとなった『応仁の乱』(中公新書、2016年)をはじめ、多くの専門的な啓蒙書を上梓している気鋭の日本中世史研究者の呉座勇一氏(国際日本文化研究センター助教)は、百田尚樹氏や井沢元彦氏、或いは久野潤氏や八幡和郎氏といった、歴史学者ではないが歴史についての通俗書を執筆している著述家達と日夜

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「地元の名士と若旦那」の豪遊と衰退−JC京都会議の思い出からの連想

 一年に一度、千年の古都の繁華街である祇園と木屋町に札束が降って来る時期がある。高級な背広を着て、胸には同じバッジを付けた大勢の生まれの良さそうな「青年」達が全国からこの街に集まっては、連れ立って夜の街を闊歩し、そこら中でタクシーを飛ばす。彼等は、公益社団法人日本青年会議所(公式略称JCI Japanだが、通例JCと呼ばれている)の会員であり、地方の中小企業の社長であったり、開業医であったり、自分

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何故女ばかりが「男でも女でもなく「人間」として見て欲しい」と言うのか

 

 「男でも女でもなく「人間」として見て欲しい」という言葉を何故女性ばかりが言い立てるのか。しばしば「(多くの西欧語でそうなっているように)旧来の価値観では「人間」とは男性であって、女性は「人間」扱いされていないからだ」などと言われるが、女性が「人間」扱いされているか否かは一旦措いておいたとしても、男性身体に基づく身体図式(認識と行為或いは感覚と運動の連関構造による、身体経験を通した自己理解と

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「ジェンダー」は何故「セックス」へと舞い戻るのか−猥語と身体

 

 中央アジア、トルクメニスタンはアハル州にあるダルヴァザという村には、「地獄の門」というクレーターがある。1971年に地質学者がボーリング調査をした際、偶然にも天然ガスに満ちた空洞にぶち当たってしまい、採掘現場諸共奈落の底に落ちる落盤事故が起き、直径50mから100mに至る巨大な穴が空いてしまった。有毒ガスの流出を防ぐために火を灯すことになったが、地下から滔々と溢れ出る可燃性ガスのために以来

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加速する「暗黒」と人間の「影」

再び、「加速」について

 日月が天を巡る速さは古より変わらねども、人の世の動き行く速さは年月の経るにつれていよいよ増しつつあるように感じる。これも偏にインターネットなるものが、距離を越え間髪も入れずに吾々同士を繋ぎ合わせているからであろう。我々は最早「報せを待つ」ことを知らぬと言ってもよい。総ての情報は今や全地球を覆い尽くすようになった電光石火の回線によって瞬時に伝わってしまうのである。経済の根

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催眠術と〈メタコミュニケーション〉の時代

 いつの事だっただろうか、飲み屋か何かで催眠術師にたまたまお会いしたことがある。催眠術を修得しているという人物に会うのは初めてだったので、色々と興味深く話を聞いたものである。彼は、とある別の人の私的なセミナーのような会合に出て、催眠術の技法を授けてもらったのだと言う。催眠術というのはそうやって秘かに伝承されているものなのかなどと感慨を抱いたものである。
 そうして話が盛り上がる内に、実演してみよう

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