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語り場ダイナー

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映画の感想を、会話文を用いて書き連ねています。
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episode7:ジョー・ブラックをよろしく

episode7:ジョー・ブラックをよろしく

「速水さぁ、"ジョー・ブラックをよろしく"って観たことある?」
「ちょっと昔の恋愛映画だっけ? 名前は知ってるけど」
日野は、椅子をクルクルと回転させながら足を伸ばした。
「いい映画だよ。なんていっても、単純な恋愛映画じゃないんだ」
「ふぅん?」
「主人公のウィリアムは、大きな会社の社長でね。誕生日が近いんだけど、病気だったかなんだかで、嫌な予感がしてる。それで、心の中でずっと問いかけてるんだ、"

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episode6:狼たちの午後

episode6:狼たちの午後

「狼たちの午後、って映画を観たんだ」
日野は、どこかぼんやりとした口調で話し始めた。眠たいのか、どこか夢現じみている。
食材を切りながらも目線を上げると、頬杖をついて遠くを見つめている日野が目に映る。
「……どんな映画だった?」
続きを促すように問いかけると、日野は唇を尖らせて少し黙った。
「実話に基づいた映画でね、お馬鹿な銀行強盗が、人質をとって銀行に篭城するって話。この強盗たちが、本当に笑っち

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episode5:タクシードライバー

episode5:タクシードライバー

「タクシードライバーって映画知ってる?」
日野は、コートの裾をパタパタと弄びながら問い掛けた。店内掃除をしながら、速水は肩を竦めてみせる。なんとなく、名前くらいは聞いたことのある映画だった。
「ロバート・デ・ニーロのやつ?」
「そう、それ。知ってるじゃないか」
「観たことはないけど」
「お勧めだよ」
「ふぅん……どんな話?」
速水が訊くと、日野はポケットから棒付きキャンディを取り出してくわえた。そ

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episode4:スケアクロウ

episode4:スケアクロウ

「スケアクロウって映画を観たことある?」
日野は、いつものように棒付きキャンディを口の中で転がしながら速水に問い掛けた。椅子を回転させる動きが、少しぎこちない。
速水は、かぶりを振った。
「70年代の映画なんだけどね。なんていうかなぁ、ロードムービー……?」
「俺に聞かれてもな」
「そりゃそうだ。で、内容だけど。刑務所帰りの喧嘩早くて大柄なマックスと、5年の船乗り生活を抜けてきたひょうきん者で小柄

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episode3:マイ・ブロークン・マリコ

episode3:マイ・ブロークン・マリコ

「マイブロークンマリコって映画を観たんだけどねぇ、僕は切なくなったよ」
日野は、フライドポテトをかじりながらそう言い出した。速水は、ちらりと視線を向けながらも料理を作る手を止めずに耳を傾ける。
「少し前にね、劇場でやってただろ? だから、せっかくと思って映画館に行ったんだ」
「CMなら見た気がするな。親友が死んで、お骨と旅に行くみたいな」
「そうそう。主人公のシイノが、亡くなった幼馴染で親友のマリ

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episode2:沈黙-Silence-

episode2:沈黙-Silence-

「久々に、三時間近い映画を見てね、気怠い気分だよ〜」
「そうは見えないけどな」
「あはは〜。それでさ、『沈黙』って映画を見たんだよ」
「……ハンニバル・レクターのやつ?」
「それは『羊たちの沈黙』ね。ボケがわかりやすいようでわかりにくいな」
「ボケたことにするな。それで、どんな話だったんだ?」
速水が珈琲を差し出すと、日野はそれをグイッと半分ほど飲み干して口を拭いた。そして、考え考えに話し始める。

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episode1:Doctor Who

episode1:Doctor Who

「宇宙への憧れは、やっぱり人間誰しも持ってるもんなんだろうねぇ」
日野は、ナゲットを口の中へ放り込みながら言った。カウンター越しの視線に、速水は食器を洗う手を止めずにアイコンタクトを試みる。
すると、日野はニンマリと笑って勿体ぶるように油のついた指をペーパーで拭った。
「昨日ね、久々に見たんだよ。宇宙のドラマを」
「宇宙のドラマ、ね」
「何か分かる?」
「さぁ」
「ちっちっちっ。ドクター・フーだよ

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episode0

episode0

──とある、小さなダイナーにて。

「俺はさぁ、エンターテインメントってのはこの世界で一番自由なモノだと思ってるわけ」
日野は、そう言ってテーブルに寄りかかった。年季の入ったソレはぎしりと悲鳴を上げるが、お構い無しに体重を預ける。
「どういう意味?」
呆れているような、続きを楽しみにしているような声で速水は問いかけた。待ってました、と言わんばかりに日野が笑みを深める。
「俺、映画とかドラマとか、終

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